ブルースバンドではなかったムーディー・ブルース | EVERYBODY'S TALKIN'/噂の音楽四方山話

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60年代~70年代の洋邦楽、ジャズ、クラシックの個人的に好きな曲のみをご紹介いたします。また自分のライブハウスでの弾き語りなどの情報、その他の趣味なども。

 淡谷 のり子や青江三奈、あるいは森 進一などが歌っている「●●ブルース」の「ブルース」は、ロバート・ジョンソンや マディ・ウォーターズなどが歌うBluesとは形式も曲の雰囲気も全く違うのに何故日本ではベッシー・スミスではなく淡谷 のり子がブルースの女王(もしくは女帝)と呼ばれているのか?ということが昔からの謎だった。(笑)
 ところがこのお話はかなり前に解決済のGoodアンサーがあった。それは「日本歌謡曲におけるブルースとは、単に歌詞上の「憂鬱な雰囲気」を表すだけ」で曲調とは関係無しとのことである。
 しかしひねくれ者の私にとっては、これでは笑福亭仁鶴師匠の歌う「おばちゃんのブルース」の歌詞は「憂鬱」なのか?という問題が残る。(笑)

 さて前置きが長くなったが、今回はムーディー・ブルース(The Moody Blues)の「童夢」というアルバムをご紹介したい。
 このムーディー・ブルースの名を初めて聴いたときも、「ブルースのバンドか?」と思っていた。そんなムーディーズ(格付け会社名ではなくムーディー・ブルースの短縮名称)の新しいアルバムが評判を読んでいるというので早速LPコーナーに出かけた。昭和46年の暮れの事である。
 
 すると早速店長のマシンガントークが炸裂。
「ムーディー・ブルース?良いねえ!」
「これ(童夢)確か彼らの3枚目のアルバム!(本当は7枚目のアルバム。3番目に日本に入って来たアルバム、もしくはムーディーズが創設したスレッショルド・レコードの3枚目という意味だったかも知れない。)前のやつも輸入盤で良く売ったよ。」
「何?聴いた事無い?絶対気に入るから!」
「ジャケットが良いでしょ?なんといっても!」
 ということで全く聴いた事はなかったのだが、そのあまりにも美しいジャケットに魅了されてそのまま買ってしまった。
 しかし考えてみるとジャケットが現在のCDのように小さい時代はその傾向は薄れていると思うが、大きなジャケットだったLP時代は確かにジャケットの善し悪しで売れ方が変わっていたような気がする。実際このように中身を聴いたことも無いのにジャケットが良いので買ったアルバムは他にもあるし、逆に良い曲が入っているので(あるいは話題になっているので)買って見ようかと思ったもののジャケットが良くないので買わなかったアルバムも多々ある。
 それではムーディーズ及び「童夢」のご紹介。

 以下はEvery Good Boy Deserves Favour「邦題:童夢」の曲目リスト
1. プロセッション(エッジ、ヘイワード、ロッジ、ピンダー&トーマス)
2. ストーリー・イン・ユア・アイズ(ジャスティン・ヘイワード)
3. ゲッシング・ゲーム(レイ・トーマス)
4. エミリーの歌(ジョン・ロッジ)
5. アフター・ユー・ケイム(グレアム・エッジ)
6. 生命をもう一度(ジョン・ロッジ)
7. ナイス・トゥ・ビー・ヒア(レイ・トーマス)
8. 家へ帰れない(ジャスティン・ヘイワード)
9. マイ・ソング(マイク・ピンダー)
Sleeve Artist :Phil Travers(フィル・トラバーズ)


 以下がこのアルバム製作時のメンバー。全員が作詞、作曲、ソロボーカルとコーラス、そして複数の楽器をこなせるマルチ・ミュージシャン。当時ムーディーズは世界最小のオーケストラと呼ばれていた。

ジャスティン・ヘイワード(ボーカル、ギター、ピアノ、シタール)
マイク・ピンダー(ボーカル、キーボード、メロトロン、ギター、ベース、チェロ、ハープ)
ジョン・ロッジ(ボーカル、ベース、チェロ)
レイ・トーマス(ボーカル、フルート、サックス、ハーモニカ)
グレアム・エッジ(ボーカル、ドラム、タブラ、ティンパニー、ギター)

 これが「童夢」のジャケットなのだが、何故かこのように色合いの違うものが随分以前から存在している。
Every Good Boy Deserves Favour/Moody Blues

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1. プロセッション
2. ストーリー・イン・ユア・アイズ
 は切れ目なく続く。 「プロセッション」は非常にプログレッシヴ且つクラシック的手法で作られている。この曲の冒頭「Desolation(荒廃)」「Creation(創造)」のコーラスに続きピアノで原題タイトルの「Every Good Boy Deserves Favour」の頭文字「E G B D F」の音がそのまま分散して演奏されるというクラシックではよくある隠し味を入れている。(因みに「E G B D F」の音を分散せずに、同時に鳴らすとEm7にFを加えた不協和音になる。)またこの曲では、プログレ創世期に各バンドが盛んに使用していた「メロトロン」の音が懐かしい。
 2曲目の「ストーリー・イン・ユア・アイズ」は「愛のストーリー」というタイトルでシングル・ヒットしたが、EPバージョンはこれよりテンポが遅かったように思う。

※尚このYOU TUBEにはアルバムが全てまるまる入っているが、取り敢えず最初の2曲だけお聴き下さい。全部お聴きされると話が終わってしまうのでご注意を(笑)

THE MOODY BLUES -- Every Good Boy Deserves Favour -- 1971



 さてここで遅くなったが、ムーディー・ブルースの歴史を少しご紹介 
 彼らは1964年にデビューした世代的にはビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フー等とほとんど変わらないロック黎明期に誕生した古参バンドのひとつ。この「童夢」発表の遥か前の1966年にバンドを脱退したデニー・レインは、後にポール・マッカートニー率いるウイングスに加入したということでムーディー・ブルースを知った人も多かった。
 また、1967年に発売されたシングル「サテンの夜(Nights in White Satin)」は、発売当時は全英19位の中ヒットだったが、1972年にラジオ局から人気に火がつき、全英9位・全米2位・カナダ1位の大ヒットを記録しデオダートがフュージョンでカヴァーするなど発売後5年後に彼らの代表曲となった。

4. エミリーの歌
 この曲は以前にもご紹介したこともある佳曲。全体を通じて見事な「クロース・ハーモニー」を聴かせている。
 The Moody Blues-Emily's Song



6. 生命をもう一度
 LPならSIDE2のトップ。「プロセッション」が回想される。
The Moody Blues Every Good Boy Deserves Favour 06 one more time to live



7. ナイス・トゥ・ビー・ヒア
 こういった非常に親しみやすいナンバーは「童夢」収録曲に相応しい。
The Moody Blues Every Good Boy Deserves Favour 07 nice to be here


9. マイ・ソング
 前述のようにムーディーズは世界最小のオーケストラと呼ばれていたが、それは当時から有名なメロトロン奏者マイク・ピンダーの力によるところが大きい。これはそのマイクの作品。
The Moody Blues - My Song



 最後にデビューから全盛期である1972年の「Seventh Sojourn 」までのデイスコグラフィーを記載してみた。非常にプログレッシヴな作品が既に60年代の中盤から並んでいるのが分かる。ムーディー・ブルースのセールス・ポイントとしてしばしば引き合いに出される「キングクリムゾンやピンク・フロイドより速くにプログレッシヴ・ロックを確立したムーディ・ブルース!」というのが、決してただの売り文句ではなかったことが分かる。


1965年 The Magnificent Moodies (ムーディー・ブルース・ファースト・アルバム)
1967年 Days Of Future Passed (ディズ・オブ・フューチャー・パスト)
1968年 In Search Of The Lost Chord (失われたコードを求めて)
1969年 On The Threshold Of A Dream (夢幻)
1969年 To Our Children's Children's Children(子供たちの子供たちの子供たちへ)
1970年 A Question Of Balance (クエッション・オブ・バランス)
1971年 Every Good Boy Deserves Favour (童夢)
1972年 Seventh Sojourn (セブンス・ソジャーン)