第263話 ドラッグ使用の権利 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第263話 ドラッグ使用の権利

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効果覿面。

歯の痛みは嘘みたいにひいた。


いつのまにか汗ばんでいた掌が

すうっと涼しくなる。


姐さんは

太股の付け根に手馴れた様子で注射を打つと

「欲しかったらグラム2万でいくらでも譲るよ」

と言い残し自分の楽屋へ戻って行った。


久しぶりのスピードは気分も高揚させた。


忘れていた感覚。


太刀打ちできない圧倒的な何かが

感覚、思考、感情といった私の全存在を凌駕していく。


歯の痛みが治まった後も

私は続けざまにスピードを吸い込んだ。



あの日

ユウがシャブボケしたのを目の当たりにして

私は部屋に残っていたスピードを台所のシンクに流した。


不思議とあれ以来

ドラッグに手を出そうとは思わなかった。


大切な人をあんな風にしてしまったことから

ドラッグに対する嫌悪感が私の内に根付いていたのだと思う。


ドラッグは恐ろしいもの。

大事なものを失ってしまう。


そう

私はそのことを身を持って知っていたはずなのに

そんなことは忘却の彼方で

スピードを吸うことに夢中になっていた。


体が軽い。何かをしたい。

ポテンシャルがみるみる上がってゆく。


私はふと

お父さんが送ってくれたもう一冊の本

「フロイト」を手に取って読み始めた。


実は

漫画仕立てとはいえ

書いてあることがいまいち理解できずに

最初の方をパラパラと読んだだけで

放置してあったのだ。


ところが

スピードで覚醒レベルの上がった私は

あっというまに本を読破してしまった。


文字が目を通り越して

脳に直接インプットされていくようで

内容も完全に理解できた。


「すごい! 私、天才かもしれないっ!」


本気でそう思った。


フロイトという精神学者は

無意識を発見した人だった。


人の言動を支配しているのは

全て無意識なのだとその本には書いてあった。


トラウマ

抑圧された記憶

夢診断

肛門期や男根期

エディプスコンプレックス

エロスとタナトス

快感原則と現実原則

トータムとタブー


さまざまな理論は斬新で

しかも納得の出来るものばかりだった。


人間の謎に挑んだフロイトに

絶大な興味を寄せた私は

すぐに本屋に出向いた。


フロイトの書籍を何冊かまとめて購入した。


楽屋に戻ると

出の時間も惜しんで読書に耽った。


スピードのおかげで

尋常ではない集中力を発揮し

何時間でも活字と向き合うことが出来た。


文章が自分の経験と結びつき

適切な引き出しにポンポンと仕舞い込まれていく。


表面的な文字面だけの理解ではなく

きちんと自分なりの観念に昇華されていった。


知的好奇心を満たすことは

スピードをキメてSEXするのと同じくらい気持ちの良いことだと知った。


そして

ある一説が

私の確信を誘った。


フロイトが一時期

コカインを使用していたことが明記されていたのだ。


「やっぱり、ドラッグは悪いものではないんだ!」


科学や文明の発展にドラッグは欠かせないものに違いない

そんな天啓に導かれていくようだった。


だけど

ドラッグは人によって効き方が違う。


ユウみたいに壊れてしまう子確かにもいる。


そのため

法律では禁止されているけれど

きっとドラッグを生産的に利用できる人種もいるのではないだろうか。


こんな風に本を読み

様々な理解を深めていくことが出来るなんて

私にとっては紛れもなくドラッグは良い効き方をしている。


私は神様と繋がっているから

ドラッグを使用する権利がある人間なのかもしれない!


駆け巡る思考は
自分がドラッグを使用するための

正当な理由を見つけだし

それを信じ込ませた。


言い訳ではなくて

正真正銘それが真理だと思えたからだった。


その瞬間

ドラッグに対する嫌悪感や罪悪感は

ものの見事に抜け落ちていった。


ただし

道徳律に沿ったドラッグの使用を固く誓った。


絶対に人には薦めない。

自分一人で全責任を負うこと。


私は何の引っかかりもなく

再びドラッグと共存することを選択した。


いつでも注意深く慎重を期することで

きっとうまくやっていけるという自信に満ちていた。




「私はドラッグを使用する権利のある人間なんだ!」という特権意識が

そもそも覚醒剤の効用によるものだと気がつける余地はなかったんですね・・・。

道徳律と覚醒剤を矛盾なく両立させてしまった私は深みにハマっていきます。

だって、悪いものだと思わなければ、なおさらハマるのは当然だものね・・・。

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