第257話 切実な涙
リュウヤにとって
静香の監視役である私は
疎ましい存在だったに違いない。
私さえいなければ
もっと自在に静香を操ることが出来ただろうから。
リュウヤとケイスケの次なる作戦は
実に巧妙な手口で計算し尽されたものだった。
「俺ね、ギャル系の女の子が好きなんだ」
リュウヤにそう言われて
静香は連日、日焼けサロンに通うようになった。
髪の毛もグレーがかった金髪に染めて
白のメッシュを何本が入れた。
マイクロミニのスカートに
フェイクファーのコート
15センチの厚底のブーツ。
静香の容貌は激変した。
「ストリッパーは日焼けはタブーでしょ!」
私の忠告には耳も貸さず
静香は全てにおいてリュウヤの言いなりになってしまう。
元々静香は
田舎くさい容姿に従順な性格の女の子で
生意気な子が多い業界内では本当に評判が良かった。
だから
静香の豹変振りにみんなが眉をしかめ
段々と仕事を干されるようになっていった。
もちろんストリップも
「あんなに色黒じゃ照明栄えしないから」
という理由で断られた。
リュウヤの魂胆はわかっている。
静香がストリップをしている限り
地方公演は避けられない。
その間の売り上げが落ちることを避けるために
静香に日焼けさせたのだ。
当の静香は
そんなことはどこ吹く風で
毎晩NEOで豪遊して帰ってくる。
心配して私が小言を言うと
静香はあからさまに煙たい顔をするようになった。
話し合いをしていても
お互いが感情的になって
喧嘩に発展してしまうことが度々あった。
「わかってるよ… わかってるけどさ…」
静香はメソメソするだけで行動を改善しようとしなかった。
正論をぶつけるだけの私のやり方は
幼かったかもしれない。
だけど
どうすればいいのかわからず
ついつい口煩くなってしまう。
私がきつく当たると
静香は憂さを晴らすために
NEOで余計にお金を使ってしまう。
解決の糸口を見つけることが出来ず
私はバカみたいに無力だった。
静香が壊れてゆくのを
ただ見ていることしかできないつらさは
思いのほかきつかった。
リュウヤの誕生日まで一週間に迫ったある日
いつものように酔っ払って帰ってきた静香に起こされた。
「まりも、私、ウィークリーマンションに引っ越すよ。
リュウヤ君ね、まりもの家だと気を使って遊びに行けないからって言うの」
私は驚かなかった。
いずれはリュウヤが
私と静香の仲を引き裂くだろうと予測していたから。
「そっか。 引越しはいつ?」
ベッドに腰かけて静香を見詰めた。
「今ね、ケイスケ君が段取りしてくれてる。
すぐに引っ越すことになると思う。高田馬場だから近いよ」
酒臭い静香から
こうやって起こされるのもとうとう終わりか
と思うとさみしさが込み上げてきた。
「それとね、一つお願いがあるの」
静香は言いにくそうに俯いて続けた。
「まりも、昔さ、愛人バンクに登録してたって言ってたでしょ?
紹介してくれないかな? 実は、誕生日のお金が少し足りなそうなんだ」
「ちょっと待ってよ!」
私は思わず大きな声を出した。
あまりにも酷すぎると思った。
「まりも! お願い、何も言わずに…。 お願い!」
静香は私の言葉を遮って両手を合わせ頭を下げた。
私が反対することなど
百も承知のはずだから
よっぽど切羽詰っているのだろう。
「まりもが紹介してくれないなら
私、自分で援助交際するしかないの」
静香はそう言って泣き出してしまった。
私は自分の財布の中から
入っていた万札全てを取り出して静香の手に握らせた。
20万くらいはあった。
「これで、どうにかならないの? 返すのはいつでもいいから!」
私は溢れる涙をこらえることが出来なかった。
「ごめんね… 私、まりもと離れたくないよっ!」
静香はそう言って声をあげて泣いた。
私だって離れたくはない。
だけど、静香はここを出ていく。
そうでしょう?
ホストに本気で惚れた女の子は
ヒリヒリと胸が焼け付くような切実な涙を流すことになる。
それは身の破滅まで続くことになるもかもしれない。
更新遅れて申し訳なかったぁー! 本当は昨日の晩にUPするはずだったんだけど
疲れてて寝ちゃったの。 反省している。 ごめんねぇ。 次回いよいよバースデイ☆
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