第079話 絶望の淵
お腹が痛い…。
私はトイレにいこうと起き上がり
ふらついてしゃがみこむ。
「まだ寝てなさい。」
お母さんの声が聞こえる。
「お腹痛くて・・・ トイレに行きたいの。」
点滴にぶつかりガシャンという音がする。
私はようやく状況を把握して
お腹の痛みは子宮が収縮する痛みなんだと気がついた。
全て終わったんだ。
麻酔がまだ切れていなくて
まっすぐに歩く事が出来ない。
看護婦さんがやってきて
点滴が終わるまでは寝ていてください。
と言われる。
「お母さん、優弥は?優弥来てるの?」
お母さんは切なそうに
私を見て首を横に振る。
「ベルは?ポケベル入ってない?」
お母さんは黙ってポケベルを手渡す。
眩暈を我慢してポケベルを見ると
着信は一つも入っていなかった。
力が抜けていく。
涙が止まらない。
悲しくて悲しくて
この世の悲しみを一身に背負っている様な気持ちになる。
絶望の淵に一人きり
立ちつくしているようだ。
絶望の底ではもう不安は感じないんだと知る。
不安は希望の裏返しだ。
希望が何もなくなった時
そこにあるのは諦めだけだ。
呆然と涙を流しながら
私は吐き気がない事に気がつく。
あんなに気持ち悪くてしょうがなかった
ツワリが全くなくなっている。
私ははじめて
自分の中に赤ちゃんがいたんだと実感が沸いた。
いなくなってはじめて実感が沸くなんて・・・。
言葉に出来ない想いで胸がいっぱいになる。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。
本当に私の中にいたんだね。
もういなくなっちゃったんだね。
理屈では説明できない感情に打ちのめされ
泣きじゃくり閉じた瞼の中まで涙で膨んでいく。
点滴が終わり麻酔が完全に抜ける頃
私からとても大事なものがなくなっていた。
優弥を想う気持ちは
私の中から一切消えてしまった。
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