第037話 優秀なおじさん
「お見合いの申し込みがありました。
明後日の3時に渋谷の東急INホテルの喫茶店に付いたら
こちらに電話を入れてください。」
「あの・・・どんな人が来るんですか?」
「とても優秀な42歳の男性ですよ。
会員歴の長い人ですから安心してください。」
会員歴が長いから安心してくださいか。
それってなんかおかしくない?
そう思ったが私はだまっていた。
「詳しい事は会って直接聞いてください。
気に入らなかったら断っても良いですから。」
「わかりました。」
少し遅刻をして到着した私に
おじさんは深々と頭を下げて丁寧な挨拶をした。
綺麗な七三分けで銀縁の眼鏡
ベージュのソフトパンツに
仕立ての良いポロシャツを着ている。
ポロシャツの裾をズボンの中にキッチリしまい
エリだけは流行通りに立てている。
ちょっと間違ったエセゴルファーってかんじ。
それが私の印象だった。
おじさんはやはり趣味はゴルフだと言った。
「僕はね、たくさんの国家資格を持っているんだよ。」
「はぁ。」
「親の言われるままに若い頃は勉強ばかりしてね。
現役で国立大学に合格してそれからも遊ぶ事なくひたすら勉強したんだ。
公認会計士だの税理士だの社会に出てからも資格を取り続けたんだよ。」
「へぇ。すごいんですね。」
「そんなわけで僕は今20個以上の有資格者なわけ。」
公認会計士も税理士もなんの事かさっぱりわからなかったけれど
得意そうに自己紹介をするこのおじさんに素直に感心した。
きっとすごい人なんだろう。
そう思いながらおじさんの話しに耳を傾ける。
「だから今はその資格や免許を貸すだけでお金がたくさん入ってくるんだよ。
信じられるかい?名前を貸すだけでお金が入ってくるなんて。
今ではすっかり悠々自適な生活なんだ。」
「なるほど。」
「とはいえ、若い頃に全然遊んでこなかったからね。
これからはいっぱい遊びたいんだ。」
「遊んだ方がいいですよ。人生一度切りですから。
飲み屋とか風俗とかもよく行くんですか?」
「いやいや、僕はね、プロは嫌なのよ。なんだか汚らしいでしょ?
君みたいな素人がいいんだよね。うん。」
なんだそれ?
プロと素人のボーダーラインはどこにあるんだろう?
ヘルスやソープでお勤めしている人はプロで
『愛人バンク』に登録している私は素人なのだろうか?
おじさん、その線引きの仕方絶対間違ってるって!
そう言いたくなったが
私はまた黙っていた。
私が援助交際するのが初めてだとでも思ってるのかな。
優秀な人ってこういう勘違いをして生きているのか。
高校もまともに出ていない私よりもこの人の方がバカなんじゃないか。
そう思って私は少し驚いた。