第035話 パーツの処刑
私は呆然として震えていた。
おやじは戻ってこなかったのだ。
怒りで体がガタガタと震えるという事をはじめて知った。
心の深淵から沸きあがる殺意に
呼吸が荒くなり息苦しくなる。
どんな手段を使ってでも
殺してやりたいと思った。
何箇所も残酷に滅多切りにしてやりたいと。
『やり損』
さっきからこの言葉が頭を離れない。
ほとんど卒倒しそうな程の強い怒りで
私は何時間も喫茶店から出る事ができなかった。
タダ乗りされるなんて!
本当に悔しくてたまらない。
ああ!
むかつく!!
自分のバカさ加減を呪う。
私は自分自身を憎んだ。
きっと今頃あのおやじは舌を出して
「しめしめ」とニヤついているに違いない。
あの時床に叩きつけたグラスの先で
オヤジを刺さなかった事を後悔してならない。
私は頭の中でおやじの処刑をはじめた。
何度も何度も残忍な殺し方をしようと試みる。
けれど
なぜだかおやじのイメージが出てこない。
緩んだいやらしい口元や
シミのある汚い肩や
だらしない下半身などのパーツだけは
ぼんやりと思いだせるのに
全体像を思い浮かべる事ができないでいた。
それはいっそう私をいらつかせた。
おやじを極限まで苦しめる事ができないまま
バラバラの対象に憎しみをぶつけ続ける。
どれだけの時間
パーツの処刑を繰り返したのだろう。
血まみれになったおやじのパーツを
眺めて私はそこに立ち尽くした。
空のコーヒーカップを見詰めながら
私は殺人を犯したのだ。
絶対に許さない。
絶対に。
私ははじめて店を無断欠勤した。
何もかもがバカバカしくなった。
誰も助けには来てはくれないから
自分で立ち上がるしかなかった。
疲れた。
続き気になる人はクリックしてね♪