第034話 ナイフ | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第034話 ナイフ

「まりもちゃん、今日実は2万しか持ち合わせがなくて
今度逢った時に今日の差額と一緒に払うからいいでしょ?」


「え?」


金のために常用している「そつのない仮面」が

パキンと割れて落ちる音を聞いた。


援助交際の掟破りに

突如として私は激昂する。


限りなくヒステリックにおやじを怒鳴りつけた。


「ふざけんなよ!てめー!」

「銀行で金おろせ!今すぐにだよ!!」


私の豹変ぶりを見ておやじは憤慨したようだ。


「だって今日はお金がないんだから。しょうがないでしょ。」


開き直ったとも見れるその態度をみて
『舐めやがって』という気持ちになり

怒りは一気に爆発した。


思いつく限りの汚い言葉を並べて

おやじに喚き散らす。


「まあまあ、そんなに怒らないでよ。約束は守るからさ~。」

「丸め込む気?あんたバカ?そんなの通用するわけないでしょ!」


側にあったグラスをおもいきり床に叩きつける。


怒りをぶつけられる矛先とキッカケを見つけ

私の感情は一気に溢れだしておやじに一直線に突き刺さる。


「ああ~。こんな事して。やっぱり最近の若い子は・・・」
そこまで言いかけたおやじに掴みかかった。


「ふざけんな!説教する気?」
「ねぇ!私の本当の歳教えてあげるよ!17歳なの!」


おやじは絶句した。


「言いたい事わかるよね?このまま警察いく?」

「あんたの事有名にしてあげようか?」


『怒り』は私の意志とは別に動き始める。


『怒り』は完全に自律して私の手を離れ

私はその『怒り』に支配されてしまう。


『怒り』をぶつけるための『手段』としてだけ

存在している自分がいる。


声も手も震えはじめる。


凄んで怒鳴ったはずなのに
自分でも聞き取れないようなおかしな発声になる。


瞳孔が開き血液が沸騰していく。


私は切れると

とことんタチが悪い。


相手をどん底まで落としいれ
精神的に完全に追い込んで
徹底的に貶めるまでは気がすまない。


『怒り』の強さは圧倒的で

負け知らずなのだ。


こうなるともう止らない。


誰にも止める事はできない。

自分でさえも。


私はナイフになる。

何かを傷つけるためだけに存在する。


おやじは尋常ではない私の切れっぷりに

さすがに肝を冷やしたようだ。


「わかった、わかった。俺が悪かったよ。」
と謝り続けている。


新宿プリンスホテルの地下にATMがあるので
そこでお金を下ろす事になった。


「さっさと金よこせ!キモおやじめ!」


金をもらったら一発ぶんなぐって

トドメの捨て台詞を吐いてやる。


「すぐにお金下ろしてくるから、ここで待っていてね。」


新宿プリンスの地下にある喫茶店は
そんな私達とは全く関係ない日常で溢れており
とてもその雰囲気に馴染めそうもない私は
コーヒーを頼んで自分が人間に戻るのを待った。


ナイフ


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