第028話 シャネルドロップ
眩暈はすぐに治まったが
すっかり力が抜けてしまい
エレベーターの中でべったりとお尻をつけて座りこんだ。
上りのエレベーターに乗った時の私と
下りのエレベーターに乗る今の私は
もう同じではないと感じていた。
同じ箱の中に別の自分。
不思議な感覚。
『堕ちた自分』を自覚する。
私はその足でシャネルに買い物に向かった。
ショウウィンドウには数日前と同じままの状態で
ピアスが飾ってあった。
私は今がその時なのではないかと錯覚した。
今はあの時なんだ。
こういうのって「デジャブ」って言うんだっけ。
私は今はじめてシャネルのピアスを見て
はじめて欲しいと思ったに違いない。
さっきまでの全ては夢だったんだ。
だって本当に夢の中みたいだったもの!
悪い夢を見たのだと思い込もうとする。
ただ
お財布の中を見るときちんとお金があるのだった。
ぴん札で5万円。
私は今度はちゃんと
ピアスを買う事ができた。
寮に帰るまで待ちきれなくて
すぐに化粧室に行き
そのピアスをつけてみる。
金のシャネルマークの下にキラリと光る
真珠の雫がついているピアスだ。
「シャネルドロップ」という商品名のかかれたタグを
ライターで丁寧に焼き切る。
『超かわぃぃ!本当買えて良かった。』
上機嫌になった私は
ほとんどスキップのような足取りで寮まで帰った。
気分はすっかり良くなっていた。
店に出勤すると
すぐに美咲がピアスに気がついて大絶賛してくれた。
「超超かわぃぃ~~!いいなぁぁぁ!!」
「でしょ!最高にかわぃぃよね!うふふ~」
美咲が本当に羨ましそうな顔で私を見るので
私は得意気にピアスを揺らして見せた。
「まりも!泉さんみたいじゃん!きゃはは」
その美咲の言葉に
なぜか涙がぶわっと溢れてきそうになった。
私は慌ててトイレに行く。
トイレの個室に入ると涙が止らなくなった。
『私・・・泉さんに一歩近づけたのかな』
トイレから出て鏡を見ると
マスカラとアイラインが落ちて
無残な顔になっていた。
コットンとめんぼうを使って
器用に汚れた部分だけを拭き取る。
鏡の中のピアスを見詰める。
シャネルの下にぶらさがる真珠が
涙の雫みたいに見えてまた泣けた。
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