第025話 きっかけ
めずらしく昼前に目が覚めた私は
一人で新宿まで買い物に出かけた。
新宿で買い物をする時は決まった巡回コースがあって
一番はじめにシャネルを見に行く。
ショウウィンドウに飾られた一つのピアスが
私の目を引いた。
「これください。」
「お客様、カードの限度額が超えておりますので。」
「え?」
はじめてそう言われた私は
一瞬戸惑ってしまった。
カードに限度額がある事などすっかり忘れていたのだ。
店の給料日まではまだ日にちがある。
『困った事になった!』
ああ。
どうしても欲しい!
私は待てなかった。
「待つ」とか「我慢する」といった事が
いつのまにか一切できなくなっていたのだ。
子供のように
欲しいものは今すぐに欲しがった。
欲望は発生した時に満たされなければ意味がないではないか。
『ショウウィンドウに入っていなければ万引きできるのに』
どうにか万引きできる方法がないか
しばらく頭をフル回転させて考えてみたが
良い方法は思い浮かばない。
欲しい物が買えないなんて!
私は普段は歩き煙草は絶対にしない主義だったが
煙草を吸いながら新宿を歩いた。
イライラしてわざと人にぶつかりながら寮に帰った。
店に出勤したもののちっとも気分がのらない。
早い時間から指名客が来ていたので
私は上の空で適当に相槌を打っているだけだった。
「まりもちゃん5万でどう?」
おやじは右手でパーを作り
私だけに届く声でそう言った。
そんな風に冗談まじりでお客から話しを持ち掛けられる事は
別に少しもめずらしい事ではない。
いつもなら
「またまたぁ~。きゃはは」
と適当にかわして終わる
キャバクラでの悪趣味な恒例行事である。
この時私は
『5万円あればあのピアスが買える!』
そうとしか思わなかった。
きっかけなどタイミングにしか過ぎないのかもしれない・・・。
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