天国と地獄 | すべての若き野郎どもへ 〜 For All The Young Dudes 〜

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関西を拠点に活動するDJ / タレント。そしてROCK'N'ROLL救済人を自称する「新井弘大郎」のROCK(ロク)でもない日常を綴ったブログ。元気な若人どもまとめてCOME ON!!お手柔らかにね♥♡




少し遅ればせながら、3月、4月に公開された、ロック・レジェンドのドキュメンタリー・ムービーを2本鑑賞してきたのでここで紹介したいと思う。

「NICK CAVE 20,000 DAYS ON EARTH」

ニック・ケイヴとは本当に不思議な人である。70年代の終わりにザ・ボーイズ・ネクスト・ドアでキャリアをスタートさせ、バースデイ・パーティ~ニック・ケイヴ & ザ・バッドシーズ~グラインダーマンを経て、現在はバンド時代から行っていた映画への楽曲提供、俳優、作家としての活動、果てはジョン・ヒルコート監督の『欲望のバージニア』(13)では脚本と音楽を担当し、カンヌ国際映画祭にコンペティション部門で上映、ジョージア映画批評家協会賞で主題歌賞を獲得といった偉業を達成している。普通、半世紀以上を生きたアーティストの活動というものはキャリアのどこかで「全盛期」というものが確実に存在するのだが、彼にはそれがない。というよりは、多くのファンには80年代の作品群が有名でありながら、現在が齢57才にして全盛期とも言える、多岐に渡る精力的な活動をしており、評価も作品のセールスもうなぎ上りであるからだ。実際に2013年に発表されたニック・ケイヴ & ザ・バッドシーズの目下最新作「Push The Sky Away」は全英アルバム・チャート初登場第3位、欧州各国のアルバム・チャートで第1位を獲得している。

その鬼才ニック・ケイヴの生誕20000日目を追ったドキュメンタリー映画なのだが、これが本当に素晴らしい。心理学者ダイアン・リーダーによるインタヴューを織り交ぜながら、自身の過去を一人称で語り出して行くのだが、彼がこれまでどういった人生を送って、何を考え、創作活動に繋げて行っているのか良く分かる音楽ファンなら必見のドキュメンタリー・ムービーに仕上がっている。物語の要所に登場する、ニックの人生に関わった人物との絡みも見物だ。俳優のレイ・ウィンストン、元メンバーでもあるノイバウテンのブリクサ・バーゲルト、過去にデュエットを行ったポップスターのカイリー・ミノーグ等、ゆかりのある大物アーティスト達が登場し、様々な本音が聞く事ができる。時折フィクションを織り交ぜた幻想的な演出も見事である。クライマックスに訪れる情感に溢れた壮大なライヴ・シーンで私は何か解き放たれたかの様にいつの間にか大粒の涙を流すと共に、彼の真摯な歌に完璧に心臓を貫かれた。
彼自身のキャリア通り、映画全編において全てのシーンがハイライトであると言える。見終わった今も未だ興奮覚めやらぬ素晴らしい作品である。そして、アーティスト「ニック・ケイヴ」だけでなく当然、監督であるイアン・フォーサイスとジェーン・ポラードにも最大限の賛辞を送りたい。




「LOOKING FOR JOHNNY -ジョニー・サンダースの軌跡-」

一般的な音楽ファンにはどちらかというと無名ながら、アーティストからは、彼に曲を捧げた事もあるガンズ&ローゼスのダフ・マッケイガン、NYドールズのファンクラブの会長をしていた元ザ・スミスのモリッシー、ジョニーに憧れてヘロインを始めたセックス・ピストルズの故シド・ヴィシャス、ハートブレイカーズを本当にカッコ良いロックンロール・バンドであったと自身の伝記映画で語ったモーター・ヘッドのレミー・キルミスター、イギー・ポップ、ハノイ・ロックスの面々、ここ日本でもザ・クロマニヨンズの真島昌利氏、ミッシェル・ガン・エレファントのチバ・ユウスケ氏、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠氏、最近では某音楽誌で元毛皮のマリーズ~現ドレスコーズの志磨遼平氏がファンである事を公言する等、数えきれない程のアーティストから多大な尊敬を受け、多大な影響を与える伝説のロックンローラー「ジョニー・サンダース」の伝記映画「LOOKING FOR JOHNNY -ジョニー・サンダースの軌跡-」がここ日本で公開された。

「ニューヨーク・ドールズ」や「ザ・ハートブレイカーズ」のギタリストとしてニューヨークパンク全盛期を牽引しながら、1991年に38歳の若さでこの世を去ったジョニー・サンダースの波乱に満ちた生涯に迫るドキュメンタリー映画なのだが、バンドメンバーのジェリー・ノーランやシルベイン・シルベイン含む多くのミュージシャン、関係者等への当時のインタビューはじめ、貴重な未発表映像も交えながら、見事に人間「ジョニー・サンダース」とロックンローラー「ジョニー・サンダース」の両側面に同時に切り込んだ作品である。どこか猿真似でお利口さんになった現在のロック・シーンにおいて今では形骸化したと言える、酒、女、薬といったロックンロールのライフスタイルに必ず付いてまとわりつくものに彼がいかに心身を滅ぼされていったのかが分かる、残酷でリアリティのある描写に否が応でも見入ってしまった。ただ、映画の中盤から後半にかけては、80年代の彼の生活には平穏が訪れた事など、人間ジョニー・サンダースの優しさもしっかり伝わってくる。コアなファンはそれまで伝えられていた彼の死の真相についても最後に驚かされる事だろう。

ロックンロールとは、永遠に手の届かない夢であり、握る所を間違えるとどこまでも深く傷つけられてしまう諸刃の剣だ。同じヘロインをモチーフにした楽曲にしても、ジョニーが憧れたローリング・ストーンズは「BROWN SUGAR」とおためごかしたが、ジョニーは「TOO MUCH JUNKIE BUSINESS」と偽る事無く赤裸々に歌った。金儲けの道具として肥大化した90年代のロック・シーンを生きるには誰よりも正直過ぎたジョニー・サンダース。だけど俺はそんな奴は嫌いじゃない。彼を好きな人間はきっと皆同じだと思う。ロック・ファンを自称して、彼を知らない方には是非見て欲しい。