もうなくなってしまっただろうか、昔新宿駅の構内に20台くらい電話が並んでいる所があって、今と違い携帯なんぞいうものがなかった頃なので、いつだってそこは人で混雑していた。僕はそれを見ているのが好きだった。
いろいろな表情、いろいろな言葉、会話が断片的に入り乱れて聴こえて来る。怒っている人もいれば、笑っている人もいるし、慌てている人もいれば、諦めたようにため息をついている人もいる。
「今から帰るってお父さんに言っておいて」
「今どこにいるんだよ?」
「次はいつ会えるの?」
「出てこれない?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ」
「明日どうする?」
「嘘でしょ?」
「よく聞こえない、もう一回言って」
「財布なくしちゃって、困ってるの。お金持って来てよ」
「誤解だって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あはははは」
「涙涙涙・・・・」
いつか舞台の上に電話をズラリと並べて群像劇を作りたいなと思っています。
誰かを楽しませたい、と思って書いたことってないなぁって思う。
何かを訴えたくて書いたこともないなと思う。
これによって誰かが傷つくかもしれない、なんてことも考えない。
きっとこの劇団の物語は、氷の入ったコップに、水滴がついてテーブルを丸く濡らすような、そんなものなのではないかしら、とかふと思ひました。
おしまひ。