『諸外国における子どもを性的犯罪被害から守るための法的規制に係る実態研究調査』 | マンガ論争勃発のサイト

『諸外国における子どもを性的犯罪被害から守るための法的規制に係る実態研究調査』

  この報告書は、(財)社会安全研究財団が行った調査研究を行ったもので、
イギリス・フランス・スウェーデンの3ヶ国における児童に対する性的犯罪の発生状 況を概観した上で、各国のワイセツ基準、児童ポルノの法的根拠や禁止内容、アダルトメディアの販売状況等についてがまとめられている。

 法的根拠として各国 の邦文が日本語訳で掲載されている貴重な資料である。
 ここでは、その概要を紹介したい。

定義、法整備、レーティングは各国ごと異なる

 日本国内では、ヨーロッパでは児童ポルノは所持自体が違法であるという点が注目を集めることが多い。この3ヶ国とも所持を違法とすることでは一致しているが、この報告書によれば、その定義には大きな隔たりが見られる。

 イギリスで性犯罪を規制する主要な法律となっているのは2003年性犯罪法である。
この法律では、「信用ある地位の乱用」と「家庭内の児童性犯罪」について多くの条文が割かれており。イギリスの国内事情をかいま見ることができる。

  各種メディアの審査、レーティングは映画・ビデオ・テレビゲームではすべてが民間機関の「英国フィルム審査機構」に委ねられている。この機関の権限は強 く、各自治体から映画の上映を許可を賦与される形となっている。中でも特筆すべきは、18歳以上が10代前半の少女を演じるような作品への対応だ。出演す る俳優が明らかに18歳以上と見える作品については許可される一方で、子供が出演していると誤解されるものは販売禁止の処置が取られている。

 フランスで児童ポルノとワイセツを規制する法律は刑法である。パリ警視庁による児童ポルノの定義は「生殖器を露出しており、子ども同士、あるいは大人と性的交渉をしている場面が写っている画像」とされており、周辺国に比べ定義が明解な印象を受ける。

 また審査、レーティングは映画審査委員会をはじめ各業界団体はそれぞれ評価を行う形が取られている。ここでは性的表現については比較的寛容ではあるものの、児童ポルノ、獣姦、近親相姦等のアブノーマル描写を含むものについては厳しく規制が引かれている。
 映画の審査基準では独特で、「観客に対しカップルや愛に関してどのようなイメージを与えるか」という他国には見られない評価基準が存在する。また、出版物についてはワイセツを規制する法律が一切存在しないこともフランスの国情を反映している。

  スウェーデンでは2005年の刑法改正によって子供を性的侵害行為から保護する条文が含まれるようになった。児童ポルノに関する条文は「公共の秩序に対す る罪」の中に含まれ、子供を「ポルノ写真」にて描写するもの、頒布、移送を行う者、所持する者等が「児童ポルノの罪」に該当するとされる。「ポルノ写真」 と明記することは、子供を性的侵害行為から保護するという本来の目的に沿ったものと考えられる。

日本産アニメを問題視しているのはイギリスだけ

 さて、この報告書では日本産アニメについて幾分か触れている箇所がある。
  まずイギリスは日本産エロアニメに対する規制がもっとも厳しい。200年に公開された『Mission of Darkness』(日本ではピンクパイ ナップルが発売していた『淫獣大決戦』のこと)は、審査によって性表現が大幅カットされた上で公開。続編については性的シーンをカットすると本編がほとん ど残らないという理由から、公開が禁止されている。また、内務省においてアニメーションを規制する法整備に関する議論が進められている。しかし、アニメー ションは写真に比べ違法性を判断することが困難なことから、規制方法の慎重な検討が論じられているようだ。

 フランスでも同様の日本産エロアニメのみならず実写アダルトビデオも数多く流通しているが、取り扱いはアダルトショップに限られており、さほど規制の対象にはなっていないようだ。
 このように、欧州諸国においても児童ポルノやワイセツの基準はそれぞれの国内事情を反映して差異が見られる。しかしながら特に、規制の厳しいイギリスを除けば、性的侵害行為を受ける実態の存在しないアニメに関する規制は重視されていない。

 調査研究では、「わいせつ文書の違法性を決定付ける要因は、子どもの性的描写及び激しい暴力の描写の2点であることが判明した。文化的に性的描写に寛容な欧州諸国でも、子どもを性的描写の対象にすることには厳しい規制がなされており」と結論づけているが、欧州では規制対象となるのは、あくまで被害実態の存在する実写児童ポルノに主眼が置かれているわけだ。

本報告書は公刊されていないが、(財)社会安全研究財団にて複写を入手することができる。また、同財団の『季刊 社会安全』67号では「研究レポート 諸外国における子どもと性的犯罪等から守るための法的規制に係る実態調査」が掲載されている。
日本における児童ポルノに係わる法整備に興味を持つ人々は、必ず読んでおくべきであろう。
(昼間 たかし)

参考URL:
(財)社会安全研究財団