「ワインと南カリフォルニアへのラヴ・レター」のような、中年のための映画かな。サンタ・バーバラのワイナリー、ゴルフ場、だだっぴろいハイウェイ、モーテル、ダイナーなど、南カリフォルニアの甘い生活が描きだされていて、ストーリーを追わなくても楽しんで見られそう。
 中年と言われる世代になると、どんどん人生の荷物が増えて、期待が裏切られることに慣れたり小さな冒険に飛び込むにも相当な覚悟が必要になったりするみたい。Sidewaysというのは、離婚の傷が未だ癒えない負け犬を自認する「中年」国語(米語)教師の人生に対する態度を示唆している。 
 よかったシーンは、彼が惹かれていく女性マヤがワインへの思いを人生にかぶせて語るところ。哲学というほどでもないんだけど、この2年フリウーリ地方に暮らし、ワインを介して様々な出会いをしてきた私にとってかなり感じるものがあった。国語教師がpinot noirへの思い入れを語るシーンも愉しい。別にワインでなくてもいいんだけど、人が好きなものについて語り出すとき、自然とその人の人生観がくっきりはっきり見えてくるのが面白いな~と思う。特にアルコールの入っているとき。
 結局長年暖めてきた私小説が出版されることもなく、短い休暇から戻り国語教師としての日常を再開した矢先、思いがけずマヤから誠心誠意の電話メッセージをもらう。いい感じに年を取ったVirginia Madsenが演じるマヤの温かさに思わずこちらまで感激。見終えた人がほっこりして日常生活に戻れる秀作だと思う。