「あれ、この花…どうしたの?」
「ああ、私が買ってきてもらったの」
見たことのない花。白くて、真ん中が少し赤い。
「ねぇ、いつもありがとう」
「いきなりどうしたの?」
笑いながら尋ねれば、彼女は微笑む。
なんで、そんな、悲しそうな
「花言葉、好きなのよ私」
「え?」
「花とか、植物はそこまで好きじゃないんだけどね。花言葉とか、その物に込められた想いとかを読み取るのは本当に好きなのよ」
何が言いたいのだろう。花言葉?
「この花ね、ゴジアオイって言うの。本当はキスツス・アルビドゥス」
「ふーん」
「一日花なの。一日で、咲いて枯れちゃう」
「なあ、それより、」
「明日には、もういなくなっちゃうの」
…え
今、花の話をしてるんだよな。
少し驚いた。まるで彼女が、自分のことを言っているかのようで、
「どうしたんだよ、今日変だぞ?」
「一日花、儚いよね。だから好きじゃないの。植物も、花も、動物も、命あるものは全部」
「おい」
「命はいつか失われる。ってことは、大切な人を残していなくなるってこと。その大切な人を傷つけていなくならなければならないから」
そう言ってわらった。
「私は、命が嫌い」
動けなかった。喋れなかった。
もう、俺にはどうすることもできない。そんなのわかりきっていたのに。
彼女の病気は、もう戻れないところまで彼女の体を蝕んでいた。
俺の、知らないうちに。
「梨花、この花の花言葉、なんなんだ?」
「…ふふ、秘密。帰ったら調べてみてよ。『ゴジアオイ 花言葉』で調べたらすぐ出てくるよ」
病室の窓の外を見れば、もうあかね色。
面会時間もきっともうすぐ終わる。
離れたくない。
こう思ったのは初めてじゃないけど、今日何故か、ここで離れれば本当にもう会えない気がした。
明日は大学をサボろうか。そして、朝からこいつについておこう。
「ねえ、」
「ん?」
「…やっぱなんでもない」
「なんだよー気になるじゃねぇか」
「明日、教えてあげる」
だから、もう帰って。
そう言ってるように聞こえて、俺は立ち上がった。
「じゃあな、また明日」
「…ばいばい」
頷きもせず、ただ悲しそうに笑うだけだった。
家に帰って、パソコンを立ち上げ、調べる。
『ゴジアオイ 花言葉』
次の日、病院に行くと、枯れたゴジアオイと一通の手紙。
『ローダンセ、胡蝶蘭、ありがとう』
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花言葉
ローダンセ 永遠の愛
胡蝶蘭 貴方を愛しています
ゴジアオイ 私は明日死ぬでしょう