6月27日(月)は、第九回マルカフェ美術部×宵町めめ先生コラボ企画開催日。
慢勉的手習い、として、マルカフェ美術部にて
「神社裏で、漫画を描いてみよう」!の回でした。
漫画家 宵町めめ先生によるレクチャーを経、
・ネーム作成
・下描き
・清書
を、実践しました。
題材としたのは、マルカフェ文藝部「棕櫚shuro」第三号より
石川友助「イシカリ」の冒頭です。
腰に手をあてた一頭の若い熊が崖の上から遠くの海を見つめていた。やがて彼は空腹に耐えかねて呟いた。
「どうしてしゃけは帰ってこないのだ」
同じく海を眺めていたもう一頭の熊が、どうしてもしゃけが食べたいんだと呼応した。二頭は顔を見合わせてため息を吐くと、また力なく海を眺めた。鮭が川へ戻らない。彼らは約束の川を忘れてしまったのだろうか。あるいは、何かに手一杯で戻るのが遅れているだけなのだろうか、だとすれば用事が済み次第われらの元へ帰って来てくれるのだろうか。川に残った小さな魚を食いつくした熊たちは、川へ帰らない鮭を恨めしそうに思い描きながら海を見るしかなかった。食べ盛りのイチやタケの胃が鳴らす悲しい音が、潮騒にまぎれては消えた。熊たちは、この異変の原因が、川へ戻ることを拒んだ鮭たちの反乱だとは知る由もなかった。木の実や小動物だけの森の生活にうんざりした熊たちは人里へ下り、畑を荒らしては人からの攻撃を受けた。やがて、熊たちは海辺の漁師小屋で処分された魚類の内蔵を貪り食うことで人々と折り合いをつけるようになった。ある日、イチとタケは崖を降り、いつものように漁師小屋へ食事に出かけた。運良く大きな魚が数匹、物干しにぶら下がっているのを見つけた。それは紛れも無く鮭だった。二頭は風に吹かれ胸を躍らせた。イチは辺りを見回して誰も居ないことを確認すると、欲望のまま魚に近づいていった。
「やめなよ。あぶないよ」「だいじょうぶさ」
イチは物干しに辿り着き、いま一度辺りを見回してから鮭に手をかけた。
「イチ、見つかったら怒られるよ」
タケの制止に耳を貸さず、イチは鮭にかぶりついた。
「うまいよ。しゃけだよ。タケもおいでよ」
と、熊が主人公の物語なのですが、出来上がりは多彩。
鮭に注視したり、熊に焦点をあてたり、熊を擬人化してみたり……
それぞれの視点で、自由に切り取られていました。
いつも通り、90分間の制作時間。
コマ割りからして初めての経験でしたので、
手元が頭にまったく追いつきませず。
どうしても描いてみたかった1カットさえ未完成というていたらく。
マスターはぶち抜きの一枚。
なんかずるいw
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こちらは、宵町先生の構想ノート。
漫画において、要となるキャラ設定にも余念が有りません。
(漠然と熊を描こうとした自分とは雲泥の差です)
小説からイメージを膨らませ、キャラクターやその背景など、設定が細かに記載してありました。わずか2頁の物語を掘り下げ、熊を擬人化し、人属系の人間と熊属系の人間との対立を打ち立て、「イシカリ」の世界を宵町世界で解釈するというブッ飛んだ着想に、驚愕。「漫画家のあたまのなかは尋常じゃない」というのを、まざまざと見せられた気分になりました。
こちらは制作途中の原稿。
宵町先生は、「水色の芯のシャープペンシル」なる存在を教えてくださいました。これ本当にすごい。
誰がどのタイミングで台詞を吐くか、
どんなふうに間を取るか、
で、
仕上がりが全然変わってくるのにも、驚かされましたよ。
紙とペンの白黒の世界で一体どこまで創造出来るというんだ……
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なかの真実さんの原稿には、
腹までしっかり描かれた美味しそうな鮭が特徴的。
kazu-tabuさんの原稿では吊るされ顔と、
鮭を捕食する瞬間が面白く描かれています。
両者、同じ場面が描かれた一枚ですが、焦り必死で鮭を目指す姿と、陽気に鮭に近づく様とで、画面の緊張感が異なることに気が付きます。
同様に、「鮭が見つからない」のを
熊が嘆く場面では・・・・
鮭が獲れなくなった、と、嘆く熊の姿を「間」に語らせたsheenoさんと、賑々しい鮭に語らせたくりまるさん。「どうしてもしゃけがたべたいんだ」という一言を、この世の終わりかのように嘆かせるか、やり場のない気持ちを怒りとして示すのか、それとも「諦め」或いは「憧れ」として描くのか、同じ言葉、同じ場面でありながらも、描き手の捉え方によって、画面に感情が添えられていくのは、「漫画」という媒体ならでは、なのかもしれません。
これまで数えきれないくらいの漫画を読み倒してきたわたくしですが、描いてみる、は、考えたことがもなく(しかし、やっぱり、難しい!)、試みてはじめて、漫画家先生の偉大さに感じ入ると共に、「物語」の要素なるものに改めて向き合うことの出来た、とても面白い体験となりました。
ご指導くださった宵町先生、またご参加のみなさま、ありがとうございました。
第二回も、たのしみにしています。
【おまけ】
1.なかの真実×中川マルカ 「サーモン」出るよ!
今回の「イシカリ」は、マルカフェ文藝部「おすし」企画のスピンオフ作品。
「おすし」収録の、中川マルカ「サーモン」へのオマージュ小説として描かれた短編小説です。そして、この「サーモン」には、なかの真実さんの挿絵が加わり、この夏、新装版発刊予定!マルカフェにもやってまいりますので、どうぞ、おたのしみに。
「おすし」のサーモン、は、完売。マルカフェにて全巻展示中です。
2.美術部ごはん
今日は、チキンカレーと鶏のから揚げ、でした。
集中して描いてモリモリ食べてわいわい語らう、までが、マルカフェ美術部です。
3.宵町めめ先生
(宵町めめ「龍宮町は海の底」)
★宵町めめ先生公式ページ「くらやみ横丁」はコチラです。
★http://kurayamiyokocyo.lolipop.jp/
7月の美術部は、おやすみ。
次回開催は、8月29日(月)を予定しています。
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【今後の予定】
●7月2日(土) 終日貸切
●8月11日(木祝) マルカフェス2016開催!!
●8月12日(金)-14日(日) お盆やすみ
●8月29日(月) マルカフェ美術部
金土日の週末カフェ(営業時間 11:00-17:00)
Malu Cafe/マルカフェ
〒145-0073 大田区北嶺町37-2
TEL/FAX:03-6425-8951
MAIL:chef@malucafe.com
東急池上線「御嶽山駅」より徒歩2分/「多摩川駅」より徒歩17分