【王家衛】たまには好きなものについてちょっと書いてみようと思う(前篇) | ●Malu Cafe●

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はじめまして、Malu Cafe(マルカフエ)です

変わらないものなんてない、と、普段ものわかりのよいかおをしてくらしていますが、変わらないもの もあるのかもしれない、と、揺さぶられるおもいで何度も何度も繰り返しみています。「恋する惑星(重慶森林)」「天使の涙(堕落天使)」。過ぎた時間も、これからの未来も、全部つまっているような掛け替えのない大好きな映画です。髪をうんと刈りたくなったし、白ブ リーフたまんないし、とりあえず香港行きたい。

というわけで、徒然。


どうやら今年で上映から20年が経つのだそうだ。
奇しくも、今年の誕生日には、王家衛(ウォン・カーウァイ)DVDBOXを買ってもらって、おかげで、春からずっと独り映画祭がつづいている。今回手に入れたのは、学生時代に傾倒していた映画の作品集だ。当時から特に好きだったのは先の二本で、多分にもれずサブカルスキー気どりの20歳前後。タランティーノ監督も絶賛したと言う先の作品に、いたいほど嵌った。

何がそれだけ沁みたのか、当時の自分に聞かなければわからないと思っていたのだけれど、あれから10数年、こうしておもむろにやってきた第二次王家衛(マイ)ブーム。再び嵌りたおしている。今なお胸にある香港のイメージは、まさに「重慶森林」。 立ち並ぶビル群に如何わしい商店、パワフルでエキセントリックな人々と、その温度、そして湿度。ウォン・カーゥアイの作品に於いては映像、音楽、物語、全てが見事なバランスで展開され、まちの匂いが立ち込める。

「恋する惑星」「天使の涙」、もとは、一本の作品だったという。
独立したエピソードがふわふわと折り重なる群像劇だ。映画の内容についてはいろんなところで書かれているから、此処で敢えて詳しく紹介する必要もないのだ けれど。それでも敢えて一言で言うならば…「通い合わない想い」の物語。だろうか。否、名前も知らない相手に執拗につきまとい自分色に染めようとするやたら前向きでどうしようもなく内向的な女の子と一途に思われてみたい男性の欲望を描いた物語…でもないか…。関係性の物語。喪失に次ぐ喪失。待つ人が、いつしか誰かを待たせる人にな る。待たされているはずが、誰かを於いてけぼりにしてしまう。すれ違いと一瞬のふれ合いと、そこにある人生の妙味。ひとりだけど、ひとりじゃない、っていう、わたしはあなたあなたはわたし的、誰しもに当てはまる不思議な世界。気の利いた言葉でまとめるのはとても難しい。


例えばほら、ふたりが出会い、
「夢のカリフォルニア(California Dreamin' )」を聞きながら言葉を交わす場面なんかも、説明すればするほど陳腐になってしまうのに、画面上で展開さ れるやりとりの粋なこと!全ては役者の佇まい、それを切り取ったカメラワーク、香港の空気、そしてパーツを組み立てた監督の手腕に拠る。何度見ても新鮮な 気持ちになれる、最高の場面。警察官と、店員と。帽子を脱いで正面を見据える目線、かろやかにリズムを取りながら、音があれば煩わしいことを考えなくていいから好き、と踊り続けるフェイ・ウォン(王菲)演じるフェイ。


彼女の身体表現には、台詞以上の存在感がある。そこに在る、それだけで世界の広がりを感じさせてくれるのだ。ふたりの交わす視線と言葉が眩しくて、どんな に気分が沈んでいてもこの場面をみると、ちゃんとまた笑えるようになるのだからすごいなあと思うし、水仕事をするのにも彼女と同じピンクのゴム手袋があれ ば結構元気に頑張れてしまったりもするから幸せだなあと思ったりする(どんだけ好きなんだ!)。

出会い、というのは印象的で情熱に満ちたもの。
ウォン・カーウァイの映画の中にはいつも鮮烈な出会いがある。 先の作品の前に撮られた「欲望の翼(阿飛正伝)」の冒頭もうっとりするほど素晴らしく。美しい言葉が、あの湿った空気と合わさって、胸にガツンと楔を打つ。息がつまるような陶酔を憶えながら、息を殺して、「一分間の友人」を思う。

近づけば近づくほど相手を遠くに感じてしまうのは、相手に対して、過剰な期待を寄せてしまうせいだろうかと考えさせられてしまう。それならば、いっそのこと自分が見たいと思う姿をそのまま投影してしまった方がうんと幸せなのかもしれない。それは、客室乗務員の元恋人を思い出しながら、痩せてしまった石鹸やぼろぼろの布巾に話しかけてしまう633の言葉(你唔好喊啦,你咁樣喊喊到幾時?做人要堅強的,你睇下你,成劈嘢咁躂係道。唉,等我幫你啦―重慶森林)などからもわかる。「欲望の翼」「ブエノスアイレス(
春光乍洩)」でのレスリー・チャン(張国栄)の役どころもそうだ。「母親」とのねじれた関係に虚勢を張って自我を保つヨディ。やりなおそう、を執拗に繰り返し暴力的とさえいえる悪魔の微笑みを湛え、一方的に想いをぶつけるファイ…受け容れるための儀式のように行きつ戻りつ、ここでもやはり、全てが繰り返される。

ウォン・カーウァイの作品の素晴らしさは、わずか一分、一瞬の感動を何度も味わい確かめることで全て流れ変わりゆく世界の中に、「永遠」を感じさせてくれる点だとつくづく思うのであります。
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後編へつづく