これだけを示されると、「ん? どう読むんだっけなぁ」 と考えてしまいそうだ。

文中にあると分かりやすくなる。

松井今朝子 『江戸の夢びらき』 (文藝春秋、2020) の中に

 旧冬に起きた震災火事で壊滅しかけた江戸には不自由な暮らしを託つ者がまだまだ沢山あるだろうに

という一節があった。

もちろん 「かこつ」 である。

国語辞典の 「託つ」 の定義を見ると

 心が満たされず、不平を言う。ぐちをこぼす。嘆く。

とあった (goo辞書 [託つ])。

「無聊をかこつ」 などというが、私はその場合は 「手持無沙汰なさま」 くらいな意味だと思っていた。

上の辞書の定義を見ると、そういう状態であるというだけでなく、不平や愚痴をこぼしたり嘆いたりしなければ、そういう表現が使えないのかなと思ってしまう。

でも、実際には 「ぐちをこぼす」 ことがなくても、そうしてもおかしくないという状況を表すのにも使っていいのではあるまいか。

上に引用した文の 「不自由な暮らしを託つ者」 とは、不平を言っている人たちという意味ではなくて、「不自由な暮らし」 に甘んじざるを得ない状況に置かれている人たちのことを表しているように思われる。