夏目漱石の 『門』 を再読しようとして、ずいぶんと放置したままだったのを取り上げて前の続きから読もうとしたら、こんな文に出会った、

 ほんとうに、こわいもんですね。元はあんな 寝入った子 じゃなかったが --- どうもはしゃぎ過ぎるくらい活発でしたからね。それが二三年見ないうちに、まるで別の人みたように老けちまって。

これは、主人公宗助の叔母が宗助のことを評したセリフである。

「寝入った子」 というのが面白い。

「寝入る」 は 「眠りにつく」 ことを意味する。

それが転じて 「活気がなくなる」 ということも意味するのだ。


この 『門』 には金(かね)の話が出てくる。

宗助はかつて自身の家屋敷の処分を叔父に依頼していたのだが、それがどうなったのか聞かない (聞けない) ままになっていたのが、叔父が急死してしまった。

弟の小六を大学にまで通わせてやるだけの資力は宗助にはない。

そこでやっと叔母のもとを訪れて話をしてみると、家を処分した金は叔父が勝手に処分して、将来小六にやろうと思って購入した家は火事で焼けて灰になった。

だから宗助に渡す金はないと打ち明けられる。


思い出してみると、『三四郎』 にも金の話があった。

婚約した美禰子のもとに、借りた金を返しにいった三四郎。そこで美禰子の口から洩れたのが 「ストレイ・シープ」 という言葉だった。

『坊ちゃん』 にも、教師をやめて技師になった坊ちゃんの給料の額まで出ていたように思う。

『吾輩は猫である』 では金持ちの金田家の悪口が出てくる。

他にもそれらしいものがあった記憶がある。

「文豪」 の作品だとて、卑近なことが関心事として出てくるのだ。