ここでいう トキ は鳥のトキ、ニッポニア・ニッポンの トキ のことだ。

トキ を漢字で書くと 朱鷺 という表記がある。

たしか五木寛之の小説のタイトルに、その 朱鷺 という文字の入ったものがあったように思う。

しかし、トキ には他の表記もある。

という面白い文字だ。偏が、匕首 (あいくち) の下に 十 という形。音読みで [ホウ] と読む。


田中貢太郎というもの書きの 「上海瞥見記」 (平野純・編 『上海コレクション』 (ちくま文庫) 所収) という文章の中に

 その野鶏たちは娘姨と呼ばれている鴇母のような女を伴れているが、その鴇母が二階のあがり口に見張っていて、ものになりそうな客だと見ると、いきなり腕に絡みつく。

という文があった。

野鶏は ヤーチー と読むそうで、吉行エイスケは

 野鶏と云えば、一昔まえの上海を知ってる人々は四馬路の舗道の女と、青蓮閣に群がる驚嘆すべき娘子群を思い出すであろう。

と書いている (「上海・百パーセント猟奇」 から。出典は同じ)。

まぁ、そういった女たちのことだ。

娘姨 の読み方は ニャンイ である。

そうして 鴇母 という語が出てくるのだが、ここに 鴇 という文字がある。

トキの母と書いてあるが、これは 「やりて」 とフリガナが振ってある。

「やりて」 は今では 「ヤリ手」 などと表記する方が普通かもしれない。

用例.jp [鴇母] を見ると

 妓館を経営する妓女の母は「鴇母」と呼ばれ、・・・

という文などが示してあって、興味深い。


「トキの母」 は ヤリ手 なのだ。