廣瀬くんの憂鬱⑤前半 | 水城麻衣 -blog ver.-

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オンラインとオフラインで小説を書いています。小説は主にHPで公開。オフラインはサークル名「Mizkid」にて地味に活動中です。

さて、こっからはブログオリジナルの「廣瀬くんの憂鬱」です。

もうちょっとここで書いて、あとはHPにアップしていこうと思っています。

気が向いたら読んでみてくださいねー


★★



5.自覚する(前半)

 俺が、必要以上に堀口美鈴という人物に拘っていることを、俺自身が自覚するのには少し時間がかかった。情けないことだが。 
 美鈴さんが俺のことを廣瀬って呼ぶようになってからも、何となく俺のアニマルヘルスケア課通いは続いて、……通うったって、まあ週に一回か二回、昼休みの間とかそのへんを狙って覗いてみる程度だけど、でもいつも特に美鈴さんの態度は変わらなかった。
 俺も、そういう自分を深く追求しようと思ったことはなかった。



 当時の俺は、そのことについて深く掘り下げてみたりだとか、自分に問いかけてみたりだとか、そういう内省的なことは全くやっていなかったのだ。
 まあ、欲求のままに行動していたというだけだ。考えてみたら、それまでだって俺は常にそうだった。当たり前に高校に行って、一番得意な教科を選んで大学に行って、欲求のままに遊んで、女を抱いて。
 そして今も、欲求のままにヘルスケア課に行っていた。それだけだ。

 

 えてしてこういうことは、本人よりも周りのほうが状況を正確に把握していたりする。

 俺はある日、そのことを思い知らされることになった。

 

 いつものように、アニマルヘルスケア課のドアを開けてみたら、その日は美鈴さんは机に座っていなかった。
 美鈴さんの机の上にはパソコンが起動したまま乗っていたし、ちょっと席を外しただけなんだろうと思ったけど、……残念だな、と瞬間思った俺の思考に、俺は自分でハッとした。
 残念?
 何で残念って思ったんだ、俺は?
 と、俺が何か言うより前に、美鈴さんの向かいに机がある長峰さんが顔をあげて、俺に気付いた。


「よお、廣瀬。……堀口さんは法務課に書類持ってってるよ。すぐ戻ってくると思うけど」

  

 めちゃくちゃ当たり前にそう言って、すぐパソコンに顔を戻したその普通の顔に、しかし俺はガーンと頭を殴られたようなショックを受けた。
 ……部屋に入っただけなのに、なぜ、俺の思考を見透かしたように、美鈴さんの行く先を教えてくれたんだ?長峰さんは?

 

 もしかして、俺の言動って、
 ……周りからみてもはっきり、執着してるのか?
 この、いま席を外している、この人に?

 

 ちょっと待て。
 待て待て。
 
 俺は気分を落ち着かせようと頭を振った。

 冷静に考えろ。
 俺が?
 ……執着してる?あの人に?

 

 いやいや。何であの人に執着する必要があるんだ。
 落ち着け。俺。
 

 正直、言っちゃ悪いが、特に美人でもなく、スタイルがいいわけでもなく。
 いつも何を考えているのかよくわからないし、言動は唐突だし、何かほっといたらころころとどこかに転がっていきそうな、動物っぽい……しかも犬とか猫とかそういう普通のじゃなくて……あれだ、こないだうちの経営するペットショップに見学に行ったときにいた、えっと、そう。巻き毛のモルモット。
 明らかに頭と体の大きさのバランスが悪い、ころころしててぴるぴると鳴く、あの可愛いやつ……。

 

 ……。
 
 俺はまたガーンとショックを受けた。

 

 いつの間にか、堀口美鈴という人物について深く考察していた自分に気付いたのだ。