「泣いてもいいんですよ」
優しく髪を撫でられ、慈しむかのような声
その言の葉が届いた瞬間
鼻の奥がツン・・と痛みを覚えた。
「我慢しすぎなんですよ」
心地よい風が身体を撫でる昼下がり
ぼんやりと縁側で揺れる木々を見つめていた
咲弥の耳に届いた声。
ゆっくりと・・・
本当にゆっくりと顔をそちらへ向ければ
柔らかく自分を見つめる弁慶の姿があった。
「我慢なんて、していないわ」
「・・・・・・そうですか・・」
弁慶に答え、そっと視線を床に落とし
再び庭へ視線を戻した。
サワサワ・・・・・
サワサワ・・・・・
風にあわせて葉が揺れて
心地よい音となって咲弥の耳に届く。
風の音を訊きながら目を閉じると
背後からそっと回される腕。
誰のモノと・・・聞かずともわかる。
トンッ・・と自分の身体を弁慶にあずける。
「咲弥さん・・・・泣いてもいいんですよ」
弁慶の言葉に、心が震える。
優しい言葉、赦されるならばその言葉に
全てを委ねたいと思う。
けれど・・・・・
「まだ、大丈夫よ」
まだ何も変わってないから
泣くことも許されないような気がしているから。
「咲弥さん・・・」
抱きしめる腕が強くなった気がした。
弁慶が呼ぶ声が震えているような気がする。
だけど、それに気がつかないふりをして
目を閉じた。