突然だった。
ふと夜中に目を覚ますと、聞こえてくる小さな声。
それは本当に小さくて、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声。
その声は、切なくてそれでいて高らかな、どの人が聞いても
心落ち着き、眠りに落ちる声だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日も、聞こえる・・・」
かすかに聞こえるその声に導かれるかのように
敦盛は廊下を歩いていく。
誰も起きている気配はない。
いつも聞こえてくる声の主が誰なのか知りたかった。
秋に入り、夜中は肌寒く、ぶるりと身体が震えた。
「・・・・・」
視線を上げると、庭に一人佇む影を見つけた。
しん・・・と静まり返る庭に一人
その人は立って空を見上げている。
聞こえる声は、知っていた人物の声。
「咲弥殿・・・・」
かすかに思い出す、遠い記憶。
甘くて、切なくて。
いつも心の拠り所にしていたときに聞こえてきた声。
咲弥の声は、不思議な旋律を奏でて
敦盛の心の中に入り込んでくる。
悲しそうに、切なそうに聞こえる声に
胸が締め付けられる。
いつもと違う声色に敦盛は身動きがとれずにいた。
(何を思って。貴方は・・・)
じっと咲弥の背中を見つめたまま時間は過ぎていく。
すると突然音が止んだ。
意識を戻された敦盛は、声をかけるのに戸惑いながら
一歩踏み出そうとした。
「さ・・」
自分を護るかのように抱きしめ、崩れ落ちる咲弥の姿に
敦盛は再び動きを止めた。
彼女の悲しみが全身から感じて
彼女の苦しみが空気を伝わり感じて。
言葉を飲み込んだ。
そして、懐にある横笛を取り出し
奏で始めた。
突然聞こえてきた音色に咲弥は
びくりと身体を揺らし、ゆっくりと後ろへ視線を向ける。
目を伏せて、音を奏でている敦盛に
咲弥は唇をかみ締めて涙を流した。
音で分かる、彼の言いたいことが。
だけど、それを伝えるには今の自分には出来なかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・・・・」
「・・・・・・」
音が止み、再び夜の静寂が二人を包み込んでいる。
「・・・・・・咲弥殿」
「・・・・・・」
「私は・・」
うずくまり何も話さない、咲弥に敦盛は声をかけるが
上手く言葉をつむげずにいた。
「ありがとう」
「・・・・咲弥殿・・」
「敦盛君の気持ち、ちゃんと伝わったから・・・」
立ち上がり、微笑む咲弥の姿は
まだ痛々しく写る。
「何があったのか・・。話してはくれないか?私では頼りもとないかもしれないが・・」
「そんなことない・・・。そんなことないの・・・」
言いながら、敦盛の腕の中に滑り込む。
突然の咲弥の行動に敦盛は慌ててしまうが
震えている彼女の姿に、どうすることも出来ず
そっと背中に手を回す。
「大丈夫だ、いつも咲弥殿には私達は助けられている
だから・・・」
「ありがとう・・・・。ごめんね」
涙を流しそれでも感謝と謝罪を述べる咲弥を
敦盛は黙って抱きしめた。
お題配布先 【恋したくなるお題】
管理人 ひなた様
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あとがき
敦盛君を題材で書いてみました。
敦盛君は、寡黙の子なのでほとんどしゃべってないですけど
タイトルには相応しい人物として書いて見ました。
何も言わず、歌や曲でお互いを理解できる。
そんなコンセプトでですけどね。