「つかこうへいを語ろう」イベント覚え書き(追記あり) | 続あたれぽ

「つかこうへいを語ろう」イベント覚え書き(追記あり)

《第266回新宿セミナー@Kinokuniya》
新潮社『つかこうへい正伝1968-1982』刊行記念
「つかこうへいを語ろう」風間杜夫×平田満×長谷川康夫トークショー

に行きましたので覚え書き。
「この本に詳しく書いてありますが(笑)」というエピソードも多く、『つかこうへい正伝1968-1982』にない話だけ残そうと思いましたが、年内に読めそうもないので内容ダブったらごめんなさいと読まずにポスト。この時のサイン会で買おうと思ってたら先着100枚とかで打ち止めだったので、ちょっと機会を逸した。(例によって現場ではメモってません)

※本を読んだのでちょっと注記しておきます。


私が最初に観たつか芝居は、長谷川康夫演出、石丸謙二郎×岡本麗の『寝盗られ宗介』で(あと酒井敏也と…若い女優役は出なかったと思うので3人だけか、ナレーションに高野嗣郎がいたかどうか ※新資料がみつかりましたので最後に追記しました)、こちら1986年10~11月、本の標題でおわかりの通り、つかこうへい事務所解散は1982年、わたくし遅れてきた青年です。89年につか先生が復帰して『幕末純情伝』『飛龍伝』あたりの派手芝居の頃、古参の人が「本来のつかは役者の活き作り」云々と昔話を持ち出したりしても、長谷川演出を観ていたので、ああいうのだろうなあと想像はつきました。(山崎銀之丞が上京する前の『熱海殺人事件』はだいたい昔通りなんじゃないかと思うんだが。)

幕開け前、つかこうへい事務所時代の『蒲田行進曲』の音声。「それじゃ俺たちの映画ってことにしてさ、階段落ちやりましょうよ」あたり。監督が平田さん?と思ったら、監督は長谷川さんでした。ここが出演の3人が一番絡んでるとこなのかな、っていうかヤスがほぼしゃべってないよ…。

さて、内容ですが、長谷川さんが音源まで用意してきて音楽の話をたくさんしてくれたので、当ブログでのつか芝居の扱い方の例に則って基本的には音楽の話を書いておきます。
カギカッコも付けない直接話法とか混じっちゃってるんで敬称略というかデタラメご容赦。

つかこうへい事務所ラスト公演『蒲田行進曲』の大フィナーレ(それまで派手派手しいカーテンコールなどはしたことがなかった)、小夏(根岸季衣)の「カット、OK!」と共に「あなたは」とイントロをカットしたアリス『冬の稲妻』がかかり(※本ではイントロ使ってることになっています)、それまでボロ衣装だった男たちがタキシード姿で現れ華麗に踊る。やがていつの間にか姿を消していた小夏(全編稽古着姿だった)が白タキシードに着替えて再登場する。




撮影:斉籐一男

タキシードは急に思い付いたつかさんがいきなり当時フォーマルウェアのCMをやっていた田中邦衛さん(『ヒモのはなし』で主演 ※『ヒモのはなし2』でした)のマネージャーに電話して負けさせるよう言い含め、僕らぞろぞろ会社まで買いに行きました。その後10年は着てた。つかさんの結婚式とか。(長谷川)

※本では「サンヨーコート」と書いてあり、イベントでも長谷川さんはそう言ったのですが、すかさず風間さんと平田さんから「カインドウェアだよ」と突っ込みが入りました。ネット上に資料が少なく、ちょっと時間かけて探しましたよ。

このイントロをカットするような、印象的なところを適正な音量で(基本的には轟音なんですが)ポンと出し、台詞に合わせてボリュームを極端に上げ下げするつか流音楽の使い方を長谷川さんは力説。時には最前列上手に大津あきらが座ってギターの生演奏をおこなうことも。

傷つくことだけ上手になって 大津彰作品集('70~'79)
「熱海殺人事件」から「いつも心に太陽を」「広島に原爆を落とす日」まで
つかこうへい演劇全挿入歌集!!



「つかさんはアリスが好きだった。」
劇団解散に際しては劇団員たちは意外にあっけらかんとしており、風間さんひとり、芝居で使っていたアリスのLPを持ち帰って一晩中それを掛けながら泣き明かした。


異様に仲のいい劇団員たち、打ち上げはつかさんのいる一次会を静かにやり過ごし、解散したふりでつかさんを帰して劇団員だけ戻り二次会三次会、朝まで飲み明かしても別れがたく、新宿京王プラザホテルなんかで朝食を取ってもまだ足らず、一旦帰宅再集合してロマンスカーで箱根に行って一泊してようやく気が治まるなんてこともあった。

焼肉はやたら行った。
『いつも心に太陽を』『広島に原爆を落とす日』二本立てだったか大阪公演では打ち上げの焼肉店店主から「あんたらよう食いはりますなあ。牛一頭食ったで」と言われ、そこまでは食ってないと反発したつかさんは『蒲田行進曲』の台詞に取り入れた。
これを書くに当たって映画『蒲田行進曲』を見直しましたが、映画ではカットされてますね。ただDVDに特典で入ってる予告編Aに本編にはないスキヤキを囲むシーンがあり、撮ってはいそうです。




たぶん草彅の時(1999年)の上演台本でヤスが語る銀ちゃんの態度


『蒲田行進曲』のヤスと小夏の結婚式シーンで姿の見えないヤスを探すおちゃらけの後、小夏の横、花婿の位置「そこにいるのは俺だよ」と銀ちゃんが言った途端にかかるキーボードのイントロに鳥肌が立った。(長谷川)


柳ジョージ&レイニーウッド 「青い瞳のステラ 1962年夏・・・」

ちなみに先の上演台本には「俺だよ」はなくて(銀ちゃんが少年隊の錦織なので結婚式では「君だけに」を歌う)、銀ちゃんが結婚式の二次会の場所を教えてもらえず「銀の字、人間、二次会にも誘われんようになったら終わりだな」と言われるシーンがあります。

大音量でポンと出す逆の使い方として、音響の山本能久さんが見つけてきた曲だったと思うけど、「お前のことを好きになればなるほど痛いんだよねこの胸が」のとこでシーンの頭から気付かぬうちに薄ーく入ってる曲。


フランク・ミルズ 「メアリー、スコットランドの女王」

映画にする時、深作欣二監督が気に入って階段落ちのとこでも使ってた。(と、長谷川さん。確認すると、銀ちゃんが指輪を渡したとこと、上記小夏とヤスの愁嘆場、そして階段落ちた後の3箇所で使っています。)

こういうBGMとして使う音楽はシーンに合わせて長さを調整することがあり、昼間に『熱海殺人事件』を観た人は聞いたと思うけど浜辺シーンのマイペース『東京』なんか延々とかかってたりする。音がうまく繋がるように当時だからテープを切って貼って音響さんが編集してた。


曲はパチンコや飲み屋や喫茶店でかかってて(つまり有線。「雀荘は?」「音楽かかってなかったよ」)引っかかったものをすぐ利用した。

「いとしのエリー」はサザン3枚目のシングルだが、前2曲とノリが違うせいかまったく売れておらず、喫茶店でおそらく初めて聞いたつかさんは翌日には稽古場に持ち込んで『広島』で風間とかとうかずこのふにゃふにゃした変なダンスシーン(風間「踊れてないけどな」)が誕生した。



「反逆のテーマ」(テレビ番組『特別狙撃隊 S.W.A.T.』主題曲)は楽日の予告でしか使用していないのでお客さんはつか芝居の曲としてはあまり馴染みがないかもしれないが(『つか版・忠臣蔵』イントロでも使われている)、これを聞くとナレーションをする高野嗣郎の顔が浮かぶ。高野も今日来ています!(長谷川)


【思い出話】
復帰作『今日子』で『幕末純情伝』の予告を観ましたが、いきなり楽日を取ってるとは思わないので、この時は毎回付いてたんじゃないでしょうか。満席の場内、春田純一の登場に最も興奮していたのは昔も今も特ヲタの私であったと確信しております(一緒に行った二人は春田のハの字どころかゴーグルブラックもダイナブラックもマッドギャラン様も知らなかった)。予告は基本的には『今日子』の出演者で演じられていて、岸田今日子演じる伊藤博文は網タイツのナチ女幹部スタイルで機関銃ぶっ放してました。春田が龍馬役(着物)だったと思うんだけど、岸田さんに全部持ってかれて覚えてない。
【追記】
例によって書いてから調べたところ(いい加減に癖を直したいが、見る度違うって、つか芝居みたいでいいよね……よくありません)春田さんがインタビューで予告でやったのは本編同様勝海舟であると証言してました。
G2|1994年「つかこうへい」という世界(一志治夫)|第4回:変わり続ける台詞〈1〉
(登録しなきゃ読めないところには幕末予告の話はありません。)

紀伊國屋ホール。前方の壁の出っ張りは、右が音響ブース、左が照明ブース。客席の5、6列目くらいまで見下ろせる。


つかさんは公演中は基本的には音響ブースに陣取り、客席の様子ばかり見ていた。客の受けで台詞・シーンが公演中であろうが減ったり増えたりした。
この「つかさんはあそこにいて」っていう話は、追悼公演のカーテンコールで部長の席なんかにスポットライト当てて「つかさんもここにいます」って演出より生々しくつかこうへいの存在そして不在を感じさせた。

イベント終了の音楽は私には『飛龍伝'90』シリーズのカーテンコールでお馴染みの「Let's Twist Again」で、ここで使ったということは解散前の公演でも使ってた曲なんだろうな。



この数日後に観たいのうえひでのり演出『熱海殺人事件』は、定番の音楽は「白鳥の湖」と「東京」しか使わないイレギュラーなので、いつもの音楽メモありません。
と言いつつ書くと、タイトルコールなし、パピヨンの代わりにゴッドファーザー愛のテーマ、カーステレオからは「白鳥の湖」のポップアレンジ。透けるセット2階部分にギタリストがいて生演奏が入るのは大津あきらオマージュか。



※追記 長谷川康夫演出の『寝盗られ宗介』

当時の資料ではないのですが、1990年10月に長谷川の作・演出で風間杜夫・平田満・石丸謙二郎が共演した『夜明けの花火―新之介純愛指南―』のパンフレットにCカンパニープロデュースの上演記録が載っていました。



私が観たのはシアタートップスの方で、若い女優(たぶんミユキ)役は和気香子さん。紀伊國屋の再演での石井愃一はレイ子(奥さん)のお父さんじゃないかしら。



これパンフレットと言いながら当のお芝居については何も書かれてなくて(だから観た私もどんなお芝居だったか思い出せてない)、長谷川、風間、平田、石丸と、出演していない根岸季衣を加えた5人への個別ロングインタビュー集で、つか事務所解散を乗り越えて芝居を続けてる俺たちっていう、『つかこうへい正伝』のエピローグみたいに読めて興味深いです。

長谷川「いや、つかさんのエピゴーネンっていわれても、これは全然いやじゃないの。それに対して、おれは違うんだとムキになるところさらさらないの。つまりね、僕は、自分がそばで見てきた、ある時期つかさんの中にあった人間の関係性とか情感みたいなものが好きで信用してるの。できればあれだけは忘れたくないと思ってるの。」

ついでに1995年6月加藤健一事務所『松ヶ浦ゴドー戒(まつがうらごどーのいましめ)』のパンフには加藤と風間の対談が載っているので、これもセットで。




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