恋衣  六  『真実』 | マチルダのブログ

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包丁を手にしたまま 隙をうかがう岩手



女が背を向けた瞬間 包丁を逆手に取ると 刃を女の背に埋め込んだのだった



そのまま胎児に当たらないように気づかいながら 何度も何度も包丁を突き立てる



女が動かなくなると 死体を紐で吊るし 腹を割いて胎児を取りだした



胎児を手に立ちつくす姿を見て 彼女を人間とみなすものは 誰一人いない




少しの間 なにも考えられずに立ちつくしていると


 

ふと 岩手の目についたものがある 女の服の裾からでも落ちたのであろう



無意識に手にとって 眺める岩手



お守りだった 



刺繍がしてある                恋衣



「恋衣   恋衣   恋衣」 岩手は呟いた



見れば故郷を出る時 自らの手で愛娘の首にかけてやった あのお守りだった



思考を止めようと 理性に抗ってみた  わかりたくないと現実は無理やり頭に食い込んでくる



「娘とその孫を殺しちまった」 そう思った瞬間



体の中で 大きな塊が生まれたのがわかった どうにかして口から押し出そうとするが



出てくるのは嗚咽(おえつ)ばかり 



「ああ ああ あああ」 涙がでない 頭をかきむしり 大声で叫ぶ岩手は



もはや自分が何をしているかも自覚していなかった