中とじ製本とは,二つ折りにした本のノドの部分を針金で表紙ごとホッチキス(一般名称はステープラーだが,以下,通称にならいホッチキスという)でとじる製本様式のことである。週刊誌を想起してもらえばわかりやすいだろう。
中とじ製本には次のようなメリットがある。
- 手軽にできるわりに,印刷業者に依頼したかのような本格的な印刷物の雰囲気を演出できる。
- 完全な見開き状態に開くことができる。
- 両面印刷が前提なので,用紙の節約になる。
中高生であれば,宿題のレポート提出や各種委員会での企画書の提出といった際に,中身はともかく,外形だけでも見栄えよくすることで,少しは評価が高まるかもしれない。
手軽とはいえ必ずしも皆がやるわけではないので,身につけておけば,大学生や社会人になっても,何かと重宝する技術である。
中学受験をサポートする立場にとっては,入試過去問現物の問題用紙が中とじ冊子形態である場合,本番さながらの演習のためにも役立つ(問題用紙が中とじ冊子形態である学校は多いが,針金どめするかどうかは学校による。私の気づいたところでは,たとえば渋幕,豊島岡,浦和明の星は中とじ冊子だが針金どめは省略,聖光は針金どめあり。四谷大塚過去問データベースのスキャン画面のノド部分を観察すれば痕跡が認められることがある)。
一昔前は,いったんページごとに印刷したうえ,ページ割を考えながらコピー機に陣取って,両手で2枚ずつ左右にめくっていくという職人芸が必要であったが,今ではそのような芸は必要ない。
最も楽なのは,いったんPDFファイルを作成し,印刷ダイアログで「ページの拡大/縮小:小冊子の印刷」を選択のうえ両面印刷するという方法である(くわしくは、Acrobatヘルプ「小冊子の印刷」を参照)。
そうして印刷まではできたとする。ここからが本題である。週刊誌がそうであるように,二つ折りの中心を針金でとじるにはどうすればよいか。
ふつうのホッチキスでは,中とじで要求される向きに針金をとめることはできない。
中とじ用のホッチキスを使う必要がある。最も普及している代表的な中とじ用ホッチキスがこれである。
マックス タテヨコホッチキス ホッチくるHD-10V
タテ・ヨコにマガジン部分が回転するという,非常に良くできたアイデアである。一台にして普通のホッチキスとしても中とじ用のホッチキスとしても使える。
しかし,中とじ用ホッチキスとしてみたとき,タテヨコホッチキス ホッチくるには大きな欠点がある。10号針にしか対応していないという点である。
先に中とじ製本について,本格的な印刷物の雰囲気を演出できるというメリットをあげたが,10号針では本格的な雰囲気とはいいがたい。
周囲で目にとまる印刷物をよく観察してみてほしい。印刷業者による中とじ製本は,ほとんどの場合3号針が使用されているではないか(たとえば,サピックスの内部生向け教材も3号針である。スキャン作業やコピー作業を効率化するためにいったん針金をハズした場合,あとで元に戻す段となって,とめる針金のサイズが違うのでは体裁が悪い)。実用面でも,3号針は10号針より針の足が1mm長い分,より多くの紙をとめることができる。
じつは,タテ・ヨコホッチキスのアイデアの元祖は,マックスではない。
ETONA社から出たスウィベルというホッチキスが元祖であり,登場時から特許取得(ないし出願中)を標榜していた。私が大学生の頃と記憶しているが,まず10号針用のスウィベルが発売され(400円程度),その後,3号針用のスウィベル2が発売された(600円程度)。私はいずれも真っ先に入手し,スウィベル2のほうは今でも愛用している。
さらに時を経ること数年,ETONA社が倒産。スウィベルは市場から消えてしまった(ここにETONA社が倒産したときの様子がうかがえる文章がある)。
そして,忘れた頃に登場したのが,マックスのホッチくるHD-10Vというわけである。ETONA社スウィベルの発売開始からかなり経っている。ETONA社の特許保護期間(20年)は終了しているのだろう。
2011年頃,うれしいことに,このETONA社のスウィベル2がセベク社に引き継がれていることを発見した。同社のホッチキス通販で1,103円で販売している。
これなら,印刷業者による中とじと同様に3号針による中とじ製本ができる。このスウィベル2こそが中とじ用ホッチキスの元祖にして決定版といえよう。
【2014年1月追記】ここで紹介したスウィベル2は残念なことにどうやら再び廃盤となってしまったようである。唯一の販売窓口であったホッチキス通販のラインナップから消え,フォームからの問い合わせにも返信がない。スウィベル2を大型化した上位モデルであるスウィベル-210については販売ページは残っているものの長らく在庫切れ状態が続いている。
【2015年7月追記】セベク社のホッチキス通販のウェブサイト sebek.jpが消滅している[その後,ドメイン名「sebek.jp」はクロコダイル革製品業者に渡っている]。セベク社自体存続しているのか不明であるが,大型化した上位モデルであるスウィベル-210をAmazonで入手できる[→その後、入手不可になった。まだ美術教材総本舗で注文が可能であるが、実際に取り寄せ完了にまで至るのかは不明である]。
【2017年1月追記】Amazonで3号針対応のマガジン回転型ホチキスが販売されるようになった。いずれも出所が定かでなく耐久性は不明であるが、コンパクトかつ比較的安価なので、試してみるのもよいかもしれない。
(イベリ)eBerry 360°回転ステープラー【4wayタイプ】 米字ストッパー 縦/横/斜 コンパクト
(ユンコ)Yunko お得な3点セット タテヨコホッチキス 25枚とじ
以上のようなマガジンが回転するタイプではなく,柄を本の横幅より長くすることで中とじを可能とするタイプもある。3号針対応に以下のものがある。
- マックス 中とじ製本用ホッチキス HD-3LDIII
- マックス 大型中とじ製本用ホッチキス HD-12LR/17
- コクヨ 中とじ用ステープラー SL-M41
- サンコスモ 中とじ製本用ホッチキス
これらはマガジン回転タイプと異なり,筒状のものや箱には使えない。スウィベル2に比べて図体がデカい上に用途がかぎられ価格も高いが,スウィベル2が入手できない以上,次善の選択として最有力だろう。
このうちとくに,大型中とじ製本用ホッチキス HD-12LR/17は,針足が10mm(1210FA-H使用時30-70枚)と13mm(1213FA-H使用時50-110枚)と17mm(1217FA-H使用時100-160枚)の3種類の針が使える。大型で場所をとり,また実勢価格15,000円と高価であるものの,中とじの用途だけでなく,厚口のホッチキスとして使用できる利点がある。
このほかにも,中とじ関連の文具が登場している。
- 卓上型自動中とじ製本機「フルオートマチック製本マシン」
69,800円と高価だが,ホッチキスどめだけでなく紙折りまで自動的に行う。大量に製本する場合はよいかもしれない。3号針使用。 - ナカトジータ
用紙の位置ずれを防ぐなどして中とじ製本を効率化する。紙折りはしてくれない。ホッチくるHD-10Vを組み込んで利用するものであり,10号針のみの対応である。3号針非対応であるのが残念である。 - 多機能スケール ナカトジール MC-140
ふつうのホッチキスで中とじ製本を可能にするが,10号針用ホッチキスのみの対応である。
- 3号針に対応すること。
- とくにマックスに対して望むのだが,フラットクリンチとすること。現状の中とじ用ホッチキスはすべていわゆるメガネクリンチであり,完璧を目指すなら,ハンマー等でメガネ部分を平らにする作業が必要となる。マックスにはフラットクリンチの商品があるのだから,それを中とじ用ホッチキスにも応用していただけるとありがたい。
- マガジン回転型の場合,中とじ位置の狙いを明確に示すスケールを台座に表示すること。