わたしが癌で人間界を去り幾星霜。3つの癌(子宮がんと乳がんと胃がん)で他界したが死去して良かったのかもしれない。
霊界に来ると髪は伸びに骨ばかりだった皮膚は元通りで削除した胸もフクヨカになった。それに体中あった手術跡が消えたのも嬉しい
今のわたしならあの人、そうわたしには好きだった男の人がいる。
一度もあったことがないのだけどわたしの手記を遺品として送った
ほど大好きだった。
”今のわたしなら逢える”
早く転生の順番こないかと思っていたら順番じゃないらしく300年ここにいても生まれ変わることが出来ない人もいるらしい。
あの世にはカレンダーも時計もないから過行く時間、時の流れがわからない,まあ年をとらないから歳月は関係ないのだけどだがわたしには年の経過を知っておきたかった。
27歳で他界したが年を取ることがなく現在の見た目も27歳のままで昔から変わることはない。
「霊界主査、いつになったら現世へいけますか」
「もうちょっと待ってください」
「え~、いつもそう言っているじゃない」
霊界では時の流れがゆっくりと流れていて現世とは異なる。最近霊界へ来た人と話すことがあり聞いたところ2040年だそうでつまりわたしが死んだのが2017年だから既に23年経過していることになる。わたしの愛した人の元へ生まれ変わりたい、いわば転生
転生するには順番待ちではなく転生志望の申請を書類で霊界主査に
提出し承認されると霊界の上層部、人間がいうところの神が決定するのだ。愛した人は若くなくわたしが他界した時には既に齢50歳
そして23年の歳月が流れているので現在は70代であり死へのリーチがかかりいつ他界してもおかしくない、死んでいなくても寝たきりになったあの人に会っても病人の世話するだけで折角転生しても何にもならない。
「久子さん、さっき連絡がありこれから現世へ転生できるそうです」
「突然ですね、まあいいですよ」
「一言言っておきますが自分の姿に落胆し奪命してしまうと2度と転生出来ないどころか地獄へ落とさると覚えていてください」
白銀の結晶石みたいな霊界で意識がもうろうとし再び意識が戻った
のは黒く太い柱が組んである狭い隙間だった。霊界には黒い柱などなくすべてが結晶石で作られている、黒い柱があるのは地獄である
”ここはどこだろう”
まだ久子は自分が人間として転生したと考えていた。
ここが現世だと気がついたのは柱の上をネズミが走っていくのを見たからだった。
しかし妙だ、柱に沿って視点が動く、自分がまだ人間に生まれ変わったと思っていたので狭い場所だからうつ伏せなのかと思っていた
だが柱丸い丸太、丸太から落ちないのはおかしいと疑念にかられた
そこで霊界主査が言った言葉で謎が解けたのである。
”ひとに転生するとは限らない”
獣の一種かもしれないと思ったら気が楽になった。久子が好きな獣だとしたらアライグマでも猫でも鳴き声でわかりそうなもの、自分が何になったのか判断するために鳴き声をだしてみた。
”でない”
声の代わりに出たの紐のように細い舌だった。しかも長く先が二股
に割れていたのには全身が凍り付くのを覚えた。
”まさか”
”いやいやいやそんな筈あるわけない”
しかし舌を伸ばすとねずみがいる場所がなぜか知ることができた。
生前久子が嫌っていた生物がクモ、ムカデ、トカゲ、毛虫、芋虫、セミやカブトムシなどの甲殻類にハチと多いが一番嫌いなのが蛇だった。
蛇の蛇行して進む姿をみると気持ち悪くなる。
蛇を触った人の手に触れるのは嫌だしもし触ったら除菌剤で消毒する。もし足で踏んでしまったら履いていた靴は燃やして処分する。
雑誌の写真でも見ると吐き気がした。
生前忌み嫌っていた久子だったので現在の自分を受け入れられず殺して欲しいと考えるは仕方ないことだった。この家には自分の愛した人しか住んでいない、だがあの人に今の自分を見せたくはない、見せれないとの葛藤があって屋根裏の隅に1週間どこにも行けず籠る
引き籠ってみても空腹は進んでくる。
「うるさい」
あの人が縦横無尽に駆け回るネズミたちに罵倒する怒鳴り声が聞こえた。押し入れの中で柱を食い削るネズミのせいで夜中押し入れを開けたり閉めたり繰り替えずあの人。台所では戸棚のなかで騒音を立てて面白がるネズミ達。
彼女は彼の為、ねずみを取る決心をした。
このままでは彼は睡眠不足で寿命は絶えてしまうだろう。
彼に自分の姿を見られる訳にはいかない彼女は深夜、彼が寝ている隙に決行しようと決めたのである。初めて食べるネズミはおいしいのだろうか?骨っぽくばいのだろうかと不安はあった。
ねずみを捕獲するのは簡単だった、舌にネズミレーダーがあったので楽にネズミのいた場所がわかったからだ。音を立てずにゆっくりと進むのは得意だったので相手に気付かれることなく近づける。
相手の脊椎に噛みつけば相手は動けなくなり簡単だ。だが食事は簡単におわらなかった、彼が起きてきたのである。
あれは食事している最中だった。
”うわぁ、ます、骨っぽい”
ねずみの長い尻尾や手足を食道に飲み込むと気持ち悪くなり吐いた
”ゼェゼェ”
彼がトイレの為に起きて来たので彼女は焦りを感じた。
”なんで今トイレに起きるのよ”
一番見られたく無い場面で彼に見つかってしまった。
しかも身体の上半身が”ぼっこり”膨らんでいた時だった。
寄りによって上半身が膨らんでいる時に彼と彼女は視線が交差し彼女は逃げたい気持ちで一杯だったがネズミを食べたばかりで少し待機しないと胸のムカつきで動けない絶体絶命。
”ありがとう”
彼女は殺される覚悟をしたが意に反して感謝された。
”わたしは蛇、気持ち悪い生物”
なのに彼は邪険にせず棒で突いたりせずそれどころか有難うと言った、彼女は投げかけられた言葉にうれしさを感じた反面恥ずかしい
気持ちで一杯になった。
これからは冷蔵庫や食器の入った戸棚で食事するのはやめようと誓う彼女であった。
久子が現世へ転生してから3年の月日が流れその年は十数年ぶりに大雪となった。ねずみもすべて食い尽くした彼女は報告のため久々に彼重造(じゅうぞう)の部屋を訪れると普段なら起きている朝7時だが重造は寝ていて目を覚まさなかった。
”なんで人間の姿に”
蛇の姿が解け人の姿に戻ると眩い輝きが差し重造を照らし出した。
この情景は昔みた記憶がある、あれは病室で母が泣いていた時だった。病室の天井付近からベッドに寝る自分を見つめると母がわたしに覆いかぶさり泣き叫んでいたのを思い出した。
だとすれば彼はベッドにはおらず天井にいる筈で彼女は上を見上げた。屋根裏には3匹の蛇と共に若返った重造が微笑んでいる。
いくら幽体になった久子であっても好きなあの人が死に行くのは刹那く悲しい、どこから溢れてくるのか解らないほど涙は流れ続けた
涙で瞳を閉じた刹那、再び瞳を開けると初老の夫婦と中年の美しい女性になっていた。
「私たちは代々蛇になりこの家を守っていたのです」
「わたしだけ蛇に転生したのではないのですか」
「そう、でも家の主人が他界しこの家も滅びるときがきました」
音をたてて崩れていく母屋、屋根が落ちると頑強に見えていた大黒柱は亀裂が走り粉々に裂けて土壁のせいで土埃は煙幕となり家の崩壊を眩ました。
何十年も雨や風から家を守ってきた分厚いトタンは何年も錆に腐食され粉々になると強い風で吹き飛ばされ土地には家が建っていたようには思えない更地となった。
数年後に更地が陥没し沼地となって隣家の寺が買取り管理することになる。
この物語はフィクションであり実在の人物とは
関係ありません