元税務調査官税理士前原貴之が教える税務調査の時期及び注意点

元税務調査官税理士前原貴之が教える税務調査の時期及び注意点

元税務調査官の前原税理士が、税金や税務調査についてのエピソードーを愉快に話します。

Amebaでブログを始めよう!

◇ 調査官の質問に対しては、回答をコロコロと変えないようにしよう!

質問に対して回答をコロコロと変えられると調査官の心情としては信用できなくなり調査先だけでは事実確認が困難と思われ、取引先が反面調査を受けるケースがあります

事前通知を受けて税務調査当日までの間に、質問を受けると想定される項目は、説明しやすいように関係書類もふくめて整理しておくことが大切です。事前準備を万全にして調査官の質問には、自信をもって回答できるようにしましょう!

 

 

◇ 少額の現金収入こそ、確実に経理処理を行いましょう。
少額でも現金収入を帳簿に計上しなかった場合は重加算税対象(本税の35パーセント)となります。

【事例】

修理業を営む株式会社Dの社長のEさんは、ある日、近所で日ごろ取引のないFさんから器具の修理を頼まれ引き受けました。

修理自体は短期間で終了するもので、金額も数万円程度であり代金についてはFさんから現金で頂ました。現金を手にした社長のEさんは、いつも苦労させている従業員の顔が目に浮かび、Fさんから頂いた現金で今夜、従業員全員に対して夕食(1人当たり5,000円未満)をご馳走することにしました。

社長のEさんは少額のあまり心が緩み、帳簿に売上計上するの忘れてしまい、夕食の際に支払った領収証さえも失くしてしまいました。

〇 その結果

後日、税務調査が入った際にFさんからの売上げを計上してなかったことが、調査官にバレしまい売上除外として重加算税対象として追徴されました。

〇 どうすればよかったの?

事例2ではEさんが、きっちりと売上げ計上処理するとともに夕食代の領収証を保存して費用(福利厚生費)処理を行えば、問題は何ひとつ発生しませんでした。

 

 

 

◇ 個人事業者から法人成り時のワンポイント注意点
個人事業時代の売上先が法人成り後も、売上代金を引き続き個人預金口座に入金した場合は
個人預金口座から法人預金口座への振替処理および売上計上処理を確実に行いましょう!

【事例】

株式会社Gの社長のHさんは1年前に個人事業から法人成りしました。個人時代からの預金口座振込の売上げ先には、法人名義の預金口座への振込先変更を依頼して、ほとんどの売上先が応じてくれましたが、1年に2回程度の取引がないK社だけは、以前と同様に個人預金口座への振込入金を行っていました。

Hさんは、営業等の業務の傍らに経理事務も行っており忙しかったため、年に2回程度しかないK社(個人口座預金入金)との取引について、法人口座預金への振替処理および売上計上処理を失念するとともに、個人分と混合になってしまい、後日、預金引出しを行い個人的に消費してしまいました。

〇 その結果

数年後に税務調査が入り、K社(個人預金入金)の売上が計上していない事実が調査官にバレてしまい、重加算税(本税の35%)対象として追徴課税されました。

〇 どうすればよかったの?

事例3では、個人事業時代に使用していた預金口座を法人成後も入念にチェックするか、あるいは預金口座自体を廃止にして、K社に決済方法の変更を依頼していれば、防げていた事例です。

◇ 経理ミスが発覚してもミスを隠すために請求書、領収証などの証憑類を訂正(改ざん)しないように!証憑類の改ざんは、仮装隠蔽行為として、重加算税の対象となリます。

 

【事例】

株式会社Aの社長のBさんは、税務調査の事前連絡を受けて調査対象になるH24年9月30日期の帳簿や証憑類の見直しをしていたところ、H24年10月分の経費を誤ってH24年9月30日期の経費として計上(未払費用)していたことに気付きました。税務署の調査官に指摘されるのを恐れたBさんは、経費の請求書に記載されていたH24年10月分の文字をバレないように工夫してH24年9月分に書き直してしまいました。

〇 税務調査当日

税務調査のプロである調査官の目はごまかせず、その経費の請求書を見て不審に思った調査官からBさんは質問攻めにされ、挙句の果てに経費の支払先であるC社に反面調査までされてしまい、請求書を改ざん(書き直し)していた事実がバレてしまいました。

〇 その結果

仮装隠蔽行為として重加算税(本税の35%)対象として追徴課税され、反面調査によってC社にも迷惑をかけてしまった。

〇 どうすればよかったの?

事例1ではBさんが請求書を改ざん(書き直し)をせずに、調査官から指摘を受けた場合は、単純ミスの場合に課される過少申告加算税(本税10%)で済むとともに、C社にも迷惑をかけずに済みました。

 

◇ 調査官には挑発的な態度はしないほうがよい!?
調査官も人の子、挑発的態度に燃え上がるケースもあります。

事前通知を受けて税務調査当日までの間に、質問を受けると想定される項目は、説明しやすいように関係書類もふくめて整理しておくことが大切です。事前準備を万全にして調査官の質問には、自信をもって回答できるようにしましょう!

取引先の担当者やキーマンに「裏交際費」を渡して、その後の円滑な取引を約束してもらう……という話を耳にしたことはあると思う。今回はこうした裏交際費の出所を突き止めた際のエピソードである。

私が大阪市内のある税務署に転勤して3か月が過ぎた。前任の兵庫県東部のある税務署よりも規模が大きく、最初のうちは雰囲気に慣れるのに大変だったものの、統括官(課長級)以下メンバーに恵まれ、仕事もスムーズに回りはじめていた。私がA社の税務調査を行うよう指示されたのはそんな時だった。

A社は建設業で、中堅の建設会社であるB社の下請け業者であった。前回の調査によれば、社長Cは非常に真面目で温厚であり、経理知識も豊富であるらしい。しかし、裏交際費資金の捻出のために架空外注費を計上していたのが見つかっており、要確認事項として「引き続き裏交際費資金の捻出のために売上除外(未計上売上)や架空外注費等を行う可能性がある」と記載されていた。

こうした裏交際費のやりとりは往々にして内密に行われるので、正当な経理処理をすることができない。少額であれば社長のポケットマネーでまかなうケースもあるだろうが、多額となると会社の経理を誤魔化して資金を捻出することになる。未計上の売上(売上除外)、あるいは外注費やその他の経費を架空に計上して支出したと見せかけた金銭をこれに充てることが多い。

準備調査の結果、今回も次の事項にポイントを絞ることにして、統括官に準備調査資料を提出した。

  • 現在も裏交際費は必要なのか。
  • もし裏交際費が必要な場合は、どのようにして資金を捻出しているのか。

統括官からの指示も、やはり裏交際費資金捻出のための売上除外(未計上売上)並びに架空外注費等計上の有無を確認すること、であった。

そしてA社の顧問税理士を通じ、10日後にA社の税務調査を行うことを事前通知。当日午前10時にA社に赴いて社長Cと経理担当者、顧問税理士に挨拶するとともに調査協力を要請した。

調査はいつも雑談から始まる。前回調査担当が記載していた通り、社長Cは非常に真面目で誠実であり、経理知識も豊富であった。雑談に混ぜた会社概況の聴き取りからも裏交際費の有無のヒントを得ることはできない。

午後からは帳簿調査で売上勘定そして外注費を調べていく。外注費については、架空計上がしやすい現金支出を中心に調査、その後、材料仕入、期末未成工事支出金等と調査を進めていくも特に怪しいところは見当たらない。時刻も午後4時半を過ぎていたのでここで1日目の調査は終了。帰署し、統括官に復命し2日目の調査に関する指示を受ける。「原価率の高い工事の外注費を念査せよ」とのことだった。

調査2日目、午前10時にA社に赴き、指示通り原価率の高い工事の外注費を念査した。すると奇妙な点が見つかった。F社の下請けの工事に関しては、他の工事に比べて原価率が高いのである。

工事内容等を見積書、請求書等の証票類及び工事原価台帳から確認したところ、G社が作業している工事部分とF社の工事部分が重なっている。両社とも支払い方法は小切手である。

2日目の調査を終了後、F社とG社の所轄の税務署に申告状況を確認すると以下の事実が明らかになった。G社は申告書の「勘定科目内訳明細書」の売掛金の欄にA社の記載があり、売掛金額もA社で計上している外注費と一致した。つまり取引の実態がある。

しかしF社は申告どころか会社登録がない。地図にも記載がなく、会社があるとされる住所にも所在を確認することができなかった。つまり、F社への外注費は架空に計上された可能性が高い。

直ちに銀行調査を実施し、外注費の支払いとしてF社に対して振り出した小切手の取立口座を調べてみたところ次の事実が判明した。

  1. 小切手の取立口座は、A社の社長Cの個人預金口座であった。
  2. 社長Cの個人預金口座の入出金状況を確認したところ、小切手入金後の2日以内にほぼ同額の金額が出金されていた。

後日、顧問税理士立ち会いのもとで社長Cを追及すると、B社の下請業者を取り仕切る部署の責任者に「裏交際費」を渡す必要があったこと、その資金を捻出するために、F社の外注費を架空に計上していたことを認めた。B社の下請業者として取引を行っていく上で仕方がなかったと弁解しつつ、青ざめた表情で、私と顧問税理士に「本当に申し訳ありませんでした。」と何度も頭を下げた。

私は架空外注費などの不正経理を今後二度と行わないように改善することを社長Cに強く求め、社長Cと顧問税理士は、今後二度と不正経理を行わないと私に誓ってくれた。

しかし、疑問は残る。

現実問題として、B社の責任者に渡していた現金は、社長Cのポケットマネーで賄える金額ではない。今後も「裏交際費」が必要な場合はどうするのだろうか。

その頃、私が20代だった平成一桁年度当時は建設業、その他の様々な業種においてこうした裏取引が半ば公然と行われていた。ひょっとしたらまた同じことが繰り返されるのではないか……そう不安に思ったことを今でも鮮明に覚えている。大阪市内のある税務署で1年目に経験した出来事であった。

 

 ・元税務調査官が語る!「こうして調査先は選ばれる(調査事例)」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/selection/

 

 ・元税務調査官が語る!こうして調査先は選ばれる(調査事例)パート2

   https://keiritsushin.jp/tax-column/selection-2/

 

 ・元税務調査官が語る!税務調査の次の一手「反面調査&連携調査」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/nextmove/

 

 ・元税務調査官が語る!「マイナンバー制度導入で恐くなる税務調査」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/mynumber-4/

 

 ・元税務調査官の税務調査対策リスト(日常業務編)

   https://keiritsushin.jp/tax-column/mesureslist/

 

 ・元税務調査官が教える「税務署との付き合い方!」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/relationship/

 

 

 ・元税務調査官が教える!税務調査の時期や対応の注意点まとめ

   https://www.firstep.jp/kaikei/%E7%A8%8E%E5%8B%99%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%82%84%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・元税務調査官が語る「知っておいたほうがいい税務調査の実情」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/actualsituation/

 

 ・元税務調査官が語る「税務調査でマークされる経理処理その1」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/accountingtreatment_1/

 

 ・元税務調査官が語る「税務調査でマークされる経理処理その2」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/accountingtreatment_2/

 

 ・元税務調査官が語る「日常業務の中の税務調査対策」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/taxinspection/

 

 ・元税務調査官が語る「知られざる調査官の日常」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/investigatorseveryday/

 

 ・元税務調査官が語る「知られざる調査官の会話術」

   https://keiritsushin.jp/tax-column/conversation/

 

 ・元税務調査官が教える!税務調査の時期や対応の注意点まとめ

   https://www.firstep.jp/kaikei/%E7%A8%8E%E5%8B%99%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%82%84%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9/

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ・最も手強いのは「新米調査官」……元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/rookie/

 

  ・税務調査官の転勤事情……元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/relocation/

 

  ・部門間交流(消費税・印紙税)……元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/alternating_current/

 

  ・あの裏交際費の資金出所を確認せよ!!……元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/slushfund/

 

  ・雑談こそが税務調査……元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/chat-2/

 

  ・税務調査は準備調査(事前準備)が重要!…元税務調査官のエピソード

    https://keiritsushin.jp/tax-column/advance-preparation/

 

  ・脱「若手」で得たもの・失ったもの……元税務調査官のエピソード(決算期末処理)

    https://keiritsushin.jp/tax-column/glowlose/

 

 

   ・元税務調査官が教える!税務調査の時期や対応の注意点まとめ

     https://www.firstep.jp/kaikei/%E7%A8%8E%E5%8B%99%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%82%84%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9/

 

 

 

 

 


  

 

 

 

 

 

 

 

 

  大阪市内のある税務署に転勤して2年目の10月頃、私は法人課税部門の自席で税務調査先の選定事務を行っていた。通常、税務調査先の選定事務は統括官(課長級)が行うのだが、統括官が多忙だったり、調査事案に愛着を持たせる目的で上席調査官以下の調査担当に、それぞれの調査先を選ばせて、最終的に統括官がチェックして、調査実施の指示を行うケースもある。
 ではどのように調査先を決めるのかというと、基本的に税務調査の対象となるのは、問題点(追徴税額)がありそうな会社である。

 具体的にどのように選ばれるのかは、次の事項を総合勘案して決定される。

① 前回調査からの経過年数
 前回調査または設立日から3期(年)以上経過している会社が対象となる可能性が高いが、申告においての異常計数が多い会社や、資料情報があるため早く調査を実施しなければならない会社においては、2期(年)あるいは1期(年)が経過した時点でも税務調査実施の候補に選ばれるケースがある。

② 申告においての異常計数が目立つ会社
 例えば、前期に比べて売上が増加しているにもかかわらず、営業利益や申告所得が減少している会社や、例年に比べて多額の経費計上がある企業などの異常計数が目立つ会社は、税務調査実施の候補に選ばれる可能性が高い。

③ 資料情報がある会社
 資料情報は蓄積しており、その中で脱税行為(重加算税対象)の問題点ありの可能性が高い企業については、税務調査実施の候補に選ばれる可能性が高い。

④ 前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社
 前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社は、また同じ誤ちを繰り返す可能性があるとともに、是正状況についても確認する必要があるので、税務調査実施の候補に選ばれる可能性が高い。

⑤ 長期未接触法人
 申告においての異常計数もなく、問題のある資料情報もない企業については、通常は税務調査実施の候補からは外れるが、前回調査から5期(年)以上経過しており、ある程度の売上金額や申告所得がある企業は、定期検診という意味合いで税務調査実施の候補に選ばれるケースがある。

 10件程度の調査先候補の過去の申告状況や資料情報カードを確認しながら、調査先選定を行っていた私は、㈱A社の資料情報カードに目を奪われてしまった。
 資料情報カードの内容は、㈱A社がB塗装㈱に工事代金を支払っているとのことであったが、工事内容が○○邸外壁修繕塗装工事となっていた。
 ㈱A社は金属製造業で、副業としてマンションを一棟所有して不動産賃貸業を営んでいるが、工場・事務所やマンションの外壁修繕塗装工事ではなく○○邸の外壁修繕塗装であった。
 しかも○○邸とは、㈱A社の社長Cの個人宅だった。
 早速、統括官にその旨を報告して㈱A社の税務調査を指示してほしいと申し出たが、社長Bの個人宅及び㈱A社の工場・事務所及び賃貸しているマンションの外観調査の結果によって判断するとのことであった。

 翌日、社長Bの個人宅及び㈱A社の工場・事務所及び賃貸しているマンションの外観調査を行ったところ、不動産登記では築20年以上の社長Bの個人宅には、最近、外壁修繕塗装工事が行われた形跡があった。
 また、㈱A社の工場・事務所及び賃貸しているマンションの外観調査を行ったところ、最近、外壁修繕工事が行われた形跡がなかった。
 外観調査を行った後、判明した事実について統括官に報告したところ、統括官は即座に㈱A社の税務調査を行うようにと指示した。

 その後、㈱A社の顧問税理士を通じて2週間後に㈱A社の税務調査を行うことを事前通知した。

 2週間後、午前10時に㈱A社に赴いて社長Cと経理担当者、顧問税理士に挨拶するとともに調査協力を要請して、会社概況の聴き取りから調査を開始した。
 会社概況聴き取り後、帳簿調査を行うという通常の調査の流れで、B塗装㈱への修繕塗装工事費の確認に取り掛かった。
 B塗装㈱に支払っていた修繕塗装工事費は、マンション外壁の修繕塗装工事として修繕費として計上されていたが証拠書類が領収証しかなく領収証の但し書きには「マンション外壁修繕塗装工事」と記載されていたが、その筆跡は金額や宛名の筆跡と異なっていた。
 「請求書」や「見積書」について質問したが、社長Cは「確かに保管していたが、他の書類に紛れてしまったのかな。」などの曖昧な回答しかしなかった。
 とりあえず、B塗装㈱からの「請求書」及び「見積書」を探して1週間以内に提出する旨の約束を取り付けたが、その後1週間経っても提出されなかった。

 B塗装工事㈱への反面調査を行うしかないと判断した私は、統括官に状況を報告して反面調査の実施の了解を得た。
 
 2日後、B塗装㈱の反面調査を行った結果、次の事実が判明した。
① B塗装㈱に支払った修繕塗装工事費は、社長Cの個人宅の外壁修繕塗装工事費であることが「請求書控」及び「見積書控」から判明した。
② B塗装㈱が所持している「領収証控」の但し書きの欄が空欄であったので、㈱A社の社長Cが「マンション外壁修繕塗装工事」と記載した可能性がある。 

 後日、顧問税理士立ち会いのもとで、これまで把握した事実内容について社長Cを追及したところ、既にB塗装㈱から反面調査が行われたとの連絡を受けていたみたいで、あっさりと観念して、個人宅の修繕塗装工事費を会社の経費に付け込んでいた事実を認めた。
 このような不正経理を行った理由としては、少しでも経費を多く計上して法人税等の納税額を減らして、今後の事業資金を確保したいということだった。

 社長Cは、今回の件は深く反省して。二度と絶対にこのような不正経理を行わないと私に誓ってくれた。
 これが、大阪市内のある税務署の2年目に経験した出来事だった・・・・・・・・・・・(終)

 

  ・元税務調査官が教える!税務調査の時期や対応の注意点まとめ

     https://www.firstep.jp/kaikei/%E7%A8%8E%E5%8B%99%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%82%84%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9/

 

 

 

   

 

  私が20代だった平成一桁年度、その当時は建設業、その他の様々な業種において、円滑に
取引を行うために、取引先の主要人物に現金等を内密に渡すケースがあった。
 内密に渡すケースなので正当な経理処理をすることはできず、この資金を捻出するには、未計上
の売上(売上除外)で得た金銭を資金に充てるか、或いは外注費やその他の経費を架空に計上し
て支出したと見せかけた金銭を、資金に充てるかである。
 金額によっては、社長のポケットマネーで賄うケースもあるが、金額が多ければそうもいかない。
 
 私が大阪市内のある税務署に転勤して3か月が過ぎた頃だった。
 前任の兵庫県東部のある税務署は比較的に規模の小さかったが、大阪市内のある税務署は、
規模が大きかったため、最初のうちは税務署内の雰囲気に慣れるのは大変かと思ったが、
統括官(課長級)以下の部門のメンバーの人柄が非常に良かったので、スムーズに税務署内の
雰囲気に慣れ、税務調査も順調に行っている頃だった。
 私は、税務署内の自席で調査終了した事案の起案処理を行っていたが、統括官が私を呼んで
㈱A社の税務調査を行うように指示した。
 
 翌日から㈱A社の準備調査を開始して、過去5年間の申告状況や過去の調査状況を確認したと
ころ、前回調査の指摘事項の欄で、裏交際費資金の捻出のために、架空外注費を計上していた
と記載していた。
 次回調査時の要確認事項の欄で、引き続き裏交際費資金の捻出のために売上除外(未計
上売上)や架空外注費等を行う可能性があると記載されていた。
 ちなみに㈱A社は建設業であり、中堅の建設会社であるB建設㈱の下請業者であった。
 社長の人柄の欄に、社長Cは非常に真面目で温厚であり、経理知識も豊富であると記載されて
た。
 
  準備調査を進めていくうちに、今回調査も次の事項にポイントを絞り、統括官に準備調査を
提出した。
  ・現在も裏交際費は必要なのか。
  ・もし裏交際費が必要な場合は、どのようにして資金を捻出しているのか。
 
 翌日、統括官から準備調査が返却され、早速、統括官の指示事項を確認したところ、
やはり、裏交際費資金捻出のための売上除外(未計上売上)並びに架空外注費等計上の
有無を確認するとのことと記載されていた。
 
 その後、㈱A社の顧問税理士を通じて10日後に㈱A社の税務調査を行うことを事前通知した。
 
 10日後、午前10時に㈱A社に赴いて社長Cと経理担当者、顧問税理士に挨拶するとともに
調査協力を要請した。
 
 調査開始とともに、雑談を交えながら会社概況の聴き取りを行った。
 前回調査担当が記載していた通り、社長Cは非常に真面目で誠実であり、経理知識も豊富で
あった。
 私は、会社概況の聴き取りを行っていくうえで裏交際費の有無のヒントを探ったが、得ることは
できなかった。
 
 午後から、売上勘定そして外注費へと帳簿調査を進めていった。
 外注費については、架空計上がしやすい現金支出を中心に調査を行ったが、問題点は把握
できなかった。
 その後、材料仕入、期末未成工事支出金等と調査を進めていったが、時刻が午後4時半を過ぎて
いたので1日目の調査を終了して、帰署し統括官に復命した。
 復命の後半に統括官から2日目の調査に関する指示があった。
 原価率の高い工事の外注費を念査せよとのことだった。
 
 
 調査2日目も1日目と同じように午前10時に㈱A社に赴いて、統括官からの指示事項である原
価率の高い工事の外注費を念査した。
 そして一つのことが判明した。
 F建設㈱が下請けの工事に関しては、他の工事に比べて原価率が高いということだった。
 工事内容等を見積書、請求書等の証票類及び工事原価台帳から確認したところ、㈱G社が作業して
いる工事部分と㈱F建設が作業している工事部分が重なっていることが判明した。
 ちなみにF建設㈱及び㈱G社への支払方法は小切手による支払いだった。
 
  2日目の調査を終了し帰署して統括官に復命したところF建設㈱と㈱G社の申告状況を確認
するように指示された。
 
 F建設㈱と㈱G社の所轄税務署に対して、申告状況の確認を行ったところ、次のとおりであった。
 ① F建設㈱は会社登録がなく、申告も無かった。 
 ② ㈱G社は会社登録があり、申告も有りだった。 
   申告書の「勘定科目内訳明細書」の売掛金の欄に㈱A社の記載があり、売掛金額も㈱A社で
 計上している外注費と一致した。
 
 また、F建設㈱は地図にも記載がなかったため、実地確認を行ったがF建設㈱は実在しなかった。
 
  F建設㈱の外注費が架空計上の可能性ありということで、直ちにF建設㈱に対して外注費の
支払いとして振り出した小切手の取立口座を調べるため、銀行調査を実施した。
 
 銀行調査を実施した結果、次の事実が判明した。
 ① 小切手の取立口座は、㈱A社の社長Cの個人預金口座であった。
 ② 社長Cの個人預金口座の入出金状況を確認したところ、小切手入金後の2日以内にほぼ同額
   の金額が出金されていた。
 
 
  後日、顧問税理士立ち会いのもとで、これまで把握した事実内容について社長Cを追及したとこ
ろ、B建設㈱の下請業者を取り仕切る部署の責任者に、円滑に取引するために現金を渡す必要が
あり、その資金を捻出するために、F建設㈱の外注費を架空に計上していた事実を認めた。
  社長Cは青ざめた表情で、私と顧問税理士に「本当に申し訳ありませんでした。」と何度も頭を
下げた。
 またB建設㈱の下請業者として取引を行っていく上で、仕方がなかったと弁解もした。
  私は架空外注費などの不正経理を今後二度と行わないように改善することを社長Cに強く
求めた。
  社長Cと顧問税理士は、今後二度と不正経理を行わないと私に誓ってくれた。
 ただ、現実問題として、B建設㈱の下請業者を取り仕切る部署の責任者に渡していた現金は、
社長Cのポケットマネーで賄える金額ではないため、今後も裏交際費が必要な場合はどうするの
かなという不安を取り除くことができなかったことは、現在でも鮮明に覚えている。
 
  私は、今後の改善に対して疑問を抱きながら、調査を終了した。
 
  これが、大阪市内のある税務署の1年目に経験した出来事だった・・・・・・・・・・・(終)

 

 

助成金と

人って、信用できるの?

人って、お金のためならウソもつけるの?

 

  当時、調査経験2年目の私は大きな壁にぶつかった。 調査官として未熟だった私は、従来の簡単に人を信用してしてしまう性格も手伝って、調査先䛾の社長さん等に随分と騙されたものだった。

 人を信用することは非常に大切なことだが、調査官は人を信用してばかりでは、仕事にはならない。 なぜなら調査官は基本的に人のミスや過ちをチェックするのが重要な仕事だからだ。 実際に信用できるかどうかは、100パーセント完璧な調査をしなければ分からない。

 私は調査経験2年目にして、その事を嫌というほど思い知らされた。

 

 あれは私が兵庫県東部にある税務署に転勤して3か月が過ぎた10月頃だった。

 税務調査の仕事にも少し慣れ若干であるが精神的な余裕も出来た頃だった。 いつものように、ある製造業を営む会社の税務調査を行っていたが、応対した社長さん䛿、温厚で 笑顔が似合う模範的なまじめ人間に見えた。 話し方も非常に丁寧で、調査にも協力的であり、私は、この人が社長を務める会社なら大丈夫だろ うと思って調査を進めていった。

 ところが、調査が進むにつれ、様々な問題点が続々と発覚し、笑顔で温厚な社長さんの人格までも 変貌していった。 税務調査終了直前は、言葉使いも乱暴で常識では考えられない弁明を繰り返し調査非協力の 態度まで行う変貌ぶりだった。

 

 正直のところ、当時の私はどちらの人格が本当なのかは分からなかったが、人間という動物 は表と裏のある動物であることを実感したとともに、お金が絡むと人間性までも変化することが あることを痛感した。

 そのほかに、調査先の社長さんに涙を流しながら「私のことを信用してください!」と言われ信用 した結果、思い切り騙されたこともあった。 まだ若くて未熟だった当時の私は、調査官という仕事は騙されることが付き纏うものだと自分に言い聞 かせていたが、次第に人間不信に陥ってしまった。

 

  そこで私は、上司である統括官(課長級)に相談することにした。

  この統括官は、仕事も抜群に出来たが、人間的にも優れており、私䛾調査官人生において、最も 尊敬できる上司であった。

  統括官は私に次のとおり、アドバイスした。 「調査中は雑談に力を入れよう!」ということだった。 雑談することによって、人間関係を築くことができるとともに人として䛾一面も観ることができ、 調査を進めるうえでのヒントを得ることができるということであった。

  また「騙されること䛿は仕方ない。」ともアドバイスしてくれた。

 

  調査中䛾雑談䛾重要性

   調査官の調査での第1目的は、帳簿等に記載されていない売上除外などの簿外取引を見つけることであり、帳簿調査だけで見つけるには困難のため、聴き取り調査が重要となってくる。

 事務的な会話の聴き取り調査では、調査される側も警戒して真実のことを喋らない恐れがあるため、 趣味、経歴、交友関係、日常等を雑談を交えながら気軽な雰囲気で会話する手法で、帳簿等に記載されて ていない部分䛾聴き取り調査を行っている。

 

 

 会話中䛾注意事項

   ① 相手に分からない税務の専門用語は使わない。

  ② 相手に話す機会を与え途中でさえぎらない。

  ③ 相手の自尊心を傷つけない。

  ④ 最悪の場合でも、相手方のすべての者と対立しない。

   ⑤ 短気、せっかちを避け、腰くだけに

 

  統括官䛾豊富な経験談を踏まえたアドバイスによって調査中の雑談の重要性を実感したが、 税務調査で相手する経営者やその会社の顧問税理士は、当時の私よりも年齢が高く人生経験も豊富 な人がほとんどであるため、いきなりスムーズに雑談ができるとは思えないが、自分なりに努力して 少しでも調査能力を向上することを胸に誓った。

 

   これが調査経験2年目の秋の私だった・・・・・・・