サン=サーンス序奏とロンド・カプリチオーソop.28
ダヴィッド・オイストラフのヴァイオリン、シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団1955年の録音です。演奏時間はおよそ9分。

 

久しぶりに聴きましたが、激しいです、この曲。もちろんメロディは素晴らしい。技巧的なヴァイオリンの音色にぐらぐらと心揺さぶられる。

ですが、どちらかといえば心癒されたいときに聴く曲ではないですね。
アドレナリン全開で、何かに立ち向かっていきたいときにオススメの曲です。

 

この曲は嵐を描いているように思えます。

冒頭は嵐の前の静けさ。ですが、黒い雲が怪しい風とともにむくむく沸いてくる。

 

一転、Allegro ma non troppoの情熱的な旋律。ヴァイオリンの高音部がガンガン響いて、やがてオーケストラがかぶさり、激しい嵐の直中に。

 

ラストは目まぐるしくヴァイオリンが駆けめぐって終わり。嵐が終息するのではなく、まるでつむじ風が何もかもキレイさっぱり運んでいってしまったかのような終結です。

 

オイストラフのヴァイオリンは潔い。キリリと高潔でブレがない。この曲にはぴったりです。

 

 

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クラシック音楽には、ほんの数分の曲にも愛らしく、心打たれる名曲が多いです。

短いながらも聴いてギュッと心掴まれる小品に出会うと、長大な曲だけが作曲家の功績ではないなあと思います。

そんな小品のお気に入りをいくつかご紹介できたらと思います。

 

最初はフォーレロマンス変ロ長調op.28ギル・シャハムのヴァイオリン。江口玲のピアノです。2003年の録音。およそ6分ほどの演奏です。

 

「ロマンス」とは器楽曲のジャンルのひとつですが、その名前と抒情的な曲調からやはり恋の曲、恋情の曲という感じがします。

 

フォーレのロマンスもそんなはじまり。春の芽吹きのような恋のはじまり。憧れとときめきの浮き立つような気持ちが穏やかな曲調に感じられます。

 

そして一転、不安をかきたてるような曲調に変わります。弦が小刻みに動いて畏れおののき、そこへ高い音が長く響いて迷いの気持ちが交錯する。

 

新古今和歌集にこんな歌があります。
「由良の門を渡る船人かぢを絶え行方も知らぬ恋の道かも」
曾禰好忠の作です。
潮流の速い由良の海峡で船頭が梶を失いどこへ流されるのか分からないように、私の恋もどうなっていくのか分からない、と詠んだ歌です。
先行きどうなるのか分からない、不安な恋の気持ち。ロマンスの中間部はまさにこんな心情を感じさせます。

 

そしてまた最初の穏やかな曲調に戻ります。中間部を聴いてから戻ってくると、ある種の開き直りのような強さをどことなく感じるのです。

 

ギル・シャハムのヴァイオリン、本当に艶やかで滑らかで、濁りが全くなくて大好きな音色です。

 

 

 

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ベートーヴェン交響曲第3番変ホ長調op.55「英雄」
ケント・ナガノ指揮、モントリオール交響楽団2010年の録音です。

 

この演奏はいいですね。冒頭から引き込まれました。何というか、瑞々しい、フレッシュな演奏です。

 

曲の完成は1804年、ベートーヴェン、34歳になる年です。その前年の夏頃から筆を進めていたそうです。
「ハイリンゲンシュタットの遺書」が1802年。身体的、精神的苦悩を払拭するかのようなダイナミックな交響曲。彼の若さ故なのか。
この演奏はそれを見事に体現してくれているようです。

 

第1楽章は、子馬のようです。まだ調教されていない、駆け出したくてしょうがない。
時々、指揮者がうまく御さなけらばオーケストラがそのまま駆けだしてしまうのではないかと錯覚するような、そんな勢いと若々しさを感じる演奏です。

 

私はこの第1楽章にこの演奏の「意志」を最も強く感じます。
若さ故に何か困難にぶち当たっても、がむしゃらに邁進して乗り越えようとする。
「柳に風」で生きている四十路の私には、懐かしい境地です。

 

第2楽章。挫折。喪失。抗えないものの出現。「葬送行進曲」というならば、若さとの決別という感じでしょうか。

 

第3楽章になると雰囲気が変わります。第1楽章の子馬が若駒へと成長し、手綱を取られながらも颯爽と走る姿です。

 

第4楽章は新たな境地。この楽章は主題と10の変奏で成っていますが、子どもから大人へ。でも流されるのではなく確固たる意志を持っている。それでも時々迷いためらう姿がかいまみえる、そんな気がしました。

 

「英雄」の真価を見た、ならぬ聴いた演奏でした。
今度は同じコンビで「運命」を聴きたくなりました。

 

 

 

 

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音楽への狂気

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先日、「セッション」という映画を観ました。映画専門チャンネルで放送していたのを録画して。

日本での公開は昨年です。

 

ジャズ・ドラマーを目指す青年と、彼の通う音楽学校の教師との物語。
教師役を、「LAW & ORDER」や「クローザー」などアメリカのドラマでちょくちょく見かけていたJ.K.シモンズが演じていたのと、あと音楽がテーマの映画ということで観たのですが、正直、これはいろいろな意味で期待を裏切られた映画でした。

 

音楽教師と教え子の話というと、何となく、「サウンド・オブ・ミュージック」や「天使にラブ・ソングを2」的な、型破りな教師とちょっと不良な生徒たち。でも音楽を通して信頼しあい、高めあう的なものを想像していたし、期待していたのですが、この映画は全く違う。

 

ひと言でいうなら狂気。「音楽への狂気」でしょうか。汚い言葉で徹底的に蔑み、痛めつけ、否定し、ダメだったら即座に切って捨てる教師。そんな彼を見返そうと手を血だらけにし、自分の身体も私生活も犠牲にしてドラムに取り組む青年。
私にとって、この映画に描かれているものは、ただただ音楽に対するとてつもない執念=狂気としか思えなかったです。

 

映画のラストは、、、たぶん二人は同じ感情を抱いていたのでは思います。音楽に対するとてつもない喜び=狂喜。

 

J.K.シモンズ。スマートなおじさん役が似合う俳優だと思っていたら、鬼気迫る演技でちょっと恐かったです。

 

「期待は裏切られた」と書きましたが、観始めるとのめり込んで観てしまった映画でした。
 

 

 

ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ第32番ハ短調op.111

ネルソン・フレイレのピアノで聴きました。

 

正直、30代はほとんど心動かされることのない曲でした。
いま聴くとその理由が分かります。
これは人生をブイブイいわせているときに解る曲ではないのです。若くて、毎日がそれなりに楽しくて、将来に不安を感じることがなくて、ある意味傲慢な時期に解るわけがないのです。

 

アラフィフに片足を踏み入れ、毎年毎年、身体の調子が落ちてきたことを実感し、出来なくなることが増えてきて、そして将来に漠とした不安を感じて、初めて「聴ける」曲(解るとまでは申しません)なのです。少なくとも私にとってはそうです。

 

ベートーヴェンがこの曲を完成させたのは1822年。死の5年前です。第1楽章と第2楽章だけで成っています。なぜ第2楽章で終わらせたのか?それも何となく分かります。

 

第1楽章。これは私には最後の「抵抗」のように感じます。運命に翻弄され、失望を味わい、でもまだ希望はあるのではないかと必死に模索する姿。それでもどこからか「もう、あきらめなさい」とうながす声が聞こえてくる。そんな抗いと非情な応えの音楽。

 

第2楽章の変奏曲は「昇華」でしょうか。ひたすら上を目指して階段を上がっていくような音楽。最初はややためらいながら一歩一歩上がっていく。やがて少しずついろいろなしがらみや苦しみから解放されて、ただただ光指す上を目指して上っていく。

 

この第2楽章を完成させたとき、たぶんベートーヴェンはとても楽しく幸せだったのではないかと思います。ピアノを弾いていると、身体はどんどん軽くなり、心も穏やかになり、長い長い旅路の後、自分が一番望んでいた境地にたどり着いたように感じたのではないでしょうか。

 

曲の最後は本当に穏やかに、静かにそっと終わります。これ以上、何も付け足すことがない、必然の終わりです。

 

フレイレのピアノは慈愛に満ちた、ベートーヴェンの人世にそっと寄り添うような暖かみのある演奏でした。

 

 

 

 

面白い曲ですね。
リュートとありますが、16~17世紀頃のリュート曲をもとに作曲したもので、古典的な曲調と華麗な管弦楽がうまい具合に溶け込んでいます。

 

3曲ある中でよく演奏されるのが、1931年作曲の第3組曲だそうですが、私のお気に入りが1923年の第2組曲です。

 

中でも、第3曲「パリの鐘(アリア)」が秀逸です。宵闇せまるパリに厳かに響く鐘なんだろうなあと思わせるゆったりとしたメロディ。空が青から夕焼けに染まる赤、そして漆黒の闇へと変化していく様が目に見えるな、何とも色彩豊かな管弦楽です。

 

そして続く第4曲「ベルガマスク舞曲」。もう何でしょう、色の洪水ってカンジ。いろいろな色の水玉がはじけて、光を反射して輝いているような。
この第3曲から第4曲への流れがとても好きです。

 

私が聴いていたのはこちら。

  ↓

 

 

ネヴィル・マリナー指揮、ロス・アンジェルス室内管弦楽団。1975年の録音です。

とても聴き手にとって心地いい、スピードも強弱も間合いも「ちょうどいい」名演奏です。

モーツァルトの短調

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私はモーツァルトの短調が好きです。

短調の暗いしみじみした物悲しさというよりは、そのドラマティックさにぐいぐい引き込まれるカンジでしょうか。


いま繰り返し聴いているのはこれです。

ディヴェルティメントニ長調K.334ウィリー・ボスコフスキー指揮、ウィーン・モーツァルト合奏団の演奏です。


この曲は全6楽章。その第2楽章が主題と6つの変奏曲からなるニ短調の楽章なのです。

これはとても心惹かれる楽章です。研ぎすまされた美しさの中に、気だるさとあきらめと憂鬱と胸騒ぎと不安と焦りと、いろいろな負の感情が織り込まれている。

このあとの第3楽章が、モーツァルトの特に有名なメヌエット。春のうららかなうきうきとした気分のメヌエットとは対照的に、退廃的な短調。ホント、モーツァルトって天才!


この曲が書かれたのは1779年~80年頃。ちょうどイヤイヤながらもザルツブルクの宮廷オルガニストに復職していた頃のようです。

なんだかモーツァルトの不満がこの短調の楽章に凝縮しているように私には感じます。

ボスコフスキーとウィーン・合奏団の演奏は、美しく綾なす弦楽器がなんとも心地いい。私のお気に入りです。

恐るべし!

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恐るべし、スーザン・ボイル
このCDを聴いて最初に思った感想です↓


夢やぶれて/スーザン・ボイル
¥2,800
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この人、只者ではありません!これは必聴かもしれません。

紅白にも出場したので(私は観ていない)、ご存知の方も多いと思いますが、イギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出場。
外見のダサいオバサンぶり(ゴメンナサイ!)から想像もつかない美声の持ち主と話題になった方です。
同番組の動画はチラッと観ていたので、気にはなっていたのですが、このCDを聴くまで、これほどの人とは思いませんでした。


彼女の声はとてもチャーミング。ですが、同時に非常に暗くて、もの哀しい雰囲気も持ち合わせています。
第1曲目の「Wild Horses」(これがローリング・ストーンズの曲!)でそれが早くも分かります。
「Cry Me A River」「You'll See」では女性らしい哀愁と官能を聴かせてくれます。
私が最も気に入ったのは「Daydream Believer」。あのモンキーズのヒットソングをバラード調に歌っています。
この曲はもともと好きな曲ですが、スーザン・ボイルが歌うと何故だか感傷と郷愁、それと暖かいものが胸に拡がります。


単なる美声だったら掃いて捨てるほどいるでしょうが、彼女の声は、これまでの積み重ねてきた人生とさまざまに抱いてきた感情に裏打ちされたもの。
だから、人の胸を打つのでしょうね。
選曲も凝っていて、この方の声の多才さをよく引き出していると思います。


そして何より「演技力」のある声の持ち主です。もしミュージカル歌手やオペラ歌手になっていたら、ものすごくレパートリーの広い歌手になっていたでしょう。
オペラだったら、プッチーニ・ヒロインでも、ファム・ファタル・カルメンでも、氷の姫君トゥーランドットでも何でもござれってカンジです。
これからもいろいろなアレンジで、ジャンルをこえて多才な声を聴かせてほしいです。


こんな音楽を聴きました↓


ビング・クロスビー・シングス・ガーシュウィン/ビング・クロスビー
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ビング・クロスビーといえば、「ホワイト・クリスマス」ですが、このガーシュウィンのCDも楽しいです。
「スワニー」は思わず踊り出したくなるし、「サマータイム」は高音で“サマータイム~”と歌い出した後で、ガクンと低音に下がる、これが実に面白いのです。
単なる“低音の甘い声”じゃない。

多才で、そしてどこまでもエンターテイナーなだったんですね、彼は。

フレッド・アステアジーン・ケリーなどと共に、歌って、踊れて、演じることができる彼らが私は大好きです。


さて、今年も残りわずかとなりました。
悔しい思いもしながら、ちょっとばかしの成長も感じる、まあこの年齢になるといろいろあるよねーという1年でした。
音楽に関して言えば、関心度は年々下火になってきておりますが、純クラシック(?)にこだわらず、もっと間口を拡げて、肩肘張らずに聴いていきたいなあと思っています。
そしてこのブログも、私が「面白い!」と思ったものを、読んでくださる方にストレートに届けられたら嬉しいです。

もっと気軽に、回数を重ねて書くぞ!ま、とりあえずの目標であります。


どうぞどうぞ来年もまたよろしくお願いいたします。

映画「愛の調べ」

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ブラームスの音楽は基本的に「暗い」と思っています。聴いていても、あまり心浮き立つようなことがない。
私は、すがすがしく晴れわたり、ほのかに金木犀の香りが漂う爽やかな秋には、ブラームスはむしろ聴きたくないと思ってしまうほうです。


ブラームスの晩年のあのひげモジャででっぷり太ったイメージも災いしているのかもしれませんねー。

ところが、容貌に関して言えば、若い頃の彼は白皙の美青年だったんです。
それはまあ、彼の伝記を読んでいたので以前から知っていたのですが、先日、「愛の調べ」という映画をDVDで観てビックリ!
この映画、シューマン夫妻の半生を描いたドラマですが、当然、ブラームスも出てくるわけです。
ちなみに配役は、
ロベルト・シューマン:ポール・ヘンリード
クララ・シューマン:キャサリン・ヘプバーン
ヨハネス・ブラームス:ロバート・ウォーカー
1947年製作のモノクロ映画です。


このロバート・ウォーカー演じるブラームスが若き日の彼にソックリだったのです。
しかも、何ともチャーミングなブラームス!ユーモラスでさえある!シューマン家の子ども達と遊んだり(特に三女ユーリエとの関わりは、後の失恋を暗示させて象徴的)、シューマン家の台所で皿洗いしたり、辞めてしまった女中をウソで操って復帰させたり、映画の中ではクララに直接プロポーズしていたし。
およそ想像もつかないブラームスが映画の中にはいました。顔が似ているだけにリアリティがあります。


そこで考えました。

私はもしかしたらシャイで自らの殻に閉じこもってしまうステレオタイプなブラームスだけでもって彼の音楽を「暗い」と一刀両断していたかもしれない。それは、あまりよくないなあと思いました。


何となく、そんなことを思いながら、この録音を聴いたら目が覚めるような感じでした。
ヨハネス・ブラームス作曲、ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.77ギル・シャハムのヴァイオリン、クラウディオ・アバド指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
シャハムの若々しい溌剌とした艶やかなヴァイオリンが、アバド&ベルリン・フィルの精緻で重厚なオケによく映えます。
シャハムのヴァイオリンは、映画の中のブラームスのように愛らしくチャーミングなところがあります。そして色気もある!特に高音はウットリしちゃいます。

色気のあるブラームス。なまじ作曲家本人がストイックなだけに、意外性があっていいですヨ。


私のように、「ブラームスって暗くてさあ、あまり好きじゃないんだよねえ」という方、ぜひ映画「愛の調べ」をご覧くださいませ。
きっと、ブラームス感が一変しますよ。


余談ですが、この映画では、キャサリン・ヘプバーンのウエストの細さにもビックリします。
わたくし、ダイエットにいっそう身を入れようと決意しました。むん。


名作映画3枚組み キャサリン・ヘプバーン (愛の調べ・フィラデルフィア物語・アフリカの女王) FRTS-006 [DVD]
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今夏、「クララ・シューマン 愛の協奏曲」という映画が上映されていましたが、私はそれは観ていません。

いずれDVDになったら観ようと思っています。


ブラームス:VN協奏曲 二長調
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