しじみなる日常

ひとつひとつは小さな蜆(しじみ)でも、蜆汁になったときの旨みは格別な幸せをもたらしてくれます。私の蜆汁は「クラシック音楽」。その小さな蜆の幸せを、ひとつひとつここで紹介できたらなあと思っています。

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1827年3月26日、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは56歳3ヶ月でその生涯を終えました。
昨日は没後190年にあたりました。
190年経っても、彼の音楽が色褪せることなく、時を超えて場所を変えて聴き継がれていることを彼はどう思うのでしょう。
何だか私は、彼が照れながらも「ふん」と鼻で笑い飛ばすような気がするのです。

 

中村孝義氏の著作『ベートーヴェン 器楽・室内楽の宇宙』(春秋社、2015年刊)に、こんなことが書いてありました。
「ベートーヴェンの音楽が、先輩であるハイドンやモーツァルトの音楽に比べて密度を増した大きな原因の一つに、例えば室内楽などにおいて、各楽器の対等性が増したということが挙げられる。」
例えば、彼のヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタは、モーツァルト同様に「・・・・・助奏つきのピアノ・ソナタ」というタイトルでもヴァイオリンやチェロは、そうした助奏の域を完全に超えて、ピアノに全く対等の立場で音楽が進められているそうです。
そして、両者によって展開される激しいせめぎあいから生まれる緊張感や、時に心を込めた語り合いを思わせる両楽器のかけあい(対話)は、それが最終的に調和・収斂されることによって、深い内実を伴った世界へと昇華される、のだと中村氏は書かれています。

 

私はこれで読んで、この演奏を聴いたとき「ああ、なるほど」と思いました。

 

ベートーヴェン作曲、ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調op.96
マルタ・アルゲリッチのピアノ、ギドン・クレーメルのヴァイオリン、1994年3月の録音です。

 

 

作曲年は1812年2月~11月頃にかけて。
この年は、あの「不滅の恋人」との恋が燃え上がり、走り去っていった年でもあります。

 

前作の第9番「クロイツェル・ソナタ」から実に9年ぶりのヴァイオリン・ソナタ。
9番までのヴァイオリン・ソナタは1798年から1803年までのわずか6年の間に集中して作られているのに、どうしてこの年にこの曲だけ、ぽつんと離れて作られたのでしょうか。

 

私は、彼にとって最も身近で親しんだ楽器がピアノとヴァイオリンだったから、この二つの楽器の曲を作りたかったのではないかなあと思います。
「不滅の恋人」との愛に燃え、彼女との将来に希望を持った年だからこそ、己と親和性の高い楽器を選んだのではないかと。
そして、彼にはこの曲が最後のヴァイオリン・ソナタとなりました。

 

この曲は中村氏が言うようにまさに二つの楽器の「語り合い」です。

 

第1楽章Allegro moderato。暖かな日差しが差し込む窓辺での和やかな語らい。
ピアノが女性、ヴァイオリンが男性のよう。
時にヴァイオリンが語りかけ、ピアノが寄り添い、時にピアノがささやき、ヴァイオリンがやさしく頷く。深い親密さを感じます。
特に最後のほうで夢見がちな雰囲気が漂ってくるのが印象的です。

 

第2楽章Adagio espressivo。この美しい緩徐楽章は夕べの語らいでしょうか。
最初は静かにヴァイオリンが語りだし、やがて熱を帯びてくる。やがて確固たる口調で己の意志を語っているような。
ピアノはどこまでも静かに寄り添っています。

 

第3楽章Scherzo.Allegro。およそ2分の短い楽章。
ここは語らいというより、一人が一方的に癇癪を起こしている感じ。
中間部は、もう一人がその癇癪をやさしくなだめているのでしょうか。「はいはい、そんなに怒らないで」と。

 

第4楽章Poco Allegretto。主題と8つの変奏曲。1~3楽章までは11月頃までに完成していたようで、恐らくこの終楽章だけ残っていた。もしかしたら、すべてが「終わった」後に作られたのでしょうか。
どことなく牧歌的でのどかな主題。この楽章だけは、語らいではなく一人語りのような気がします。ただ、何を語っているのかはよく分からないのです。
唯一、第5変奏のAdagio espressivoだけ、追憶と憂いを感じます。

 

アルゲリッチのピアノはとても愛らしい。彼女のピアノは野生的なイメージがあったので、こんな可愛らしいとはちょっと意外でした。
クレーメルのヴァイオリンは、ひと言で言えば「ちょうどいい」でしょうか。ぐいぐい圧してくるわけでもなく、強烈な個性を主張してくるわけでもなく、でも確かな存在感があります。
このデュオは本当に魅力的。どちらかが際だつわけでもなく、バランスがいい。それでいて心浮き立つ音楽を作り上げています。

 

お世話になっています。ベートーヴェンの器楽曲、室内楽を聴くときは必ず開くようになりました↓

 

 

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