みなさんこんにちは。あっと言う間に一週間が経ってしまいました。
あれもこれもしなくちゃと思いながら・・

野田聖子さんが今年1月に出産した子供の多発疾患(食道閉鎖、臍帯ヘルニア、詳細不明の先天性心疾患)を手記で発表されましたね。野田聖子さんは若年者による卵子提供で妊娠されたので、今回の子供の多発疾患は高齢妊娠によるものではありませんし、体外受精によるものでももちろんありません。単に運の問題です。


出生前診断についてお話をしてきていますが、ここでちょっと整理したいと思います。

出生前診断を受けることで赤ちゃんが受けるメリット: 出生後すぐに治療や評価が必要な場合はあらかじめ大きな病院で産むなどの対処が出来る。両親や家族が心の準備が出来る。(全員に出来るとは限らないけど)

出生前診断を受けることで赤ちゃんが受けるデメリット: 診断を受けたばかりに中絶されてしまうことがある。健常もしくは軽症の赤ちゃんに「けち」がつくことがある。

今回の記事のキーワードは「人工妊娠中絶」なのですが、これには母体保護法という法律により21週6日までという期限と、「妊娠を継続することが母体の健康を著しく損なうとき」という条件が付けられています。しかし、異常のある赤ちゃんを中絶して良いという文言はどこにもありません。

「母体」を「保護」するための法律なので、胎児は不在なのです。

これには歴史があります。元々は戦後間もなく制定された「優生保護法」という法律がありました。これは「不良な子孫を残さないように」という優生学的な目的を持った法律で、ハンセン病患者に不妊手術をしていたなどの暗い過去を持ちます。優生保護法の優生学的な部分を取り去って制定されたのが現在の母体保護法なのです。

つまり優生保護法から母体保護法に改定された時に「障害を持つかもしれない赤ちゃんを中絶する」ということは法律で認められなくなりました。

え、やってるよね?と思いますよね。はい、実際は行われています。
「病気の赤ちゃんを産み育てることが、母体の健康を著しく損なう恐れがあるから」と理由をつけて。

それなら「~することが母体の健康を著しく損なう恐れがあるから」と理由を付けたら、どんな理由でも中絶出来るのかってことになりますよね。
実際のところ、妊婦本人の希望があれば21週までなら中絶が行われています。
理由なんてこじつけでも。

これが日本の現状ですが、正直なところ警察が突然やってきて、しょっぴいて行かれたら自分が合法だと証明できる自信などない産婦人科医(というか母体保護法指定医)は少なくないのではないでしょうか。

では、病気だと分かっている赤ちゃんを中絶するのは悪いことなのでしょうか?

日本が法治国家であるという観点からは「違法」だと言えます。

所変われば価値観は変わります。外国に目を向けてみると、イギリスやフランスでは赤ちゃんが重い障害を持つと予想されれば、出産前なら何週でも中絶をすることができます。
ドイツでは、日本と同じように法律で胎児の異常による中絶を認めていませんが、実際は行われているようですし、隣のオランダに行って中絶する人も多いそうです。
カトリックの国イタリアでは胎児異常による中絶には消極的なようですが違法ではなく、行われてはいます。
アメリカは州によって法律が大きく違いますが、概ね胎児異常による中絶は認められています。

病気の赤ちゃんを中絶することはいいことなのか、悪いことなのか?(これについては後日詳述します)

もし悪いことならば、中絶が認められている週数では超音波検査(それすなわち出生前診断となり得る)をしない方がいいんじゃないの?

価値観が多様化する今の時代、それも妊婦や家族の選択肢だと言ってもいいのか?

実際のところ、超音波検査を全くしないという訳にはいきません。
子宮外妊娠や絨毛性疾患(胞状奇胎など)を見過ごせば母体の生命に関わりますし、多胎だと分からないまま妊娠管理をすれば現在の水準を満たした医療とは言えません。

それに、中には生まれてから長く生きることが出来ないようなとても重い病気を持つ赤ちゃんもいます。無脳児や全前脳胞症、18トリソミーなどという病名を聞いたことがある人もいるでしょう。そういった赤ちゃんを授かったお母さんが、妊娠出産のリスクを冒すのは忍びないとして、中絶を勧めるのが妥当だというコンセンサスに近いものが産婦人科医の間にあるのは事実です。

妊婦や家族の選択。それはどこまで認められているのか、認められるべきなのか。



次回は重い病気(無脳児や全前脳胞症、18トリソミーなど)の赤ちゃんを授かった場合についてです。



これを読んで考えてみてください。
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