中島みゆきの 最も深遠なる 精神世界  「エレーン」 | Lupin 孤高のブログ (Stand Alone)

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日に3度のめしが食えて 手足をゆっくり伸ばして寝られるベッドがある
昨日と変わらぬ今日が来て 今日と変わらぬ明日が来る
一杯のカップラ-メンで満たされる時 ・・  幸せ

エレーン




イメ-ジ




風にとけていったおまえが残していったものといえば
おそらく誰も着そうにもない
安い生地のドレスが鞄にひとつと

みんなたぶん一晩で忘れたいと思うような悪い噂
どこにもおまえを知っていたと
口に出せない奴らが流す悪口
LA LA------

みんなおまえを忘れて忘れようとして幾月流れて
突然なにも知らぬ子供が
ひき出しの裏からなにかをみつける

それはおまえの生まれた国の金に替えたわずかなあぶく銭
その時 口をきかぬおまえの淋しさが
突然私にも聞こえる
LA LA------

エレーン 生きていてもいいですかと誰も問いたい
エレーン その答を誰もが知ってるから 誰も問えない

流れて来る噂はどれもみんな本当のことかもしれない
おまえは たちの悪い女で
死んでいって良かった奴かもしれない

けれどどんな噂より
けれどおまえのどんなつくり笑いより、私は
笑わずにはいられない淋しさだけは真実だったと思う

今夜雨は冷たい
行く先もなしにおまえがいつまでも
灯りの暖かに点ったにぎやかな窓を
ひとつずつ のぞいてる

今夜雨は冷たい


エレーン 生きていてもいいですかと誰も問いたい
エレーン その答えをだ誰もが知ってるから誰も問えない
エレーン 生きていてもいいですかと誰も問いたい
エレーン その答えを誰もが知ってるから誰も問えない
 






Lupinのブログ-生きていてもいいですか





"暗い" 中島みゆき を決定付けたアルバム

今日まで 38枚のアルバムを発表しているが 
中でもひと際 異彩を放つ

ブラックホールか ダークマターのようなそのジャケット

他のシンガーに 絶対カバーを許さないほど 
そのコンセプトは 際立っている


二拍子の単調なメロディー  だが譜割りがとても良い  

そして その歌唱   

エレーンの物語 淡々と "語り部" のような 歌いだし

次第に情念が高揚し 最後鬼気迫るような魂の叫び






林晃三 著 「中島みゆき 歌でしか云えない世界」

一部抜粋で 「エレーン」を読んだ 

元々 これは 実話に基づいている話で

中島がかつて住んでいたアパートにヘレンと呼ばれた 
外国人娼婦が居た

そのヘレンが 無残な姿で惨殺され ゴミ置き場に放置された 

その後 事件は迷宮入りになった  

中島はその事件の数日前 ヘレンと共同施設の
乾燥機のところで 会っていた

その時のヘレンは化粧が落ち沈んでいるように見えた 

「これが 私の普通の顔よ」と言って振り向いたヘレンの顔は

普段よりもふけて見えたが 一番綺麗だったと中島は語っている 



まだ若かった中島にとってこの事件が
いかに大きな衝撃だったか 想像される


*****



林晃三は 本の中で 次のように 推論する

新約聖書の中の 
「石で打たれる姦淫の女とそれを救ったイエスの話」


パリサイの人々が 女を連れてやってきた
姦通の現場で捕らえられた女だ
彼らはイエスに言った
「こういう女は石で打ち殺せと モーセの律法にある
 あなたはどう思うか」
イエスは答えた
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が 
まず この女に石を投げなさい」
これを聞いたものは 一人また一人と立ち去り 女が残った 
イエスは女に言った
「わたしもあなたを罪に定めない 行きなさい 
これからは もう罪を犯してはならない」






中島はカトリック系藤女子大卒で この話は良く知っていた筈

ヘレンの惨殺事件でおそらく この聖書の話を想像した事だろう


「生きていてもいいですか」

という 衝撃的な歌詞の中に宗教的な 原罪意識を感じる


エレーン 生きていてもいいですかと誰も問いたい
エレーン その答えを誰もが知ってるから誰も問えない



誰もが自らの罪を認めざるを得ないから 
「生きていてもいいですか」と 誰も問うことができない

姦淫の罪を犯した女に パリサイ人が誰一人 
石を投げつけられなかったように

誰も彼も 中島自身もエレーンに 石を投げつける 
資格はないのだ


と 解説している



*****




では

"誰もが知っている その答え" とは何か 



「内なる声」 


良心に恥じ入る 行いをした時  

私はこのまま 「生きていてもいいですか」 
と問いたいのだが


「その答えは
お前が一番良く知っているだろう」

自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」
「お天道様は見ているぞ」


と 内なる声が聞こえる

だから それを問うことが出来ないのだ


曲の最後 絶叫するような歌唱は まさに魂の叫びなのだろう





林晃三氏の深読みによって「エレーン」の真髄に触れました

この重苦しい曲にかくも 深遠なる精神世界が潜んでいたとは


そう思って繰り返しこの曲を聞いてみる 


この世の不条理に対する

エレーンの叫びが聞こえてくる





レンブラント 「キリストと姦淫の女」 

Lupinのブログ-「キリストと姦淫の女」 レ