hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)
hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)とは
妊娠が成立すると急速に分泌される糖たんぱく質
HCGとは
妊娠時に子宮内に形成される「胎盤」から抽出された性腺刺激ホルモン。
黄体形成作用(LH 作用)および黄体維持作用を有し、無排卵症(無月経、無排卵周期症、不妊症)、黄体機能不全症等に効能・効果を有する。
●効果・効能
無排卵症(無月経、無排卵周期症、不妊症)、機能性子宮出血、黄体機能不全症、停留睾丸、造精機能不全による男子不妊症、下垂体性男子性腺機能不全症(類宦官症)、思春期遅発症、妊娠初期の切迫流産、妊娠初期に繰り返される習慣性流産、睾丸・卵巣の機能検査
●用法・用量
本剤は添付の生理食塩液1~2mL で溶解し、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンとして、筋肉内注射する。なお、本剤の用法・用量は症例、適応によって異なるので、使用に際しては厳密な経過観察が必要である。
★無排卵症
通常、1 日3,000~5,000 単位を筋肉内注射する。
★黄体機能不全症,機能性子宮出血
通常、1 日1,000~3,000 単位を筋肉内注射する。
★妊娠初期の切迫流産、妊娠初期に繰り返される習慣性流産
通常、1 日1,000~5,000 単位を筋肉内注射する。
★停留睾丸
通常、1 回300~1,000 単位、1 週1~3 回を4~10 週まで、又は1 回3,000~5,000 単位を3 日間連続筋肉内注射する。
★造精機能不全による男子不妊症、下垂体性男子性腺機能不全症(類宦官症)、思春期遅発症
通常、1 日500~5,000 単位を週2~3 回筋肉内注射する。
★睾丸機能検査
10,000 単位を1 回又は3,000~5,000 単位を3~5 日間筋肉内注射し、1~2 時間後の血中テストステロン値を投与前値と比較する。
★卵巣機能検査
1,000~5,000 単位を単独又はFSH 製剤と併用投与して卵巣の反応性をみる。
★黄体機能検査
3,000~5,000 単位を高温期に3~5 回、隔日に投与し、尿中ステロイド排泄量の変化をみる。
●臨床効果
★無排卵症(無月経、無排卵周期症、不妊症)
本剤の適応となる無排卵症は間脳-下垂体系の障害に起因する中枢性の無排卵症で、卵巣がゴナドトロピンに反応を示す症例である。本剤を用いる排卵誘発法としてはhCG 単独療法、hMGhCG療法、クロミフェン-hCG 療法などがある。
★黄体機能不全症
hCG を排卵予定日から隔日に投与すると、尿中のエストロゲン とプレグナンジオール値及び血中のプロゲステロン値は著明に増加する。
★機能性子宮出血
本症には一般に間脳-下垂体-性腺系の内分泌失調があると言われ、その大部分は無排卵性の出血で、上記の排卵誘発法が適用される。また、まれに排卵周期に付随して発症する場合もあるが、このような場合には黄体機能の賦活を目的としてhCG を投与する。
★切迫流産
妊卵が着床すると、hCG、プロゲステロン及びestrogen分泌が増加し、妊娠が維持される。流産する症例では月経黄体-妊娠黄体-胎盤への過程がスムーズにいかない場合が多いと言われる一方、hCG が胎盤におけるsteroidogenesis に関与していることを示唆する報告が多数あり、ここにhCG 投与の意義があると考えられる。
★習慣性流産
本症の病因は多種多様、かつ複雑に絡み合っているが、そのひとつとして子宮内膜不全があげられる。妊卵が着床するには子宮内膜の脱落膜性変化-分泌期性変化が必要であるが、子宮内膜不全の場合には着床しないまま流産することになるので、黄体機能の賦活を目的としてhCG投与が行われる。
★停留睾丸
本症には自然降下が期待できない重篤な停留睾丸や移動性睾丸があるが、hCG 投与は特に移動性睾丸に著効を示すと言われている。また、hCG 投与の開始は幼児期に行うのが適切とするものが多い。
★男子不妊症、類宦官症、思春期遅発症
造精機能不全による男子不妊症に対し、androgen 分泌の促進と精細管内細胞刺激及び睾丸組織内のgonadotrophin 濃度を上げる目的で、hCG とFSH との併用療法が行われる。
★各種機能検査としてのhCG 負荷試験
・睾丸機能検査:hCG 負荷試験により血中testosterone 値を測定し、睾丸の感受性の有無を検討する。
・卵巣機能検査:間脳-下垂体-卵巣系の機能を把握する目的で、gonadotrophin 負荷試験が行われる。
・黄体機能検査:hCG 負荷により尿中に排泄されるpregnanediol 及びestrogen を測定して黄体機能を判定する。
●使用上の注意点
ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン製剤の投与に引き続き、本剤を投与した場合又は併用した場合、血栓症、脳梗塞等を伴う重篤な卵巣過剰刺激症候群があらわれることがある。
【解説】
不妊治療としてのヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)-ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)療法において、卵巣過剰刺激症候群が発現することがあり、更に卵巣過剰刺激症候群に伴う血液濃縮・血液凝固能の亢進による血栓症や脳梗塞等の重篤な副作用が認められたことから設けた。なお、OHSS は卵巣腫大、高エストロゲン血症、毛細血管透過性亢進によるthird space への急激な血漿成分の漏出に基づき、様々な臨床症状を呈する症候群である。軽症では卵巣腫大による腹部膨満感、腹膜刺激症状である嘔気・嘔吐のほか、腸管の水分再吸収障害による下痢等の症状を呈する。症状が進行すれば水分貯留に伴う急激な体重増加や胸腹水貯留、血管内脱水による低血圧や頻脈をきたし、乏尿や呼吸困難をきたすこともある。さらに症状が悪化すれば腎不全や成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、腫大した卵巣の破裂による膜腔内出血、血液濃縮等による血栓塞栓症の可能性があり、この場合、生命にかかわる危険性もある。
【禁忌】
1.前立腺癌又は他のアンドロゲン依存性腫瘍及びその疑いのある患者[アンドロゲン産生を促進するため、腫瘍の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
2.性腺刺激ホルモン製剤に対し過敏症の既往歴のある患者
3.性早熟症の患者[アンドロゲン産生を促進するため、性早熟を早め、骨端の早期閉鎖をきたすことがある。]
【慎重投与】
(1)前立腺肥大のある患者[アンドロゲン産生を促進するため、症状が増悪するおそれがある。]
(2)てんかん、片頭痛、喘息、心疾患又は腎疾患のある患者[アンドロゲン産生を促進するため、体液貯留、浮腫等があらわれ、これらの症状が増悪するおそれがある。]
(3)高齢者
(4)思春期前の患者
【併用注意】
ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG):ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン製剤の投与に引き続き、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを用いた場合又は併用した場合、卵巣への過剰刺激に伴う過剰なエストロゲン分泌により、血管透過性が亢進され、卵巣過剰刺激症候群があらわれることがある。
以下の点に注意すること。
(1)卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあるので、次の点に留意し、異常が認められた場合には直ちに投与を中止すること。
1)患者の自覚症状(下腹部痛、下腹部緊迫感、悪心、腰痛等)の有無
2)急激な腹水・胸水・体重増加の有無
3)卵巣腫大の有無(内診、超音波検査等の実施)
(2)患者に対しては、あらかじめ次の点を説明すること。
1)卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠があらわれることがあること。
2)異常が認められた場合には直ちに医師等に相談すること。
【解説】
多胎妊娠:生理的な排卵周期でのFSH 濃度は卵胞発育初期は高値を示し、そのため多数の排卵が発育を開始するが、卵胞発育後期になるとFSH 濃度は低下し、主席卵胞のみが発育し他は閉鎖化する。しかし、通常のhMG 療法では卵胞発育後期のFSH 濃度(hMG)の低下はなく、また投与量が過剰になりやすいため、多くの卵胞が発育し、hCG 投与により多発排卵になりやすい。
●副作用と初期症状
(1)重大な副作用
①ショック(頻度不明)を起こすことがあるので、観察を十分に行い、顔面潮紅、胸内苦悶、呼吸困難等があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
②卵巣過剰刺激症候群(頻度不明):ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン製剤の投与に引き続き、本剤を用いた場合又は併用した場合、卵巣腫大、下腹部痛、下腹部緊迫感、腹水・胸水を伴う卵巣過剰刺激症候群があらわれることがある。これに伴い血液濃縮、血液凝固能の亢進、呼吸困難等を併発することがあるので、直ちに投与を中止し、循環血液量の改善につとめるなど適切な処置を行うこと。
③血栓症、脳梗塞、卵巣破裂、卵巣茎捻転、肺水腫、呼吸困難(頻度不明):卵巣過剰刺激症候群に伴い引き起こすことがある。
(2)その他の副作用
以下のような副作用があらわれた場合には、症状に応じて適切な処置を行うこと。
過敏症 発疹等
精神神経系 めまい、頭痛、興奮、不眠、抑うつ、疲労感
内分泌性早熟症
長期連続投与により
女性:嗄声、多毛、陰核肥大、痤瘡等の男性化症状
男性:性欲亢進、陰茎持続勃起、痤瘡、女性型乳房
投与部位 疼痛、発赤、硬結
・このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
・思春期前の患者への投与中に徴候があらわれた場合には投与を中止すること。
・観察を十分に行い、このような症状があらわれた場合には、減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
適用上及び薬剤交付時の注意
(1)投与経路
本剤は筋肉内注射にのみ使用すること。
(2)投与時
筋肉内注射にあたっては組織・神経等への影響を避けるため、下記の点に注意すること。
1)神経走行部位を避けること。
注射針を刺入した時、神経に当たったと思われるような激痛を訴えた場合には直ちに針を抜き、部位を変えて注射すること。
2)繰り返し注射する場合には、例えば左右交互に注射するなど、注射部位を変えること。なお、乳・幼・小児には特に注意し、連用しないことが望ましい。
3)注射器の内筒を軽くひき、血液の逆流がないことを確かめて注射すること。
(3)その他
アンプルカット時の異物混入を避けるため、アンプルのカット部分をエタノール綿等で清拭しカットすること。
販売名
HCG モチダ筋注用3 千単位・5 千単位・1 万単位
ゴナトロピン1000/3000/5000(あすか製薬・武田)
プレグニール5000 単位(シェリング・プラウ)
ゲストロン・5000(川崎三鷹製薬・興和)
注射用HCG3000 単位/5000 単位/10000 単位「F」(富士製薬)
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