2016.1.21
朝日新聞


米軍普天間飛行場の移設問題を抱える沖縄県宜野湾市長選(24日投開票)が熱を帯びている。安倍政権と協調する現職に翁長雄志(おながたけし)知事が支援する新顔が挑むという、同県名護市辺野古への移設をめぐる国と県の対立そのままの構図だ。国政に影響を与えかねない首長選に、市民はどう向き合っているのか。憲法学者南野森(みなみのしげる)さんと現地を歩いた。


14条の実現遠く
「不平等もっと知って」

市長選
「問われているのは日本の問題」


南野さんは現在、九州大法学部の教授として憲法学を教える。17日の告示日とその翌日、現職の佐喜真淳(さきまあつし)氏(51)と新顔の志村恵一郎氏(63)の訴えを聞き、基地の隣で暮らす市民から話を聞いた。沖縄で基地周辺を歩くのは初めてだ。

同飛行場は宜野湾市の中心部にあり、市の面積の4分の1を占める。車1台がやっと通れる道を挟み、フェンスに囲まれた飛行場と住宅街が向かい合う。南野さんは「家のこんな近くに」と目を見開いた。

3人の子育て中という女性(37)は、普天間移設が進展しないことにいらだっていた。「事故が怖い。辺野古の自然より人命が大事」。一方、騒音に悩んでいるという男性(56)は「苦しさがわかるから、県内に押しつけたくない」と胸の内を明かした。南野さんは「どちらも理が通っていますよね」。

市民の基地問題への関心は高い。現職、新顔ともに普天間の早期閉鎖、返還を掲げる。違いは「辺野古移設」への態度。新顔が「反対」を訴えるのに対し、現職は移設先への言及を避けている。

男子大学生(20)は「両候補の主張の違いがわからない」と口にした。市内で生まれ育った20年は、日米両政府の返還合意後の迷走と重なる。

そんな中、現職の実績を評価するという元自治会長の男性(58)の指摘に、南野さんは注目した。男性は普天間から佐賀空港への米軍オスプレイの訓練移転計画を佐賀県が拒否し、防衛省が断念したことを挙げ、「本土の声は聞くが、沖縄の声は無視する。政府は寝た子を起こしたと思う」と語った。南野さんは「この市長選では、国への不信感を背景に政治の進め方が問われているように見える」と話した。

一票の行方が基地問題に影響を及ぼしかねない宜野湾市長選。その構図は戦後の沖縄の歴史と切っても切り離せないと、南野さんは見る。日本国憲法は1947年に施行されたが、米軍統治下にあった沖縄は本土復帰の72年まで25年間、憲法の外に置かれた。

50年代、米軍施設の面積の割合は本土が9割に対し、沖縄は1割。本土で反基地運動が盛り上がると、「国外」の沖縄は移設先になった。復帰から44年、日本国憲法の下でもなお、国土の0・6%の面積の沖縄に在日米軍専用施設の73%が集中する。

「沖縄の現状は他の都道府県と比べてあまりにも不平等。憲法14条は、すべての国民の法の下の平等を定めています」と南野さん。復帰後も続く基地負担への不信感が強まる中、辺野古移設を進める安倍政権に異議を唱える翁長知事が誕生。国と県の対立が激化する時期に、市長選は重なった。

南野さんは「外交関係も関わるため、移設先を決めるのは最終的には国だろう」とした上で、「国には、地元合意を得るよう努力する義務と、かつて本土でしたように沖縄でも米軍基地の縮小に向け努力する義務がある」と強調する。

沖縄を離れる直前、南野さんは「沖縄の現実に、憲法は力を及ぼせていないですね」と漏らした。「本土の人も『本土と沖縄の不平等』をもっと知って、考えてほしい。『沖縄の問題』ではなく、『日本の問題』が問われているのではないか」。この機会に、宜野湾市民の選択とその背景にあるものを考えるべきだと指摘した。

(岡田玄)

南野森・九州大学法学部教授(憲法学) 京都府出身。東京大学大学院などを経て14年より現職。「AKB48」のメンバー内山奈月さんに日本国憲法や立憲主義のエッセンスをわかりやすく講義した「憲法主義」(PHP研究所)がベストセラーになった。



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