ちょっと前にこんなことがありました。
目的地に到着してから泊まるホテルが機長たちと同じところでした。
「今日、おいしい韓国料理食べに行くけど、一緒に行く?」
私は、だいたいの場合英語を勤務以外でしゃべるのがめんどくさい
という理由から、こういう誘いは断ります。が、韓国料理が大好物の
私。
「うん!!行く!」
と即効で御返事しました。
5時にロビーで待ち合わせ、おいしい韓国料理をモリモリ食べて幸せ
いっぱい。機長の2人(推定年齢50歳)もとってもいい人でした。
印象に残ってるのは特に一人のヒゲの生えた機長さん。
「僕の娘がねえ、僕に憧れてパイロットになりたいって言い出した
んだよ。今、17歳なんだけどね。’パパ、恥かしくて言わなかった
けど私、小さいときからパパみたいに空を飛びたいって思ってたのよ。
パパほど腕はよくなれないかもしれないけど・・・”な~んて言うんだよ。
僕は涙が出るほど嬉しかったね。」
食事が終わり、これから飲みにいくという機長たちをほって、先に
部屋に帰りました。
次の日、ホテルからの出発時間というのは、機長と乗務員は違うものです。
機長は、ブリーフィングという物は必要ないから、乗務員が先に集合するの
です。
飛行機に入り、お客様をスタンバイ。機長というものは搭乗の約5分前ぐらいに
バタバタと入ってくるものです。
「やあ、昨日はおいしかったね!」
ヒゲじゃないほうの機長とともに新しいメンバー2人が入ってきた。私は、バタバタと仕事。
搭乗がはじまった。お客様の搭乗が済んだころ、地上職の人たち、そして客室課の
部長さんたちがアタフタしている。
なに??え~、もしかして飛行機壊れてるとか?
新聞でも配ろうか・・・としている私を客室課の部長さんが呼んだ。
「あなた、昨日、James(仮名)と一緒だったって本当?」
「James(仮名)って、ヒゲの人?だったら一緒に韓国料理
食べに行ったよ。」
「それからは?」
「それからは、私はホテルに一人で帰ったよ。」
「あら、そう。。。。。実は、Jamesがまだ来てないのよ。」
え~~~~!!!!寝坊?!
「ホテルの部屋にもずっと電話してるんだけど、出ないから、今、ホテル
の人に部屋を開けて調べてもらってるとこよ。」
8時間を越える長時間フライトの場合、機長は4人いないといけない。
2人ずつの交代制をとるからである。乗務員には「自宅待機制度」があり
何かあればすぐ飛べるようにスタンバイしている人がいるが、うちの機長
にはそういう制度は無い。なので、James(仮名)が来るまで待つか、
他の非番のパイロットに電話しまくって飛んでもらえないか頼むのである。
でも・・・パイロットというものはそこの空港の近くには住んでいない。
飛行機で何時間もかかるところに住んでいるのである。
例えば、東海岸から出発するけど住まいは西海岸とか・・・
も~・・早く帰りたいのに!
James(仮名)の寝坊だと思ってた私に驚きの事実が知らされた。
「ここから3時間ぐらいのところに住んでる機長が飛んでくれる
らしいから、出発は今から大体4時間後ね。お客さんを一旦、
飛行機から降ろすわ。」
「え・・・うん。わかったけど、James(仮名)は?」
「彼は・・・部屋で亡くなってたのよ・・・・」
「え??なんで?どうして?いやや!!!そんなん、イヤや!」
「ナイフで刺された跡があるそうよ。」
「なんで?」
「さあ・・今はまだ分からないの。後で警察が事情を聞きにあなたのとこにも
来るからね。」
お客様を全部降ろし、怒ってるお客様に謝っていると警察がやってきた。
昨日いっしょだったもう一人の機長とともに、取調べが始まった。私の場合は
30分ぐらいで終わった。
「はい。いいよ。これで、終わり。ありがとう。」
「あの・・・彼は何かの事件に巻き込まれたんですか?」
「う~ん。今調べてるところだけどね。社員証とか制服は取られてない
からテロリストの犯行ではないみたいだよ。いや・・・でも、なんとも奇妙
な事件だよ。」
後日談によると、Jamesの部屋にはJamesの筆跡で遺書が書かれていた
らしい。自殺かと思ったが、しかし、犯行に使われたナイフは見つかっていない。
そして、お風呂がわかされていて、これから入ろうという感じで彼は素っ裸で
殺されている。それに、彼はベッドの上ではなく床で死んでいて、その横の壁に
血の跡があり手に付いた血で何かを書こうとしたところで息絶えたようである。
何もとられてないし、何も犯人の手がかりがなく、この事件は迷宮入りしそう
だ・・・・ということであった。
James(仮名)の、娘さんの写真を誇らしげに私に見せた、あの表情が
頭から離れない。。。。。。