うそつき

烏城あきら


若くして個人で運送業を営んでいる、トラックの運転手と、サービスエリアで栗売りのバイトをしているフリーターの話。
それにもう一組、バイク便屋を営んでいるバイク乗りとその事務担当の社員の話。二組の後日談を含めた3本構成。

いつも思うのだけれど、烏城さんの書く話は、登場人物達が普通の人たちで、良い。
だからといって他の人の書く話が普通ではない、といっているわけではないのだけれど・・・いわゆる、普通に、そこらに、いそうな人たちなのが、良い。どっかの国の王子様でも、大きな会社の社長や御曹司でも、有名モデルでも、社内でも有名なデキル男でもない。本当に、もしかしたら、アパートの隣の部屋に住んでてもおかしくない、人たち。
今回の物語も、そんな人たちのお話だった。
はじめ、「うそつき」っていうのは運ちゃんのほうのことなんだと思っていた。だって帯には「あんまり泣かんように、早ぅ慰めに来たってな輝ちゃん(運ちゃんの名前)」って書いてあるし、これはきっと、すぐに来るって約束しておきながらなかなか来ない運ちゃんのことを言っているんだろう!って。でも違った。
別にフリーターの子の方が、嘘をついてる、というわけでもないのだけれど、うそつきだった、ということに気づくところが切なくて良かった。
とはいえ、個人的にはもう一組のカップルの方が好みだったが。事務員の彼の、一途さがすごくすごく良い!

たぶん、彼女は仕事をしている人たちを見るのが好きなのだろう。それは、これだけ人気が出た今でも、作者が会社員という仕事を手放していない、という理由でもあるのかもしれない。サラリーマンと一言で言っても、背広を着て出社するのではなく、もしかしたらジーパンやチノパンを履いて会社に来て、会社で作業服という名の制服に着替えて仕事をする、今も日本に数多くいる人たち。そういう人たちを見て、仕事の上で触れ合って、そうしてそんな人たちの生活にちょっと色を載せて物語にしていく。それが彼女の執筆のスタンスであり、そのスタンスこそが、紡ぎ出す物語をより身近にし、魅力的にしている、と思う。
STEAL YOUR LOVE―恋 (ガッシュ文庫)

妃川 螢


「抱かれたい男No1」「もっともお騒がせ芸能人No1」「最高瞬間視聴率No1」という、とても知名度の高い芸能人が主人公。その彼が高校時代に気になって仕方なかった、だが一声をかけることができなかった生徒会長、だが現在はNo1ホストとなっていた男と再会するところから物語は始まる。

芸能人とホスト。両方とも私には縁のない職業だけれど、この手の本で見たら手を出さずにいられない職業でもある。そんな二人の話なのだから、読まないわけがない。ただ、こちらは以前も読んでいて、続編が次の月に出るとあったので、一ヶ月我慢して一気に読んだ(笑)。

再会していきなり、酔っ払って記憶がないままに相手に抱かれてしまった主人公だけれど、ずっと忘れられなかった相手。その後もずるずると身体の関係だけが続くが、本人は自分の気持ちを認められない。
いつもならそういう話は、途中でイライラして「さっさと認めろよ!」と思ってしまうのだが、この話はそんなことを思わなかったというか、イライラさせられなかった。
それというのも、ちゃんと主人公が成長していくから。
ただ恋愛に引きずられ、相手の行動に一喜一憂するわけではなく、自分は自分できちんと上へ上がろう、前へ進もうと行動できるところが良かった。
BLだけど、ファンタジーだけど!やはり男の人は自分の足で立ってこそ!だと思うのです。それこそ夢見すぎか?
愛執の刻印

本庄 咲貴


ヤクザの次男だがカタギとして育てられたバーテンダーと、キャリア警察官の話。二人は高校時代に恋人同士として付き合っていた期間があるが、バーテンダーの方の裏切りで別れた経緯がある。
ある朝、殺人事件のあった現場の近くで、二人は再会する。

主人公は警察官で、物語はその視点ですすんでいくので、バーテンダーの警察官に対する執着が少し怖い。特に相手の話を聞かないところが、もし自分がこの主人公の立場だったらいらいらさせられるだろうなあ、と思う。
ただ主人公のかたくなさも見て取れるので、さっさと腹割ってはなせよ!と読んでいてじれったくもある。最初に別れた原因も、きっとこうだろう、と思っていたとおりの理由で、もっと早く素直になっておけばいいのに、と読みながら何度も思った。

殺人事件がからんでいるのもあり、ちょっとしたミステリーっぽく書かれていたのは面白かった。

花音DX VOL.8
 茅島氏の優雅な生活
遠野 春日



もともとはリーフノベルズで3巻まで発刊されている小説だが、現在発売中の花音DXで麻々原さん作画でマンガが新連載となっていたので、思わず本棚から出してきて一気に3冊を読破した。
何回読んでもまた読みたくなるお話のうちのひとつ。

お屋敷に雇われている庭師と、そのお屋敷の旦那様の話。短編が集まったつくりの本で、最初の話はもうすでに付き合っている二人、という設定だった。もともとはこの旦那様が相手を好きになり、相手に無理やりお願いして抱いてもらう、という始まりかた。その後、この旦那様(タイトルどおり、茅島氏)の生活を描写しつつ、相手との恋愛も進行していく。

全編とおして感じることは、茅島氏の切ないほどの一途さが、本当に可愛らしい、ということ。
物語の中で、多くの人が茅島氏にやさしく接しているが、そうされて何の違和感も感じない。それはやはり、彼の可愛らしさの賜物だろうと思う。一番きつく当たるのが付き合っている相手で、茅島氏に感情移入して読むと、たまに相手の彼が憎らしく感じるほどだ。相手の行動や、一言に一喜一憂する彼を、愛さない人はいないだろう、と思わせられてしまう。

この小説は結構面白い趣向で書かれていて、攻の庭師さんの名前は出てこない。台詞として相手の名前を呼ぶのではなく、「彼の名前を呼んだ」というように描写してあり、読者には彼の名前だけがわからない。が、それが気にならない書かれ方で、何度読んでも「うまいなあ」と関心する。
読んだことのない人には、是非とも一度、読んでもらいたい。出版社が倒産してしまっているので、古本でしか手に入らないのが残念だけれど、今回のマンガ化にあわせて、小説もまた出してもらえないか、というか、続きがでないかな!ととても期待している。
猫耳サラリーマン

高将 にぐん/蒼井せり



就職が決まっている会社でバイト中の大学生と、その上司の話。タイトルの猫耳サラリーマンはこの上司の方で、黒猫と魔女との間のハーフで、本人はサラリーマンをしているけど魔法使いで、その上攻様。

ファンタジーは好きだけれど、別に猫耳に愛は感じない私だったけれど、攻が猫耳、というのに惹かれて読んでみた。読み終わっての率直な感想は「面白かった」。うん。
正直、突っ込みどころは満載なのだけれど、猫耳なのに俺様な上司が良い!と思ってしまった時点で私の負け(?)は決定しているのだ。最初は無理やりだったのに快楽に流されちゃった主人公がだんだん上司に惹かれていく過程も良かった、上司が主人公を気に入っているんだな~と思わせる描写も良かった。なにより、かっこいいのにどうしても猫の習性がでてしまう上司を、冷静に観察しつつも可愛いと思っているに違いない主人公が読んでいて本当に可愛かった。
最後はどうなるのかちょっとはらはらしたけれど、ハッピーエンドで良かった良かった。

やはり猫は可愛いだけではなく、気高く!気まぐれで!でもコタツで丸まって、飼い主にたまに甘えちゃうのが良い!と思った一冊でした。