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恋愛小説『Lover's key』

#27-1 2%(teru's side)





──トントン。


眠い目を擦りたくなるようなうららかな火曜日の午後。


現国の先生の声と教科書を捲る音しか聞こえない退屈な授業中、不意に背中を叩かれた。


オレは左手でペンをクルクルと回していたのをやめ、面倒くさそうに振り向く。


「これ、回ってきたぞ。一之瀬にだって」


そう小声で言われて渡されたのは、小さく折り畳まれた手紙だった。


(…あー、めんどくせぇ…)


オレは気だるそうにそれを受け取って頭を掻きながらココロでそう呟く。開封しなくても大体は検討がついちまうところが更にめんどくせぇ。


どうせ、『放課後、屋上入り口の踊り場に来てください』とか『裏庭の花壇の前で待ってます』とかだろ?


オレは先生が黒板に文字を書き始めた隙に、気づかれないようにそっと手紙を開く。


すると。


【驚いた?呼び出しじゃねーよ!今日もまた彼女が友達連れてくるからオマエと一緒に帰りたいって。達哉】


「……」


オレのこめかみあたりにピクっと青筋が立った気がした。


はぁ…。


ったく…。



……こんなの昼休みに言えよっ。まどろっこしい!!違う意味でめんどくせぇわっ!!!



オレは手紙を左手でグシャリと握りつぶした。


オトコからもらう手紙ほど気持ち悪いものはない。達哉はわざとやってんだろうけど、、、。


それにしても、達哉は廊下側の前から2番目の席で、オレは窓際から数えて2列目の後ろから3番目の席なのに。



……なんで後ろから手紙が回ってくるんだ?!



順路からいったら普通前か横からだろ?後ろって何だよ。どうやって指示してんだよ!?遠回りすぎて効率悪ぃよ!!


突っ込みどころが満載の手紙にオレは苦笑しながら、お陰ですっかり眠気の覚めた頭で授業とは違う方向のことをぼんやりと考えていた。



───先週の土曜日の出来事。



それは、オレの人生の中で1~2位を争うほど衝撃的なものだった。


激動という言葉がしっくりくるほど、1日の状況や気持ちに変化がありすぎて。当人ですらついていけない程困惑していた。


ありえない状況が何件あったかを数えるのに指1本じゃ足りなくて。片手指5本全てを使う程の数。


まず、由愛がウチに来なかったことから始まって。センセの結婚相手が由愛だということ。親父たちと同じような状況にオレたちも陥ってること。センセとの決別。


そして。



由愛本人から振られた、オレの決定的な失恋。



酷い雪崩でも起きたのかってくらい、悪い状況が続けざまに押し寄せてきて。オレは最終的にその雪崩に押しつぶされたんだ。




由愛とのあの電話は。忘れようったって忘れられないだろうと思う。


内容が、相当キツかったから──。


必死の想いで『愛してる』と感情をむき出しにしてみたけど。


『もう、、、電話しないで……』と泣きながら言われたから──。



電話を切ったあと、オレは完全に腑抜けな状態で床に座ったまま動けないでいた。


何もできない。何もしたくない。何も考えたくない。多分、その場に1時間は座ったままだったと思う。


ココロがズタズタに切り裂かれて、もう自分じゃどうにもできないと思ってた矢先。


オレの携帯が鳴った。


誰からだろうと携帯を開いて見ると、律からだった。


律なら出ないわけにもいかなくてしぶしぶと電話に出る。用件は塾の冬季講習のことだったから一通り話しを聞いたあとすぐに携帯を切ろうとしたんだけど。突然、律に呼び止められた。


『輝、おまえ何かあったの?声に全然覇気がねぇけど…』


「……」


気づかれないようにごまかしたつもりだったんだけど勘がいい律にはお見通しだったようだ。


オレの異変を隠し通すことはできなくて…。仕方なく「今さっき、由愛に振られた……」と、正直に話した。


すると律は、『ふーん…』と軽く呟いたあと。


『じゃ、今からオマエん家行って話聞いてやるよ』


そう言うと、すぐに携帯が切れた。そして、約30分後。律は本当にウチに来たんだ。


オレも傷心をどこかに吐き出したかったし、誰かに話せば少しは気が楽になるんじゃないかと思ってたから、律の行動は嬉しくて。


このとき程、友達の有難味を感じたことはなかった。


オレの部屋で今日の出来事を一通り話したあと、律は「ふーん。なるほどね…」と呟いた。


そして。笑みを漏らしながら意味不明な言葉を吐いたんだ。


「なんだ。2%は残ってんじゃん」


──2パーセント?なんだそれ?


今日は全く冴えないオレの頭。もう心底疲れ果てちまったんだろうか?しかもこっちは振られて苦しんでるっていうのに笑みを浮かべる律がよくわからない。
 

「俺はてっきり0とかマイナスになったのかと思って来てみたけど、まだ2%は残ってるよ。それをどうするかはまぁ…輝次第だけどな」


律はまた意味深にククっと笑った。


「なぁ…。悪いけど、今日のオレものすごく頭の働きがニブいから2パーの意味説明して」


律の考えが読めなくて、そんな自分が悔しくてオレは無愛想な顔で律に突っ掛かった。すると。律はオレが考えもつかなかった見解を唱え始めたんだ。


「俺が思うに、由愛さんは輝のこと決して嫌いじゃないと思うんだ。もしかしたら……好きのほうに近いかもな」


「…っ、マジで?何でそう思うんだよ?!」


オレは無愛想な顔から一転して、驚きの表情で前に身を乗り出す。すると。


「電話で好きだって言ったら泣いたんだろ?だったら間違いない。よく考えてみろよ。キライなヤツに告られていきなり泣くヤツなんて居るか?」


「いねぇな…」


「だろ?多分だけど、由愛さんが輝に対して何か心残りがあると思うんだよね。だけど、それでもどうしても輝は選べないんだよ。だから泣いた。これなら理屈が通るよな?」


「うん…でもさ、、、迷惑すぎて困って泣くとかっていうのもあるんじゃねぇの?」


オレがもしかしてしつこくし過ぎたんじゃないかってそういう心配もあってそんなことを口にすると。


「それはねぇな。普通、本気で迷惑だったら怒るだろ?人間の心理なんてそんなもんだ」


「……」


律の言うことは筋が通っていて、オレもなるほどなぁ…とすんなり納得できた。


「98%って、結構大きな壁だけどさ。その大きな壁に開いてる2%の隙間もバカにできないんだぜ?」


「そうか?オレは全く越えられる気がしねぇけど…」


オレは項垂れながら反論する。すると、また律はオレが持ち合わせていない意見を口にした。


「越えようとするからダメなんだよ。ちょっと手を加えたら、隙間なんて簡単にヒビが入る。そして見る見るうちに大きな壁は真っ二つ。2%の隙間が圧倒的な勝利で一気に100%のひび割れにもなりうるってことだよ」


律はニヤっと意味深な笑みを浮かべる。そして、また話を続けた。


「まぁでも、実際はそんなことするのは凄く難しいと思うし一歩間違えるととんでもないことになっちゃうんだけどさ。由愛さんが徹底的に輝を嫌いにならない限り、0でもマイナスでもない。少しは輝にも可能性があったってことだからさ、そんなに気を落とすなよ。…まぁ…今回は色んな状況が重なり過ぎてたから手に入れるのは困難だったってことで。運が悪かったと思って吹っ切るしかねぇな」


律の話は慰めと希望と絶望と。全てが混ざったような内容で。でもそれでも真剣に話を聞いて意見してくれただけでもありがたかった。


オレはため息をつきながら天井を見上げた。


「確かに…どんな状況であれ、オレにそれをひっくり返せる力が無いんじゃこの先も多分ムリだな。やっぱオレなんかに本気の恋とか向いてねぇのかも…」


そんな弱音を吐いたら律は「それは違うんじゃないか?」と言う。


「向いてる、向いてないの問題じゃないと思うけど…。女に対して節操が無かった輝にしてはかなり頑張ったと思うし、恋は叶うばかりじゃつまんねーものかもしれないぜ?失恋を知って、初めて本気で恋する良さも知ると俺は思うから…。今回はおまえにとっていい経験だったんじゃねーの?」


律はそんなアドバイスを残すと。


「まぁ、あとはゆっくり考えて自分で消化していくしかねぇから。困ったらいつでも相談乗るし」


とだけ付け加えて、その日はすぐに帰っていった。



いい経験…か──。



意識を授業へ戻しながら、頭の中で律の話していた内容をもう一度考えてみる。


でも。やっぱり“恋愛ビギナー”のオレには、どんなに考えてもよくわかんなくて。


ただ、ひとつだけ言えることは、このはじめての失恋はオレにとってはかなりデカいものだった。叶わぬ恋ほど忘れられないって言うけど、それは本当だなということは実感してる。。。


あーあ。。。


オレ、こんなんじゃ、この先恋愛とかできねぇかもな…。恋愛する自信もねぇや……。




「じゃあ、今日はここまで」



そんな声にオレも完全に我に返る。


5時間目終了のチャイムが鳴り響くと同時に先生がそう告げると教室から出て行った。結局オレは前半は眠気との闘い、後半は物思いに耽っていたから全く授業に身が入っていない。


達哉の手紙は持ってるのも気持ち悪いから、直ぐ様まだ自分の席に座っている達哉目掛けて思いっきり投げつけてやった。


「痛ぇっ!」


達哉はそう言うと自分に当たって落ちた手紙を床から拾い上げ、オレのほうを見た。


「なんだよ、投げんなよ!」


「っつーか、こんなのオレに回すなよ。昼休みにだって言えただろ?」


「言い忘れたからからかい半分で回したんだよっ!で、どうすんの?一緒に帰るだろ?なんかまたみんなでカラオケ行きたいんだって」


「はぁ?また??ついこの間も同じメンツで行っただろーが?」


そう。一週間くらい前に、達哉と達哉の彼女、そして彼女の友達とオレの4人で電車に乗り合わせ、何故か繁華街までカラオケに行ったんだ。


オレ歌ニガテだし、カラオケもそんなに好きじゃないんだけど…。達哉に誘われてこの間は仕方なく行った。でも今回はもう正直行きたくねぇ…。


……だって。


「杏奈ちゃん、テルのこと好きみたいだからオレの彼女にどうしても取持ってほしいって言われてんだよ、、、。だから頼むよ。とりあえず、今回だけでもっ」


達哉はオレに手を合わせながら本気で頼み込むような姿勢を取っている。


「今回だけでもって、、、この前もそう言わなかった??」


「あ……。言ったかも…。でももう輝は完全にフリーじゃん。少しだけでも杏奈ちゃんのこと考えてやってくんないかな?」


「……」


オレは重いため息を落とす。達哉はオレのことわかってるようで本当のオレのコトは多分わかってない。


知ってんだろ?つい最近、すっげー辛い失恋してんだぞ?オレは傷心に打ちひしがれてるんだぞ??


だからもう、そういうのイヤなんだよ。ちょっと前までは何も考えずにホイホイ遊びに行ったけどさすがに今のオレは慎重になってる。。。


こんな状態じゃオレ、恋愛なんて当分できねぇし。紹介されてもオレが好きになることはまずありえない。


どうすっかな…。と、考えてた矢先。


「とりあえず、行くだけ行って達哉の顔を立ててやれば?輝がその気になれないんだったら相手の子にキッチリそう伝えればいいだけの話だし。そしたらもう行くこともないだろ?」


律がひょっこり顔を出し、いつの間にかオレ達の間を取り持っている。


「……」


さすがだよな。ホント、律には頭上がんねぇや。みんなの状況が丸く収まるようにいつも動いてくれる。母親的存在…っていうか。


「律って、参謀に向いてるよな…」


オレがそう呟くと。律もまんざらでもないらしい。


「俺も自分でそう思うよ」と、ククっと笑った。




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