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恋愛小説『Lover's key』

#23-3 ノックアウト(teru's side)





「……」


オレが何も答えないでいると。


センセも了解は得ぬままにドアを開けた。


椅子に座ってるオレはセンセの顔を見ないまま項垂れていて。


今まで見たこともない様子に、センセは躊躇いながら傍に来て床に座った。


「どうした?突然席を立ったからご両親が心配してたぞ」


「……」


「もしかして、海外赴任のことと結婚のこと、輝に知らせてなかったから怒ってんの?」


「…そんなんじゃねーよ」


「じゃぁ、どうしたんだよ。訳聞くまで俺も心配で帰れないよ」


「……」


センセのその一言に。オレは、はぁー…、とひとつため息をついてから、徐に口を開いた。


「ねぇ、今日さ……。なんで野崎さん来なかったの?“輝の家に行こう”ってちゃんと誘った?」


オレの発言の意図がセンセには全く読めないみたいだ。何でそんなこと訊くんだ?って顔をしながらも、一応正直に答えてくれた。


「いや…。もともと今日は由愛に用事があったんだ。明日結婚の報告をお互いの両親にするんだけど、前日の土曜日はその準備をしたいから会えないって先に言われてて…。だからオマエの話は一切してない」


…その話を聞いて。


オレは少しだけ救われた気がしたんだ。


(なんだ、、、。知らなかったのか…。「行きたくない」って避けられたわけじゃ、、、なかったんだな。)


そう考えたら胸のつかえが取れて、さっきよりも気持ちが少し楽になった。


でも──。


結婚するって事実は大きな重石には変わりなくて。


いくらオレがあがいても、多分取り除けない。



「結婚って……、前から決まってたの?」


センセにまた質問をぶつけた。


「いや。これは最近なんだ。海外赴任の話も12月に入ってから持ち上がって、単身赴任になるよりは由愛と一緒に行きたくて。。。先週の金曜日にプロポーズした」


…先週の金曜日?


なんだよ…。“あの日”かよ。


オレがセンセの後をつけて、初めて由愛の家を見つけた日。


ってことは、オレが告白した後か……。それでも、アイツは結婚を受け入れたんだな。


オレは少し考えた後、センセに視線を向けて真剣な口調で問いかけた。


「今日はセンセとマジメな話がしたいんだけど、いい?っていうか、、、むしろセンセのこと怒らせちゃうかもしんないんだけど、それでも話聞いてくれる?」


そんなコトを言ったら、センセも緊張した面持ちで「…いいよ」と言ってくれたから。


それなら遠慮なく、と。


オレはとうとう。


自ら戦闘態勢に入ってしまった。


「センセさ、由愛とどこで知り合った?」


突然出た“由愛”という言葉に、センセは目を丸くして驚いていた。


「なんだよ…。急に由愛って呼ぶなんて……オマエ、もしかして由愛のこと…知ってんのか?」


「うん。知ってるよ。多分、センセよりもずっと前から。あっちもオレのこと知ってる」


「嘘…だろ…。だって由愛、そんな話は一度も…」


「してないだろ?多分、できないんだよ。オレが抱きしめてキスしちゃったから」


「なっ…」


あまりにも単刀直入な言い方に、センセは目を見開きながらオレを見た。でもすぐにピクリと眉毛が動いて、少し目を細めながら、怒ったような悲しんでるような複雑な眼差しに変わった。


「なんで…だよ。。。なんで輝が、、、由愛に…」


「キスしたかって?…決まってんじゃん。好きだからだよ。多分センセよりも想ってる…」


そう言った途端。センセは赤い顔をして完全に怒りを露にしながら立ち上がった。


「ふっ…ふざけるなっ!」


椅子に座ってるオレの胸倉を掴んだ。でも、オレは驚くことなくそれを冷静な顔で見ている。


「まぁ最後まで聞けって。オレと由愛は、小学生の頃に知り合ってる。でもその頃から一方的なオレの片思いだから安心しろよ、な」


どっちが年上だかわからないくらい、オレはなぜか冷静だったし、言葉に詰まることがなかった。


センセもそんなオレの態度を見て、少し冷静になったんだろう。胸倉を掴んでいた手をバっと勢いよく離した。


「俺が由愛と知り合ったのはバイト先だよ。付き合ってもう3年になる。プロポーズだって受け入れてくれた…。だから、、、輝が入り込む余地は無いんだ。諦めろっ!」


「簡単に諦められるなら、とっくに諦めてるけどさ。正直。こんな状況でも、まだ由愛を奪いたいと思ってるよ。でも、そうすることで由愛を苦しめるならオレはもう何もしない。だってそうだろ?由愛はセンセを選んだんだ…」


そこまで言い切った途端。


電池が切れたように、オレは何も言えなくなってしまった。






───由愛はセンセを選んだ…。





そう。



それは動かしようがない事実。



そして。



受け入れたくない現実──。



奪いたくても。



もう。どうしようも無いんだ………。



それはまさに、ノックダウンどころか、ノックアウトを食らっていて。



端から勝ち目の無い試合に、勝手に挑んでいたんだ…。




オレがしばらくの間だんまりしていると。


センセがため息をつきながら「俺らの父親と一緒だな」と意味不明なことを吐き出した。




──俺らの父親と一緒?……どういうことだ…?




怪訝な顔をしているオレを見て、センセが言った。




「俺らの父親も大学時代同じ人を好きだったんだよ。その好きだった人っていうのは…輝の本当の母親」




──ドクン。




今日2回目のありえない衝撃に、オレの心臓は再び大きな音を立てた。





「何だよ…それ……」


オレの呟く声が少し震えて出たような気がした。


「親父達も、三角関係だったってことだよ。その時は結局、輝の父親に軍配が上がったけど…さ、今回は俺が由愛をもらうから」


そう言ってオレを見た目が。見下されたみたいで癪(しゃく)に障った。


でも、由愛が既にセンセを選んでいる以上、オレは何も言い返せない。


それが悔しくて、悔しくて、、、。


オレから最後に精一杯の攻撃をした。


「結婚…破談になんないように、せいぜい気をつけろよ。その時は間違いなく、オレが由愛をもらうから」


ニヤっと笑ってみせたら。今度はセンセが癪に障ったみたいだ。


「ま、それはありえないと思うけどな。それよりオマエ、彼女居たんじゃないのかよ?大事にしないとそれこそ嫌われるぞ」


「別に。もう彼女とはとっくに別れたから関係ねぇよ。端から好きじゃなかったし……」


「へぇ。そうなんだ。じゃ、他に彼女作って慰めてもらえよ。輝ならそれくらいお手のモンだろ?」


「………なんだよ。うるせーよ…」


オレがまた憎まれ口を叩こうとした瞬間。


「由愛にはもう指一本触れるな。会うのもやめてくれ」


ピシャリと言い放ったセンセの顔は真剣そのものだった。由愛に本気だというのは、その態度で痛いほどわかる。


「俺には、輝が想像する以上に、、、由愛が必要なんだ」


「………」


一瞬の静寂のあと、オレは椅子から腰を上げ、ゆっくり立ち上がってセンセを見た。


「悪いけど…そのセリフ。そっくりそのまま返すよ」






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