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恋愛小説『Lover's key』

#16-1 一緒に(shinichi's side)






 金曜日。



今日は由愛の家でメシを食わせてもらう約束をした日だ。



俺は社内のデスクで時計を気にしながら、パソコンに向かい報告書を書き終えた。



アウトプットし、それを上司に提出したのとほぼ同時に。終業時刻を告げるチャイムが響き渡った。



ここのところ忙しすぎたから今日くらいは由愛とゆっくりしたい──。



そう思っていたから、急ぎの仕事は全て早めに片付けた。報告書も出したし、もう大丈夫だな。



俺は上司や同僚に先に帰る事を伝えると、定時で仕事を切り上げた。




 会社を出てすぐ、由愛に【仕事終わったから今からそっちに行く。着くのは7時頃かな。】とメールをすると。



すぐに【了解。気をつけて来てね!】という返信が来て、ほんの少し安堵しつつもまだ不安感を消せない自分がいた。





───昨日、電話で感じた違和感。





由愛の様子がおかしかったのは最近かまってやれないからだろうか?



いや…あいつはそんなことで怒るヤツじゃない。俺のこと分かってくれてるはずだから。



でも、やはり顔を見て話をするまで落ち着かなくて。



“早く会いたい…会って様子を確かめたい”と心が俺を急かす。



由愛の家に向かうまでの電車も、乗り慣れてるのにすごく速度が遅い感じがした。



こんなのは初めてだ。それだけ逸る気持ちを抑えきれない。



やっと最寄りのY駅に着くと、人の波を掻き分け急いで階段を下りた。改札を通ってすぐの所にあるコンビニで手土産を買って、足早に由愛の元へと急いだ。




*******




 マンションに着くと、入り口のインターホンで305号室を呼び出す。



セキュリティロックを開けてもらい、エントランスに入るとエレベーターで3階へ向かった。



エレベーターを降りて、通路に出ると玄関先では由愛が出迎えてくれていて。



姿を見たとき、一瞬ドクンと鼓動が跳ねた。とりあえず「こんばんは」と何気ない挨拶をして由愛の反応を見ようかと思っていたのに。



「お仕事お疲れ様。どうぞ、入って~」



いつもと変わらない笑顔と態度。そして「お疲れ様」という言葉に俺は拍子抜けして、不安で膨らみすぎた心の風船がふぅっとしぼむのと同時に体に入っていたヘンな力も抜けた。



こんな風に出迎えてくれるとは正直思ってなかったから。



(なんだ…怒ってたわけじゃなかったのか…。)



そう思ったら安心して沸沸と嬉しさがこみ上げてきて。



通されるまま中に入ってドアを閉めると、靴も脱がずに玄関で由愛をぎゅっと強く抱きしめた。



その行動に由愛も「どうしたの?」と、少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに俺の背中に手を回して腕の中でじっとしていてくれて。



温もりが心地よい──、と。



俺は心底そう思った。勘違いだったにしても、昨日の電話で感じた胸騒ぎには相当応えていたから。



・・・もう少しだけこうしていたかったけど、由愛が「玄関寒いから早く入ろうよ」と笑いながら言ったから、仕方なく腕を離した。



 「上がって」とスリッパを差し出され、俺はそれを履いて由愛の後ろを歩く。



玄関から真っ直ぐ伸びた廊下の突き当たりがリビングだ。



看護婦の仕事をしている由愛の母親が夜勤で居ないときに、何度かこんな感じで家に招いてもらってるけど、その度に新婚夫婦のような照れくさい気分になる。



きっと由愛と住んだら毎日が幸せなんじゃないかと思うくらい穏やかで、一緒に過ごすのが好きだ。



前の恋人の里香と一緒に過ごしてたときは若かったせいもあって、まだどこか刺激的な感じだったけど。今は年齢を重ねた分だけ、由愛とのこの穏やかな時間が自分にすごくしっくりくる。



 「これ、お土産」



リビングに入ってすぐ、コンビニの袋を渡すと由愛に笑顔がこぼれた。



「わぁ~ありがとう。私の好きなシュークリームだ。嬉しい!夕飯の後にいっしょに食べようね」



そう言いながら、冷蔵庫に入れ、俺のコートとスーツのジャケットを由愛が受け取ってハンガーに掛ける。



「ちょっと座って待ってて」と言いながら、パタパタと夕飯の準備にとりかかる姿はやはりいつもと全然変わらなかった。





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