※初めての方は、プロローグ からお読みください。
恋愛小説『Lover's key』
#13-2 本気の恋(teru's side)
───心が痛い……。
振り返りもせず肩を落として去っていく美月の後姿を見ていたら、何故かそんな感覚が胸の奥から込み上げてきた。
別れ際にこういう痛みを感じたのは初めてだ…。
今までのオレは、彼女に見限られて別れることばっかで。
でも、別に好きで付き合ってたわけじゃないから、別れを切り出されることに何の痛みも感じたことはなかった。
それなのに。
今回は違った。
オレが、本気の恋を知ってしまったから……。美月の真剣さが今のオレには痛いほどわかるんだ。
・・・オレもセンパイに対して、美月と全く同じ立場だから。
振るのも振られるのも、すげー辛い。
「くそっ!」
思わず傍にあった自販機を右手でゴツンと叩いた。
今頃気づくなんて遅すぎねぇ?ホント、、、オレって最低なヤツだ。好きじゃないなら付き合わなきゃいいのに。これじゃ美月の気持ちをただ弄んでただけだ。
自分がそうされたらどう思う?好きなヤツにそうされたら、めちゃくちゃ悔しくて悲しいはずだ。
オレは見えなくなるまで、美月の後姿を見つめていた。肩を落として泣きながら帰っていくその姿は、オレへの戒めにもなった。
もう、こんな辛いことは他の誰にも絶対したくない。
美月……、ホントにごめんな……。
オレは、強い罪悪感に包まれながら、トボトボと来た道を戻った。
**********
「ただいま」
自宅に着くと、さっき家を出たときには居なかった美佐さんが帰ってきてた。
「あ、お帰りなさい。夕御飯、カレーにしたんだけど……」
「…あとで自分で食うからいいよ」
そう言って、2階に上がろうとしたとき、ふと思い立って美佐さんに訊ねた。
「ねぇ。……親父、今日も帰り遅い?」
「今日は早く帰ってくるってさっき電話があったからもう少しで帰ってくるかしら」
「ふーん」
それだけ聞き終えると、オレはさっさと2階に上がり自室に入った。
ジャケットを脱いで、ため息をつきながらベッドにドサっと横たわり。今日あった出来事を思い返す。
さっき──。
公園で、センパイに一度に押しすぎたから、帰り際すぐに引いた。
これは“駆け引き”。
でもアイツ……、多分その意味がわかってないだろうな。
鈍そうだし。
駆け引き知らなそうだし。
・・・・。
ん?
まさか、、、。アイツ、ホントにバイバイだと思ってんじゃねーだろうな??
・・・。
あ。
なんか一気に不安になってきた。。。
「もう連絡しない」って言ったのは、しつこくしたくないって気持ちもあるんだけど。
あのまま完全に引いたほうがセンパイにも少しはオレのこと気にかけてもらえるんじゃないかと思って……。咄嗟に出た“計算”だった。
でも、後からよく考えてみると、ちょっと無謀だったかもしれない。センパイから連絡が無くて、ずっと平行線だったら……オレ、“計算”した意味なくね??
でも、男だし、自分から言い出した以上絶対オレから連絡はしない。
何も進展がなければ、また策を考えるしかねぇな…。
はぁ、、、。
片思いって、結構ツライよな……。
しかもオレの場合、ただの片思いじゃないからかなり前途多難だ。
センパイは櫻井センセのもので、オレが入り込めないのは分かってる。
だけどこんなに好きになった以上、気持ちにブレーキがかけられない。
どうしても振り向いてほしい。
だから。。。
オレなりにアイツを落とすしかないんだ。
・・・後で親父が帰ってきたら、カテキョ断ってもらうように頼もうと思ってる。
これ以上、櫻井センセとは顔合わせられなくなりそうだから……。
もうオレも高3になるし、本腰入れて塾に通うとか言えば、多分親父も納得するだろうし。
それにしても。
・・・まさかオレがヒトの女を奪おうなんて考えることになろうとは、、、人生って何があるかわかんねぇな。
「……由愛」
ふと、オレの口からアイツの名前がこぼれた。今度会えたらセンパイじゃなくて、名前で呼びたい。
そういえばさっきキスしたとき、センパイあんまり抵抗しなかったんだよな。
あれはどういう意味なんだろう。少しはオレも期待していいのか??
いや、、、あんなガッツいたキスされて、きっと戸惑っただけだろうな…。オレ、、、全然余裕無かったし…。
「………」
やべ、、、考えると超恥ずかしい!!!くそっ!!
側にあった枕をつかんで、恥ずかしさを紛らわすように思いっきり壁に投げつけた。
いざってときって、うまくいかねぇもんだな……。
あーー……。何だかなぁもう!!
ヤバイくらい本気で好きになっちゃってるよ……。
どうしよう、、、オレ。