※初めての方は、プロローグ からお読みください。
恋愛小説『Lover's key』
#12-1 心の鍵(yua's side)
私は予定より少し遅れて、6時10分過ぎに待ち合わせのY公園に着いた。
流石に12月にもなると、もう辺りが暗くなっていて視界が悪い。目を凝らしながらキョロキョロと公園内を見回す。
ふと外灯の下にあるベンチに目をやると…。
寒そうにポケットに手を入れながら腰掛けてるテルくんを見つけて、私は緊張を必死に隠しながら小走りで駆け寄った。
「ごめんなさい…。ちょっと遅れちゃったね……」
そう言いながらテルくんの向かいに立つと、「……なんだよ。座れば?」と促されて、仕方なくテルくんの隣に腰を下ろす。
ベンチは2人用だったので、すごくテルくんと密着してる気がした。
(・・・うー。。。早くマフラー受け取って帰りたいのに。。。)
そう思っていると、「これ、飲む?」と、テルくんが突然上着のポケットからペットボトルのホットミルクティを差し出した。
「え?あ。ありがと。。。いいの?」
私はそう言って受け取ると、まだかなり温かかった。
もしかしてここに来る前に隣のコンビニで買ってきてくれてたのかな?
「センパイ、時間平気?ちょっと喋ろうよ。今日はカテキョの代理じゃないし、さ。いいだろ?」
「………」
そう言われて戸惑ったけど、せっかくマフラー届けにきてくれたし、やっぱり断っちゃ悪いかなと思って…。
「……いいよ」
私は仕方なくそう言って、もらったミルクティのキャップを開けた。
────。
「センパイのマフラー、あったかいよな」
ちょっと沈黙があった後、テルくんが先に口を開いた。テルくんは相変わらず私の黒いマフラーをしていた。
「もー、ヒトのマフラー勝手に使っててビックリしたよ!学校にして行ったの?」
「うん。なんかさ、使いやすそうだったから…」
あれ?…まさかテルくんもこのマフラー気に入っちゃったのかな??
「これ肌触りいいよね。私も最近このマフラー好きでよく使ってるんだ」
そんなことを話すと。
「ふーん。……だからか」
そう言って、テルくんは意味深にふっと笑った。
あ、、、。またあの色気のある笑い方。「……だからか」って何だろう??
私はそんな些細な発言が少し気になっていた。
・・・・。
また、しばらく沈黙があったあと。
「ねぇ、センパイ。香水何使ってんの?」
テルくんが唐突にそんなことを聞いてきた。
「…え?…何で?」
言った意味がわからなくて戸惑っていると、、、。
「このマフラー、センパイの匂いがするから」
テルくんはそう言って、私のほうを見た。
「え??ウソ!?もしかして……へんな匂いする??」
私は自分の服のニオイを思わず嗅いだ。するとテルくんはクスっと静かに笑いながら私を見つめた。
「そうじゃなくて…好きな香りなんだ。この間、センパイの首元からも同じ香りがした」
ドキンっ。。。
不意な甘い言葉とテルくんの射抜くような真っ直ぐな眼差しに、私の心臓が大きく音を立てる。
なんで?
なんで、テルくんは恥ずかしくもなくこんな会話ができるの??
・・・あのとき抱きしめられたことは無かったことにしようとこっちは必死で。しかも、緊張してることだって知られたくないのに。
それなのに。。。
私の顔はきっと耳まで赤くなってる…。でも、そんなことテルくんには悟られたくない。
「……もー、そうやって……。何度もからかうのはやめて……」
私は下を向いて小さな声でそう答えるのがやっとだった。
「は?なんだよそれ。オレ、全然からかってねぇけど?」
テルくんはちょっとムスっとした口調で話を続けた。
「この前もちゃんとそう言ったつもりだけど…覚えてない?」
(ううん。覚えてる。私だって、、、忘れられないくらい強烈に覚えてるよ。。。)
頭ではそんな風に答えていたけど、実際には口に出せずに。私は下を向いたまま、ただ首を横に振った。
「…でも、あれは、、、。あれは絶対からかってるようにしか思えないよ。……だって、会ったその日にいきなり抱きしめるなんて変でしょ?…普通、する?」
緊張を隠すように手に持ったペットボトルのラベルをいじりながら思い切って聞いてみると、テルくんから“まいったな”とでも言いたそうな深いため息が聞こえた。
そのため息に、私は何故か緊張が増して萎縮してしまう。
「なぁ、センパイ。下向いてないでオレを見ろよ」
(…え…何で?何で見なきゃいけないの?ムリだよ…。今は見れない。)
私は恥ずかしくて下を向いたままイヤイヤと首を振る。
「見ろっつってんの!」
テルくんはそう言って、強引に私の肩を掴んで自分のほうに向かせた。
強い力に驚いて、私は顔を上げる。
すると。
真剣な眼差しをしたテルくんの顔が視線の先に飛び込んできた。
「オレさ……」
何か言おうとしてるテルくんから、さっきとは違う空気を感じた。それだけで緊張して胸が苦しくて…ドキドキが止まらない。
「センパイのこと、好きなんだ。だからあの時抱きしめた。…それ以外に……他に理由がいるのかよ?」
突然降ってきた矢のようなその言葉に。
私は一瞬息をするのを忘れた。