「俺さ、クリスマスって好きじゃないんやけどさ……」
そう恋人が言ったのは、先週の土曜日、「のだめカンタービレ」を観に行った帰り の車の中、ちょうど、アタシが“気になっていたこと”を訊く前のことだった。
(というか、これがきっかけで、訊いたのです)
「うん、知ってる」
アタシがそう言って笑うと、
「あー、やっぱり~!?」
と、彼もおどけて笑った。
「何っっ回も聞いてる気がする」
「あ、やっぱり!?」
「ていうか、毎年聞いてる気がする」
「あ、やっぱり!?」
そう、彼はクリスマスが嫌いなのだ。
ずいぶん前に一度、その理由について話してくれたことがある 。
ただ、そのときのトラウマは、もう克服できていると3年ほど前に言っていた。
それでもいまいち好きになれないのだという。
「まぁ、そういうことで、よく知ってのとおりクリスマスは好きじゃないんやけどさ」
「うん(笑)」
「25日、ちょっと仕事が早く終われそうやねん」
「あ、そうなんや」
「そやし、せっかくのクリスマスでもあるし、仕事終わったあと来ようかなと思って。ホンマはイヴのほうがいいんやろうけど」
彼が“クリスマスだから”といって会おうとしてくれるのは初めてのことだった。
5年前、KinKi Kidsのコンサート前に、大阪でデートをした ことはあるけれど、あのときも「たまたまクリスマスと休みがかぶっただけやし、何にもせんといてな」と、念を押され、特にクリスマスらしいことは何もしなかった。
3年前は23日→24日、昨年は24日→25日が、彼の2つ目の仕事と重なったので、アタシがケーキとお皿、フォークなどを持ち込み、彼の仕事場で一緒に食べた。
クリスマスは好きじゃないけれど、甘いものは大好きな彼。
クリスマスにケーキを食べることに関しては抵抗ないらしい(笑)
これは昨年持ち込んだケーキ。
めちゃくちゃ事務所っぽい背景は、どうぞお気になさらず
「でも、アタシ25日、部署の忘年会やねん」
「どうせ皆さん、予定は24日のほうでしょうから」と、上司が25日を忘年会の日に決めたのだった。
「あー、金曜日やもんな~」
「曜日はあんまり関係なくてね、うちの部署、だいたい最終日の前日やねん。28日が最終日やから、その前日となると25日になるんよね。去年もそれで、クリスマスの日が忘年会やったわ」
「そっか、そりゃしかたないな。んじゃ、適当に部屋入って待ってるわ」
びっくりした。
当然、「じゃあ、やめとこか」となるものだと思っていたのに、部屋で待ってるという。
「どうせ、部署の忘年会って、遅くても10時(22時)、11時(23時)ぐらいやろ?」
「ん~、それがねぇ……」
部内で一番若いアタシは、必ず二次会に連行される。
酔った上司たちに、「ついてきてくれるのはお前だけや!」と言われながら。
アタシ以外の女性陣は全員40代なので、一次会が終わったらサーッと消えてしまうのだ。
男性陣はほとんど全員が参加するのだけれど。
とはいえ、お酒はあまり飲めないので、いつも、しゃべるか、リクエスト曲を歌うかに専念する。
ちなみに昨日のリクエストは、まずはデュエットで「別れても好きな人」、そのあとなぜか「キューティーハニー」をお願いされ(笑)、今の季節ということで「ロマンスの神様」を歌い、取締役命令で「天城越え」、最後の締めとして「川の流れのように」を歌った。
上司たちは、演歌オンリーの人がいれば、アニメソングしか歌わない人もいたり、洋楽オンリーの人や、あま~いバラードばかり歌う人など、かなりバラエティ豊か。
40代、50代のおじさんたち10人ほどでそんな歌ばかりを歌っているのはあまりに哀れなので(笑)、毎度欠かさず参加していた。
まさか、「今日は彼氏が家で待ってるので、一次会で帰らせてもらいます」と言うわけにもいかないのだ。
そんな事情を話すと、
「そりゃしゃあないな。ま、帰ってくるまで寝とくし、こっちは気にせんでええで。バスタオルと部屋着だけ出しといてくれたら」
と、彼。
「でも、日付変わるころになるかも……」
「うん、そのぶんたっぷり寝とくわ」
「せっかくクリスマスに来てくれるのに、クリスマスじゃなくなるよ」
「ホンマやな(笑) ま、もともとクリスマス好きじゃないから、俺はかまへんけど」
「めっちゃ待たせることになると思うけど、ゴメンな」
ということで、昨日の夜は彼が来ることになったのだった。
実は23日の祝日にも、当直(2つ目の仕事)明けに彼がやってきて――つまり、ちょうどクリスマスイヴを挟む形で会ったのだ。
そのときに彼が、25日はケーキを買ってきてくれると言っていた。
だから、冷蔵庫にスペースをつくっておいてくれ、とも。
彼がケーキを買ってきてくれる!?
ウチの冷蔵庫を使う!?
きっと、なんてないことなんだろうけれど、妙にドキドキした。
アタシにとっては、“クリスマスだから”といって彼が会ってくれるのも初体験だというのに、そこへさらなる初体験が重なるのだ。
23日に彼とバイバイしてから、イヴの夜も、忘年会中も、ずっとそわそわしっぱなしだった。
最寄り駅からウチまでの徒歩3分の道も、つい走ってしまい……。
そして迎えた彼とのクリスマス
それは、彼にとってもアタシにとっても、これまでで一番幸せなクリスマスだった……。
つづく ……