ホントは今日の予定だった紅葉観賞 。
しかしながら、一昨日の夜の時点で、今日の天気予報が雨だったため、急遽、昨日に日程を変更することにしたのだった。
今、外は雨。(この“今”というのは、夕方のことでした)
変更して正解だ。
待ち合わせは京都駅に12時だった。
アタシは電車で20分もかからないのだけれど、相手の彼が、JRでなく私鉄を乗り継いで来るらしく、2時間以上かかるということで、無理なく来られる時刻を設定してもらったのだ。
ちょうど2週間ぶり、2度目に会うその彼は、前とは少し違う印象だった。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」
メールでもそうだけど、敬語で話すアタシたち。
周りから変に思われているだろうか。
でも、まだ会って2度目。
しかも、友達の旦那様のお友達、という意識で会っているため、なんとなく敬語を崩すことができなかった。
地下街のポルタで、軽く食事を摂ることにした。
驚くほど食べるのが遅いアタシに(12時に待ち合わせたのに、食べ終えるとすでに13時半になっていました)、ペースを合わせてくれる彼。
2週間前に初めて会ったとき から思っていたことだけれど、すごく気遣いのできる人だなぁと、感心しきりだった。
そして、めちゃくちゃ真面目で頭がよくて、俗に言う“イイ人”。
そういう人だから余計に誘いに乗ってしまったのかもしれない。
食べ終えて、お店を出る。
バス乗り場は人でいっぱい、いつ順番が回ってくるかわからないほどだったので、清水寺まで歩くことにした。
学生のころ、よく歩いた道のり。
寮生ではあったけれど、帰省のときや京都駅まで買い物に来るときなど、いつも使っていた道だった。
信号待ちをしているとき、
「ずっと言い出せなかったんですけど……」
と、ためらいがちに話す彼。
「今日の栞さん、すごく素敵です」
びっくりして、「え!?」と、素っ頓狂な声を出してしまった。
「いや、ホントに。綺麗だなーと思って……」
恋は盲目と言うけれど、少しばかりアタシに好意を寄せてくれているらしい彼には、このアタシでもそんなふうに見えるようだ。
しかしながら、道中、後ろから自転車が来たりすると、サッと肩を抱いて避けさせてくれたり、2週間前の印象どおり、やはり、紳士的で優しい人だった。
「これすごい(笑)」
洋服を売っているお店の外に、トラや犬の着ぐるみが吊り下げられていた。
「うわっ、ホント! でも栞さん、めっちゃ似合いそうですよ(笑)」
「えーーーーーーー」
アタシ、1人大ブーイング(笑)
「でも、こういうのアタシ、サイズが合わないですもん。フリーサイズのものは基本、着られないです」
「そう、こないだはわからなかったんですけど、背低いですよね?」
「……はぁ、そうなんです」
思わずため息が出てしまう。
「ごめんなさい、気にしてたら」
「いいんです、もう慣れましたから」
「えっと……、訊いていいのかな。身長、どれくらいなんですか?」
「実は、150ないんです……(涙)」
「あ、えー、そこまで低いようには見えないですね」
ははは、なぜかいつもそう言われるのですねぇ
「でも……あ、これは……」
口ごもる彼。
「どうしたんですか?」
「いや……」
「いいですよ、何でも言ってください」
アタシがそう言うと、フッと力が抜けたようにその彼が笑った。
「前に付き合ってた彼女が、実は149(cm)だったんですよ」
「おー、近い!」
「いや、だからってわけではないんですけど、別に低い人が好きってわけでもないんですけど、あーでも、低い人が嫌ってわけでもないんですけど、あーもう、言えば言うほど悪くなっていく……」
言葉を選ぼうとしてテンパっているのが可笑しかった。
「でも、男の願望としてはやっぱり、女の人を見おろす感じで話したいですから、自分よりは低くあってほしいですね……って、すいません、完全に男女差別ですよね、これ」
「いえいえ。最近、男性でも同じぐらいとか、自分より高くてもいいって人が増えてるから、背が低い者としては余計に立場ないというか。でも、○○さんのように言ってくれる人がいると救われます」
「うわぁ、もう栞さんはどんなことでもそうやってフォローをしてくれるんですね。もう、ホント素敵です」
「いやいや、フォローとかじゃなく、ホントにそう思うんですって(汗)」
何でもいいように取ってくれるので、恐縮だった。
「この2週間、いろいろメールしてたじゃないですか。僕、こんなに言葉を選んでメールしたの初めてでした」
「そうなんですか?」
「いつも思ったことをそのまま言っちゃうほうなんで……」
「そういう感じしないですけどねぇ」
おそらく、人一倍真面目だからこそ、こういうところを深く考えてしまうんだろうな、と思った。
清水寺は、思ったとおり、人でいっぱい
アタシもその彼も歩くのが早いほうなので、人の間を縫って進む、進む(笑)
そして、まだ完全には紅くなっていないものの、紅葉を楽しんだ。
写真も撮りまくり~
アタシはいつでも来られるところなのに(笑)
ていうか、かつてはすぐそばに住んでいたのに(大笑)
ただ、この彼が本堂をバックにアタシを撮ろうとしたときは、断固拒否。
自分の容姿があまり好きではないので、誰かと一緒ならまだしも、1人で映るなんて耐えられないのです……
昔から、父がカメラを向けてきても逃げ惑っていましたからねぇ。
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参拝料(300円)を払う料金所の前のところから、京都駅方向へ。
こちらは料金支払い後、山科方面へ向けてパチリ。
拡大するとよくわかりますが、奥に映る本堂エリア、これまた人の多いこと
最後に、これも有名な音羽の滝。
大行列だったので、並ぶのはやめました。
もちろん、判断は委ねましたよ。
アタシはいつでも来られるので。
その後、産寧坂(三年坂)から二寧坂(二年坂)へ入り、前に書いたとおり 、霊山歴史館の前の「維新の道」と書かれた石をチラ見。
ちょっぴり松下幸之助についても語っておきました(笑)
それにしても、どこも人、人、人。
さすが三連休やわ……。
いつもの三連休といえば、3日間、家でじーーーーーっとしてるだけなのでねぇ。
でも、これまたおもしろいことに、この彼もアタシと同じ引きこもりタイプらしく、変なところで共感しておりました。
というか、驚くほど似ている部分が多くて……。
そこからねねの道を通り、お次は高台寺。
豊臣秀吉の正室であるねねが、秀吉を弔うために建立したお寺ですね。
実はアタシ、かつてすぐ近くに住んでいたというのに、高台寺には行ったことがなく。
というか、お寺というものに興味がなくて、誘われてもついていかなかったのです
だから、こんな機会でもなければ来ることのなかった場所かな、おそらく。
でも、それを後悔するほど、ものすごく綺麗なところでした。
参拝料は少し高く、600円。
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見事な枯山水!!
よく見ると、青い石が散りばめられていたり、奥に針金が見えたりして、おそらく夜間拝観のライトアップ用なんだろうなーと。
これがすごい綺麗らしいんです。
泊まりの観光客なら夜間拝観でもいいんだろうけど、この彼、神戸のほうなんでねぇ……。
緑と黄色、そして赤が入り混じり、とても美しい景色でした。
雑誌の表紙なんかには、この池からの景色がよく使われるそうです。
ホントに見事な紅葉で、心が洗われました。
豊臣秀吉像とねねの像が祀られた御堂への道は大行列!!
その途中に、小さいながらも目を惹く一本のもみじが。
なんだかパワーをもらいました。
高台寺の中は、足場の安定していないところが多く、そのたびに「気をつけてくださいね」と声をかけてくれる。
「はい、気をつけまっす」
足に力が入って、そんな変な口調になってしまったり。
「うわっ、ちょっと今の言い方かわいい……。うわー、もうヤバい……」
何でもそんなふうに思ってくれるらしいです(笑)
高台寺を出ると、すでに16時だった。
京都駅を出てから2時間半。
「時間が経つの早いですねぇ。こんなに経ってると思わなかった」
「すみません、僕がゆっくり見てたから……」
「いやいや、1つひとつをゆっくり見たほうがいいじゃないですか! アタシもゆっくり見られてよかったです」
「……栞さんって、いつも待ってくれてるんですね。あーもうホント、どうしてそんな優しいんですか?」
「えー、どこが? 全然優しくないですよ」
「言われません?」
「そんなん、言われないですって」
この人こそ、すごく気遣いのできる優しい人だから、周りがそういうふうに見えるんだろうな、と思った。
円山公園に入ると、大道芸人がショーをしていて、黒山の人だかりになっていた。
人がいっぱいで、ぶつかりそうになると、すかさず肩を寄せられた。
「すいません……」
慌てて手を離すその彼。
「さっきから、ホント勝手にすいません」
京都駅を出てから、何度となくアタシの肩に手をかけたことを謝っているらしい。
アタシは可笑しくなった。
「そんな、謝らないでください」
「でも……栞さん、彼氏いるのに、勝手なことして」
「アタシ、背が低いからすぐに人混みに紛れてしまうんで、助かります。優しさに感謝してます」
「優しさ……なのかどうか(苦笑)」
大道芸人のショーが終わり、奥へと歩いていくと、池に映る鮮やかな紅葉、そして空に架かる虹が見えた。
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振り返ると、今度は木の根元に落葉した赤いじゅうたん。
何度も来たことがある場所なのに、なんだか違う場所のように感じられた。
ふと、指先に触れるものがあった。
その彼の手だった。
思わず、彼を見上げる。
「すみません……。嫌だったら言ってください」
その表情があまりに痛々しくて、とても振りほどく気にはなれなかった。
雑誌の撮影なのか、舞妓さんとカメラマン、それからディレクターっぽい人とアシスタントが何人か集まっている横を通り抜ける。
と、パラパラと雨が落ちてきた。
ちょうど、休憩所が近くにあったので、そこへ避難。
おそらく通り雨だろうということで、雨宿りをすることにした。
この後、どうしようかという話になる。
当初は永観堂へ行こうと思っていたのだけれど、すでに16時半。
おそらくこの時間だと、夜間拝観まで待たなければならない。
もう紅葉は十分見られたということで、祇園のほうへ繰り出すことにした。
10分ほどで雨が止み、いざ出陣。
せっかくなので、八坂神社にちょっと寄ってから、四条通りへ向かった。
夕食を食べるには少し早いので、カラオケに行くことに
今年初のカラオケ!!(って、今年も残り1カ月ちょっとなのに。笑)
ここへきて、アタシのテンションがMAXになった
いや~、ホント好きなんですよね~、歌が。
いつもおじ様たちと行く飲み屋では演歌ばかりのアタシも、同年代の人が相手だと、ちゃんと最近の曲を歌えるのです。
「うわー、緊張する……」
「え、なんでですか??」
「いや、僕もカラオケは大好きなんですけど……女性と2人っていうのが実は初めてで……」
「え~!!」
びっくりでした。
てことは、これまで女性とのデートでカラオケには行ったことがないってことか。
「いいんですか? 今年初のカラオケの相手が僕で」
「いいんですか? 初めて女性と2人で行くカラオケの相手がアタシで(笑)」
「いいに決まってるじゃないですか」
「アタシも、このまま今年は行けないんじゃないかって思ってたのでうれしいです!」
部屋に入ると、いきなりKinKi Kidsの「スワンソング」が!!
思わず「キャー!」と叫ぶアタシ(笑)
どうやらCMだったようで。
そこから好きな歌手の話になり、アタシはその彼が挙げた大塚愛、BoAなどを織り混ぜて……最後に、一番好きだという倉木麻衣で締め。
ホントに好きらしく、かなり喜んでくれて、アタシ自身もうれしかった。
あ、基本的に男性の歌は歌わないのだけれど、堂本光一君の「妖 ~あやかし~」だけは、PVを拝むために歌ってしまいました
2時間歌い、19時すぎにカラオケ店を出る。
夕食のお店を探しながら、三条通り、河原町通り、新京極をブラブラと歩いた。
「あー、どうしよっかな……」
「ん?」
「いや、んー」
「どうしたんですか?」
この日、何度目かのこの彼の逡巡。
とにかく、言おうとしてやめて……というのが多かったのだ。
「あの僕……、まだ会って2回目でおかしいって思うかもしれませんけど……栞さんのこと、好きになってしまいました……」
こういう“ちゃんとした告白”をされるのは、学生のころ以来だった。
「彼氏がいるっていうのもわかってるし、でも、ちゃんと言いたくて……。はぁ、言えてよかったです」
なんとなく好意は感じていたけれど、あらためて言われると、やっぱり少し戸惑った。
「ホント言うと、これは信じられないかもしれないけど、(結婚式場への)行きのバスで見かけたときから……」
「え!? ていうか、あのとき会話してないですよね?」
アタシの記憶が正しければ、乗るときに一度だけ顔を合わせただけだったような……。
「はい、だから、いわゆる一目惚れです……」
「えーーーー!」
「いや、信じてもらえないとは思うんですけど……行きのバスで、綺麗な人だなって思って、それから帰りのバスで彼氏がいるって聞いてちょっと落ち込んで、ホテルのロビーで話したときに、なんかすごい仕事できそうな人だなって尊敬して、二次会で話してるうちにどんどん好きになってしまって、そして今日、こないだとは違うかわいらしい部分を見て、自分の気持ちを確信しました」
一気にまくし立てられた。
「でも、忘れないといけないんですよね。とにかく言えてよかった。2週間、ホントありがとうございました。もう、会うこともメールすることもないと思いますけど、一生の思い出になりました」
「え?」
びっくりして、彼の目を見た。
無理して笑っているのがわかる。
「なんか、そんなの寂しいですよ……」
「えっ、じゃあ、会ってくれるんですか?」
「……それは……○○さんが後悔しないなら」
これは、アタシがメールでも言い続けてたことだった。
彼氏持ちのアタシと遊んで、どうにもならない思いを抱えて、後悔するんじゃないかと思ったから。
「後悔は……すると思います。栞さんとメールをしてるとき、後悔の意味をよくわかってなかったんですけど、今、それをすごく感じていて。あー、こういうことだったのかと。でも、それは後の話で、今はすごく幸せな時間を味わってるので、後悔してもいいです」
「……」
「でも、よかった。告白なんてしたら普通、嫌がられるのに、栞さん、ちゃんと聞いてくれて」
「そんな、嫌いって言われるのならあれですけど、その逆で嫌がる人なんていないでしょう?」
「いやでも、彼氏いるから、そんなこと言われてもどうにもならないって。すみません」
「謝らないでくださいよ」
「すみません……あ。僕、よく怒られるんですよね、『すみません』が多いって(苦笑)」
この彼らしいな、と思った。
ホント真面目で、まっすぐ。
なのに、アタシが傷つけているのかと思うと、いたたまれなかった。
「彼氏って、どんな人なんですか?」
「え、聞きたいですか?」
「んー、聞きたいような、聞きたくないような……。でも気になる……。歳は?」
「3つ上です」
「てことは、32歳か……。どこに住んでるんですか?」
次から次に質問される。
場所を言うと、
「あー、だから休みの日でもあんまり会えないんですね」
納得された。
「何年付き合ってるんですか?」
「……もうすぐ8年ですね」
「8……年……。はぁ……」
大きなため息をつかれた。
「やっぱり聞くんじゃなかった……。結婚しないんですか?」
「ねぇ。まぁ、向こうがその気になったらって感じですかね」
「じゃあ、もし待てなくなったら……いや、何でもないです、すみません」
また謝る。
「こんなこと訊いていいのかな。8年でしょ。今の彼氏は初めての彼氏ですか?」
「え、いや……」
「あ、やっぱり困りますよね、こういう質問。すみません」
「いや、いいんですけどね。……初めてではないです」
なんか、気恥ずかしかった。
「でも栞さん、モテるでしょ?」
「そんなわけないですよ(汗)」
「でも、8年の間に他の男性から言い寄られたりとか、あったでしょ?」
「んー、どうでしょうね」
「ほら、否定できない」
アタシがはっきりと答えられなかったのは、それが妻子持ちだったから。
あれ は“若気の至り”、この一言に尽きる出来事だった。
20時。
夕食は、高島屋の飲食街にある洋食のお店で摂ることにした。
昔、レストランでコックをしていたことがあるらしく、味には厳しいと言っていたのだけれど、このお店は大満足だったようで
ただ、チーズハンバーグなのにチーズの味があまりしなくて、チーズ好きとしてはそこが不服だったらしい。
食に執着のないアタシにとって、そういうこだわりは未知の世界でおもしろいなと思った。
そうそう、この食事のときに、mixiの「サンシャイン牧場」の話になり(笑)、同じく中毒ということが発覚。
しかも、アタシがやっている「動物パラダイス」も「みんなの動物広場」もやっているということで、育て合いをするため、その場でマイミクになることに。
「なんか共通点が多すぎてびっくりです。だから余計に……」
ホントに、話せば話すほど似ている部分が多くて、もしかすると、前世で血のつながりがあったりするのかな、とも思え……。
彼がアタシに一目で好意を持ってくれたのも、そういうところに一因があるのかもしれない、と。
21時すぎにお店を出て、この彼の希望で、何年ぶりかのプリクラを撮ることに。
思い出にしたいと言われては断れず……。
それにしても、いや~、びっくり。
今のプリクラってすごいですね
2人して戸惑いながら、機械をいじっておりました。
どさくさにまぎれて顔を近づけられたりもしたけれど、ま、思い出ということで……。
「はぁ、8年かぁ……」
阪急のりばまでの道すがら、ため息をつくその彼。
アタシは苦笑した。
「8年じゃ、無理ですね……」
「じゃあ、何年なら無理じゃない?(笑)」
「それを言わせないでください(苦笑)」
情けない声で彼が言った。
「僕にもっと自信があれば、奪ってやる、とか言えるんですけど」
「そんな自信家じゃないほうが絶対いいですよ」
「彼氏はどうなんですか?」
「えー、どうなんでしょうね……。でも、自信家というか、傲慢な人は嫌ですねー。だから、そんな自信なんてなくていいんですよ」
「はぁ、優しいなぁ。そういうフォロー上手なところも好きです」
もはや、何を言ってもそう受け取られてしまうようで。
「僕のこと、少しは好きですか?」
「それ、聞きます?」
「いや……やっぱいいです……」
そりゃあ、生理的に受け付けない人とは、いくら付き合いでも、手なんかつなげない。
でも、それを言っちゃうと、変に気を持たせてしまいそうで、言うのは控えた。
「……もうしばらく、好きでいていいですか?」
「……見込みがなくても?」
「……はい」
「……なんかアタシ、めっちゃズルい……」
「いや、そう言わせてるのは僕なんで。栞さんは、ちゃんと無理ってことを言ってるのに、僕が……すいません」
また謝った。
可笑しくなって、噴き出す。
「でも、すごく久しぶりに人を好きになりました」
「あ、前の彼女といつ別れたって言ってましたっけ?」
2週間前、結婚式場から帰るバスの中で、そんな話もしていたのだ。
「もう5年になりますねー。僕が今の会社に入ったときに別れたので」
遠距離恋愛に耐えられず、別れを切り出されたと、確かバスで話していた気がする。
「じゃあ、それ以来? 5年ぶりですか?」
「はい、そうですね。まぁ、出逢いがないんで」
正直、モテそうな気がするのにな、と思う。
出逢いさえあれば、アタシなんか忘れるぐらい、いい人といい恋愛ができるはず、と。
「そっか、栞さんは、友達という意識で今日の食事の誘いをOKしてくれたわけですもんね。わかってはいるけれど、あらためて思うとそれがショックというか……」
「……すみません」
「いや、謝らないでください。栞さんは悪くないんです。彼氏がいるのをわかってて誘ったのは僕ですから。……だから、その意識のままでいいので、また会ってくれませんか? よかったら、今度は神戸のほうへ」
なんだか胸が痛くて、拒むことはできなかった。
「来月、空いてる日ありますか?」
「あー、来月の予定は、月末にならないとわからなくて……」
「仕事ですか?」
「いや、アタシのじゃなくて……」
口ごもってしまう。
「彼氏ですか」
「……シフトがね、あるんで。一応、その日だけは空けるようにしてるんです」
「なんか栞さん、めっちゃ尽くしそうですもんねー」
「えー、どうなんでしょうねぇ。でも、そうしたい、そうありたいって気持ちはある、かな」
「彼氏がうらやましい。幸せでしょうねー、栞さんに尽くされて」
「いや~、そんなこと思ってないでしょうけど」
女は追いかけられるほうが、愛するより愛されているほうが幸せだと言うけれど、アタシは愛されるより愛したい。
自分のほうが好きだと思っていたい。
だからやっぱり、アタシには今の恋人がちょうどいい。
「ん?」
「すみません、ずっと見てました……」
「ふふ、何か見られてるなって思いました」
「やっぱり綺麗だなと思って」
「もう、何言ってるんですか(笑)」
軽く腕を叩く。
こんなふうに言ってくれる人もうれしいけれど、やっぱり……。
阪急の烏丸駅に到着。
彼を見送ってから、アタシは地下鉄に乗った。
帰宅後のメール。
“告白は、栞さんの重荷になるようなら忘れてください。僕もいい友達と思えるように頑張ります”
こんないい人を、アタシは無駄に傷つけてしまったのだろうか。
また会ったら、さらに傷つけてしまうのだろうか。
でも……。
もうなんだか、わけがわからなくなってしまった。