「あたしねー、最近ひとりで生きて行くにはどうすればいいかを考え始めててさー」


加奈子(仮名)が突然そう言った。

意外だった。


「ヤツと去年、婚約破棄になったやん。それで、今年の1、2月ぐらいまでは婚活とか頑張ってしてたんやけど、全然ダメで。付き合ってほしいって言われた人はいたんやけどね、ちょっと合わへんなって人やって断ったんよ。で、4月ぐらいにふと、“あたしこのままでいいんか?”って思って」

「うん、わかる」


瑞恵(仮名)が同調する。


彼女たちは高校の同級生で、演劇部仲間。

昨日、ウチに遊びにきたあと、車で10分ほどのショッピングモールで食事をしていたときのことだった。



「もうすぐうちら、30やん? このままやとあたし、結婚もしない、子どももいない、キャリアもない、何ひとつ持ってへんまま30歳を迎えることになると思ってさ」

「うん……」

「だから、キャリアアップしようと思って。男はいらない」

「え! いらんの!?」


どちらかといえば、“恋に生きる”感じだった彼女。

まさか彼女の口からこんな言葉が出るとは思ってもいなかった。



「うん、いらない。ていうか邪魔(笑)」


決して投げやりなふうにも見えなかったので、本気でそう思っているんだとわかった。



「そっかー。アタシはキャリアアップなんて考えたこともなかったなぁ……」


自分に照らし合わせ、ちょっぴり反省する。


「あたしも去年まではね、結婚するってずっと思ってたから、キャリアアップなんて考えもせんかったねん。でも今のあたしにはこれを頑張らんかったら何にもないからさ」

「じゃあ、加奈子は、結婚したら仕事は辞めるつもりでいたん?」

「うーん、子どもができるまでは……あーでも、たとえ子どもを産んでからも仕事を続けてたとしても、キャリアアップなんて考えんかったやろな」

「そっかぁ、そうなんや~。今のアタシがちょうどそんな感じかも……」


もちろん、もっと質のいい仕事をできるようになりたい、という思いはアタシにだってあるけれど、ステータスにはまったく興味がない。

陣頭指揮を執るのが性に合わず、補佐的な役回りのほうが落ち着くのだ。


仕事が好きだというのもその一因かもしれない。

好きなことができているだけで幸せだから、それ以上を望む気になれないというか……。



「でね、そのためにはまず自立しなアカンよなって、瑞恵ちゃんともこないだ話してたんよね」

「そうそう」


2人はうなずき合った。


「だから、ひとり暮らししようって思ったわけか」

「そうそう。今日はホンマ、栞の部屋を見せてもらっていろいろ勉強になったわ。もう少し頑張ってお金貯めよ」
「でも瑞恵は東京のほうやし、参考にならんかったよな(笑)」

「まぁ、家賃とかはあれやけど、生活の面ではすごく参考になったよ」


彼女は東京に生活の基盤を移し、演劇を本格的にやりたいと思っているらしい。

この日も朝から、地元主催のミュージカルの説明会に行っていたんだという。

公演がある3月まで、これから毎週レッスンがあるようで、なんだかみんな頑張っているんだなと感じた。





――彼女たちと会うのは昨年の秋以来。

待ち合わせは13時、ウチの最寄駅だった。

瑞恵はミュージカルの説明会が少し長引いたようで、13時半ごろに到着した。


それから近くのデパートのレストラン街でランチナイフとフォーク

久しぶりに会ったということもあり、かなり長時間語り合った。



16時ごろデパートを後にし、いよいよウチへ家

彼女たちは、駐車場やら宅配ボックスやらを隈なくチェックしていた。


部屋に案内すると、まずは玄関付近を調査され……(笑)

そして、アタシがランチのときに7日の花火 の話をしていたので、ベランダのほうへ移動し、


「あー、これは見えるわ! だってあれが目の前のホテルやもんなぁ!」


などとはしゃぐ彼女たち。

その後、バス、トイレ、洗面台、キッチンなどをひとしきり見回り、ようやくティータイムとなった。





素直な女になるために……-モロゾフゼリー

加奈子が手土産として、モロゾフのマスカットのゼリーを持ってきてくれたので、アタシはミルクティーを淹れることにした。



このゼリー、味が期間限定らしく、また中がすごくかわいいのですラブラブ



素直な女になるために……-星型のパイナップル

こんな、星型のパイナップルが入っているんですよねー流れ星




ひとり暮らしの初期費用として、どのくらい必要かと問われ、記憶が曖昧だったアタシは、契約書や家具、家電製品を購入したときのレシートなどをクローゼットから引っ張り出し、公開した。


また、便利グッズやアタシなりの節約術などを伝授。


東京に住もうと考えている瑞恵はともかく、加奈子のほうは、ウチのすべてが気に入ってくれたようで、


「もうこのマンションの別の部屋に住もうかな。家具も家電製品も全部マネっこするかも!」


なんて言いながら、ホントにケータイで物件検索をし始めたり(笑)


現在は4階と6階に1室ずつ空き部屋があるらしく、でもウチの眺めを見てしまうと最上階がいいようで。

ま、最終的にどうなるかはわからないけれど、アタシのひとり暮らし生活も少しは参考になったのかなと思うとホッとした。



19時を回ったので、食事をしにアタシの車でショッピングモールへ。

ここは一応、西日本最大と言われていて、ものすごく広い。

レストラン街も遅くまでやっているので、ゆっくりできるかなと思ったのだ。


エスカレーターを下っていると、瑞恵が、


「“LIZ LISA”はさすがに着れんわぁ……」


とつぶやいた。


“LIZ LISA” は、比較的かわいい感じのブランド。

加奈子もアタシもそういう系統が好きなので、


「えー、大丈夫やってー。あたしは何歳になってもピンク着るから!!」

「うんうん、アタシも! かわいいの大好きやし、ずっと着たいもんね~!」


と大反論(笑)


「いいなぁ、そんなん着れて(笑) 私は大人チックなのがいいかな。そことか」


と言って、彼女が指さしたのは“ARROW”


「あー、瑞恵ちゃん似合いそう!!」

「確かに。瑞恵は大人チックなのが似合うもんねー。あ、安売りしてるで!」


瑞恵は演劇部時代はいつも、男役を演じていた。

長身でショートカット、普段はとてもおとなしいのに、演技を始めるとガラリと人が変わったようになった。

演劇部への入部も、自らの意思で決めたらしい。


一方の加奈子とアタシは、“流れ”で入部した。

加奈子は友人に付き合って、アタシは、友人と入る部活を悩みながら、体育館や運動場のあたりをうろうろしていたときに、先輩に勧誘をされたのがきっかけだった。


今、アタシも加奈子も普通のOLをやっているけれど、瑞恵は演劇の世界に戻ろうとしている。

これが本気度の差なのだろうか。


でも、真髄の部分は10年前とちっとも変わっていなくて……。

なんだか変な感覚だった。




さんざんしゃべったというのに、レストランに入ってからも話は尽きず、アタシたちはそれからさらに2時間ほど、そこに居座っていた。


話題はもっぱら、“ひとり暮らし”と“男選び”。


ひとり暮らしについては、彼女たちの質問に答えるというのが主だった。


部屋探しの譲れない条件を訊かれたのだけれど、アタシの場合、今のウチは恋人が選んでくれたわけで、“オートロック”や“エレベーター”といった設備条件、それから周辺環境などの立地条件もすべて彼の指示だった。

おかげで快適な生活が送れているのは間違いないので、だから彼女たちには彼からの受け売り的な話をした。


それから、高相祐一・酒井法子夫妻、押尾学さんの逮捕劇の話題になり、「やっぱり男選びは重要だ」という結論に。


「でも、加奈子はもう懲りてるやろ?」

「うん、もう懲りごり。元彼もどっちかというと押尾タイプやったしね」

「そら懲りるわな。だって9年やもんな……」

「でもね、みんなから『加奈子は危ない』って言われるねん。『変な男に引っかかりそう』って」

「だけど、加奈子も俺様系嫌いやん。そしたら大丈夫やって」

「うん、大丈夫やと思うよ」


瑞恵もフォローをしてくれる。


「一番危ないのはあゆちゃん(仮名)やな」

「そやねん。押尾の顔から性格から、とにかくすべてがタイプらしいから。あと海老蔵と……」

「今まであゆちゃん彼氏は?」

「いたかもしれんけど、聞いたことないねん。だから、彼氏ができたらうちらが面接するって言ってるねん」


加奈子にはしょっちゅうつるんでいる仲間がいて、全員が高校の同級生で、アタシも知っている人ばかり。

そのうちのあゆちゃんという子が、非常にミーハーで、好きな芸能人、アーティストが多く、本命の市川海老蔵さんにいたっては追っかけまでしているらしい。


2番目に好きなのが押尾学さんで、先日逮捕された後には、仲間に、“押尾ショックから立ち直れません”というメールを一斉送信したんだとか。

でも、誰ひとり返信をしてあげていないというから、少しかわいそうな気も……。



「そういえば、最近、亮子(仮名)にも彼氏ができたらしくて」

「マジで!!」

「おぉ!」


あまり浮いた話を聞いたことがなかった子だったので、アタシも加奈子も思わず身を乗り出した。

そして彼女も元演劇部(うちの部、同学年だけで20人以上いました)。


「でも、こないだ会ったとき、一切彼氏のことについて触れへんかったから、どうなってるんかよくわからんねん」

「え、どういうこと? うまくいってないのかな?」

「最初に聞いたときも、『うーん』とか言ってて、なんかパチンコが趣味とかどうのこうの……」


アタシと加奈子は顔を見合わせた。


「ちょっとー、亮子説教せんとアカンちゃう? ここに呼び出したいぐらいやわ。近いうちにまた集まろうよ、亮子含めて」

「そやねー。これは詳しく話聞かんとアカンなぁ! 再び女子会やね!!」

「うん、女子会、女子会♪ 瑞恵ちゃん、ちゃんと亮子連れてきてや」

「うん、わかった。連れてくるわ」




結局、21時半までレストランでおしゃべりし、瑞恵がケータイの電池残量が残り少ないというので、施設内のドコモショップで充電をしてもらうことに。


そして22時すぎ、近々の再会を誓ってバイバイをした。




13時に待ち合わせをしてから7時間ちょっと。

そのほとんどをおしゃべりに費やしたアタシたちって……(笑)



でもすごく楽しい時間だった。



女同士ってなんだかいいな。