「ねぇ、じゃあ、あそこ見える? あそこ見える?」


レーシック手術をした恋人に術後初めて会った火曜日 、アタシは彼に腕枕をしてもらいながら、プチ視力検査とばかりに、目につくあらゆる箇所を指さして尋ねた。


「あそこってどこ? “火気厳禁”って書いてるほう? それとも……」

「え、そんなにいくつも文字書いてあるん? 何せ、見えへんから……。でも、暗くてもやっぱり視力がいいと見えるんやなぁ!」

「見えるで~! もうホンマ、めっちゃ見える!」


アタシは一応、裸眼で生活しているのだけれど、視力は0.2~0.6ぐらい(日によってかなり変動する)。

堂本光一君主演舞台「endless SHOCK」を観劇するときぐらいしか、メガネをかけない。

(コンサートも、席がスタンド3階席のときはかけるかな)



「もうな、日に日に見えるようになるねん。レーシックした次の日が1.5 やったってメールしたやん。その日でも、『うわっ、めっちゃ見えるわぁ!』って思ってたんやけどな、さらに次の日になると、もっと見えてるねん! どんどん靄が取れていく感じで」


彼は、興奮気味にそう話す。


「明日、1週間検査に行くんやけど、今なら2.0たたき出す自信あるわ! こないだより確実に見えるもん」


さも、自分の実力を試すかのように話す彼が可笑しい。


「そうそう、こないだ翌日検査に行ったときにわかったんやけどな……ていうか、レーシックする前の検査のときに、そのクリニックの近くになんか行列ができてたねん。橋の向こうまでずっと続いててさ」

「へ~!」

「でもまぁ、日曜日やし、何か特売でもしてるんかなって思って、特に気にも留めてなかったねんな。そしたらレーシック当日の日も、平日やのにまた列ができてて、何なんやろうって思ってたわけよ」

「うんうん」


もしや、とアタシは思った。

“大阪”で“行列”といったら、思いつくのはアレしかない。


「でな、レーシック翌日よ。また行列ができてたんやけど、何せ、視力が1.5になったやん。それまで見えんかった看板の文字が見えるねん! そしたらな、モンなんたらって書いてるわけよ」


やっぱり!!


モンシュシュ !!」


アタシは思わず叫ぶ。


「そうそう、堂島ロール!」

「へ~、そんなところにあるんやぁ」

「せやねん。俺も知らんかってさ。で、確かによく見たら、そのへんに“堂島”って書いてるねんな。何せ、大阪の地理ってよう知らんしな」

「アタシもわからへん」



堂島ロールについては、先月もこの同じ場所(彼の2つ目の仕事場)で、話題にした ばかり。

でも、どうせアタシが行けるとしても土日、祝日なので、混むこと間違いなし。

積極的に「行こう」とは思わず、いつもは検索魔のアタシが、場所すら調べていなかった。



「それで検査の帰りにな、どのぐらいで買えるんかなって思って訊いてみてん。そしたら『30分待ちです』って言われてさ。15分なら待ったけど、30分はなぁって思って、買わんと帰ってきたねん。まぁ、これからも検査で何回か来るし、そのうちチャンスはあるやろうって思って」


30分で諦めるの~? と、アタシは思ってしまった。

アタシの感覚じゃ、30分待ちなんてめっちゃお得なんですけど……。


「endless SHOCK」遠征や出張なんかで東京へ行った際には、1時間待ちだと言われても、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」 に並ぶアタシ。



素直な女になるために……-クリスピー・クリーム・ドーナツ

(こちらは帝劇から一番近い有楽町イトシア店です)




ていうか、キンキ絡みじゃ、何時間も並ばせられるなんてこと、しょっちゅうあるし。

待てなきゃファンやってけないっつうの!(苦笑)

男性と女性じゃ、そのへんちょっと違うのかなぁ、なんて思ったり。




「明日、30分より短ければ、買ってみるわ。明日も平日やし」

「お~、いいねぇ!!」

「一度は食べたいと思ってたし」

「いいやん、いいやん♪」


自分が食べるわけじゃないのに、なんだか楽しみになるアタシ。



「でもすごいねぇ、レーシックって。看板の文字まで見えるようになるんやぁ!」

「ホンマすごいで。びっくりするで。俺、コンタクトとか1.2ぐらいに合わせてたから、それまでも結構見えてはいたねん。そやけど、全然違う。今日もここ来てさ、廊下の端から向こう側を見ると、これまでは一番奥ってボヤーっとしてたんやけど、くっきりと見えるねん!」

「マジで!?」


彼が2つ目の仕事として働いている施設は、めちゃくちゃデカイ!

(だから、関係ないアタシがうろうろしていてもバレない)


それがくっきりと見通せるというのだから、おそるべしレーシック。


「朝起きるとな、まだ慣れてへんからさ、『あ、ヤバい。コンタクトつけたまま寝てしまった!』って焦るねん(笑)」

「なるほどね~」

「俺、いつも家帰ったらすぐにコンタクト取ってメガネになってたんやけど、風呂入るときについついメガネを取ろうとしてしまったり(笑)」

「そっかぁ、慣れるまではそういうことが起きるわけか」

「何せ、人生の半分以上、コンタクト生活やったわけやしな」


そうか、アタシの光一君ファン歴と同じぐらいなわけか、と思ってみるひらめき電球

そりゃ、なかなか生活は変えられないだろうな(笑)



「じゃあ、(運転)免許の“眼鏡等”も解除やね!」

「そやで~。あれ、俺、今年じゃなかったかなぁ、免許更新……」

「お~、そうなんや! じゃあ、もうすぐやん。『見えてますね~』って言って、“解除”ってハンコ押してくれるで!」


これは実体験。


運転免許(普通)って、片眼0.3以上、両眼で0.7以上という条件がある。

微妙な視力のアタシは、免許を取得のときは片眼ずつ念入りに検査されるため、アウト。

免許証には“眼鏡等”と書かれてしまった。


しかし、更新のときは両眼の簡易な検査なので、それが解除になったのだ。

上記のように、「見えてますね~」と言われ、“解除”というハンコを押してくれた。



「たぶん、今年の8月やと思うねんな、更新。もう、『一番下(2.0)、バリバリ見えてますから!』って言うたんねん!!」

「いやいや、更新のときは、0.7のところしか検査せえへんし(笑)」

「そっか……」


目に見えてテンションの下がる彼。

上がったり下がったり、忙しい人だ(笑)


「じゃあ、まずは明日やね。発揮してきてや」

「おう、2.0たたき出してくるから!」

「うん(笑)」


この単純さに笑えてしかたがない。

ホンマに30過ぎてるの、この人? と思ってしまう。


ま、これは光一君にも言えることですけどね~(笑)



「2.0かぁ、すごいなぁ」

「すごいで~。ホンマ、これであの値段やったら安いもんやわ」

「そやろなぁ……」

「だから……」


彼が急に顔をこちらへ向けた。


「……めっちゃ見えるで」


ジッと見つめられる。


「……やん!」


耐えられず、目を逸らそうとすると、グイッと引き寄せられ、唇が重なった。


まだドキドキしているアタシ。

彼はおかまいなく、味わいつくすようにキスをしてくる。



しばらくして、アタシのカーディガンに手がかかった。

するりと肩の下までずらされる。


腕を引き抜くと、今度はタンクトップの裾から彼の手が入ってきた。

背中をゆっくりと撫でまわされたあと、結局は脱がされる。


アタシが身体を起こし、それらの服を近くの机の上に載せるあいだに、彼は自分のTシャツを脱ぎ、アタシのブラのホックを外す。

乱れた髪の毛を結びなおしていると、彼は急かすように、背中に軽く口づけてきた。

思わず笑ってしまう。



「ねぇ、まだ1週間経ってないんやんなぁ?」


アタシは気になっていたことを口にした。


「ん?」

「レーシックしてからさ、1週間経ってないんやんなぁ?」

「そやなぁ」


1週間以内は軽い運動もダメなんじゃなかったの? と思う。

でも、彼は何も言わない。


「……そっか」


そういうことを口に出すのが恥ずかしくて、結局、ごまかして終わらせてしまうアタシ。

きっとこれは“運動”ではないんだな、と自分を納得させて。


彼に抱きつくと、指の背で胸の先を触られた。

いつもなら見えていないだろうと思って安心していたあれこれが、今は完全に見えているかと思うと、顔が赤くなる。


これが羞恥プレイ!? ←違うだろ(笑)


でも、終始いつもよりドキドキして、彼もアタシもいつもより敏感だったのは気のせいではないと思う。


ヤバい、今後ずっと、彼には何もかもよく見えちゃうんだ……あせる





――果てたあと、彼がポツリとつぶやいた。


「1週間以内の運動はアカンねんけどなぁ(笑)」


だからさっき言うたやん! と思うアタシ。


「大丈夫なん?」

「まぁ、大丈夫やろ。たぶん、汗が目に入ったりするのがアカンのやと思う」

「あぁ、なるほどね。それなら大丈夫やな」



注:これからレーシックする方へ。

  真相はわかりませんよ。

  ホンマに運動そのものがダメなのかもしれません。

  解釈は自己責任でお願いします(笑)




「実は昨日な、風邪気味やってさ……」

「え、また!?」


アタシは驚いてしまう。

風邪、ひきすぎじゃない!?


「まぁ、昨日8時(20時)に寝たからもう大丈夫やけどな。今朝も念のため薬飲んできたし」

「え~、でも、こないだの風邪もかなり長引いてたやん……」

「せやなぁ。あれは長かった」

「もう、働きすぎなんちゃう?」

「いや、単にそういう歳なんやって(笑)」


心配になる。

だって、周りでこんなに頻繁に風邪ひいてる人、知らないよ……。


やっぱり、月に5、6回、この遠距離通勤をしているというのは、かなり負担なんじゃないだろうか。

朝6時前に家を出るって言うし……。



「そやし、今日もちょっと上、着させてもらうわ」


彼はそう言うと、Tシャツとトランクスを身に着け、横になった。





しばらく眠ったところで、珍しく2回戦。


やっぱり“見える”と違うんだろうか?

2回目の彼も、なかなか……(///∇//)……だった。





「あ、ホンマや。こんなところにも文字が書いてるわ」


帰る準備をしているときに、最初にプチ視力検査を行なった文字を確認する。

彼が電気をつけたので、少し遠めからでも今度はちゃんと見える。


「あぁ、そんなん余裕やで」


彼は得意げ。


「じゃあさ、どこまで見える?」

「どこまでって言われてもなぁ(笑)」

「うーん、どこがいいやろ」


アタシは事務所内を見渡し、物色する。


「あ、あれ見えるで。あのプリンタの下のキャビネットわかる?」

「え、どこ?」

「あっち、あっち」


彼がアタシに顔を寄せながら指をさす。

これぐらいのことで意識をしてしまうのが悔しい……。


「キャビネットのところに貼ってる紙あるやろ?」

「あぁ、あった、あった!」

「あそこに“○○課長”って書いてるの、見えるで」

「え? あそこに文字書いてるん?」


アタシは彼の言うキャビネットに近づく。


「ここまで来ても見えへ~ん!」


アタシが言うと、彼はフフッと笑った。


「もっと近づいてみいや」


彼に言われ、さらに近づく。

すると、ホントに書いていた!


「うわ、ホンマや! 全然わからんかったぁ。ていうか、めっさ字ちっさいやん! こんなん見えるんやぁ!!」

「見えるで~」

「これなら間違いなく、明日、2.0やで」

「おう、たたき出すで!」


いつの間にか、彼が後ろに来ていた。

抱き寄せられる。


「今日も来てくれてありがとうな」

「うん、こちらこそありがと」

「そしたら、行こっか」

「うん」


事務所をあとにした。



駐車場で、最後のプチ視力検査!


「ねぇ、ここからナンバー見える?」


アタシは少し先にある自分の車を指さした。


「え、あんなん余裕、余裕!」

「マジで!?」


驚くと、彼は満足そうに笑った。


「アタシ、ここまで来ても見えへん……」


数メートルまで近づいたときにアタシが言うと、


「アカンやん、全然見えてへんやん(笑) ていうか、夜中やし、気をつけて帰ってな」


と言われてしまった。






さて、翌日、彼から入ったメールによると、無事(?)、2.0をたたき出せたようです。

そして、堂島ロールも20分待ちでゲットできたんだとか。


よかった、よかったにひひ