(PI PI PI PI~~~~)


目覚まし時計のアラームを止めようと手を伸ばした。


(あっ、礼拝の時間に遅れちゃう!!)


慌てて飛び起きた私の目に映ったのは昨日まで慣れ親しんだホームの部屋ではなく


かわいいピンクと白に統一された部屋だった。



(そうだ・・・・私・・・・)


今日から本当に一人で何もかもしなければならないのだった。


ベットから出て窓を開けた。


ホームの窓からは海が見えたがこの部屋からは高いビルが見えるだけだった。



(♪~~~)



「わっ!!」


突然部屋の電話が鳴って私は驚いた。


いったい誰?私は恐る恐る電話に出た。



「も・・・もしもし?」


「朝早く申し訳ありません。鶴野です。」


電話は『横須賀太郎』さんの秘書の鶴野さんだった。


「はい・・おはようございます。」


「おはようございます。


 早速ですが横須賀様から貴女様にお渡しするものがございます。


 それから、これからの貴女様の生活についてお話ししなければ


 ならないことがありますので、1時間後、マンションのそばにある


 ファミリーレストランにおいでいただけますか?」


「は、はい・・・・あの~~、お話でしたら鶴野さん、こちらにおいでください。


 わざわざ外でお会いするのも・・・」


「いいえ、女性のお部屋にお邪魔するのは・・・・・」


「あっ・・・」


私は自分の軽はずみな言葉に恥ずかしくなった。


「では一時間後、お待ちしております。」


そう言って鶴野さんは電話を切った。


私は急いで身支度を整えて指定されたファミリーレストランへ向かった。



「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」


店のドアを開けるとウェートレスが私に声をかけた。


「あの・・・待ち合わせで・・・・」


「承知しました。どうぞ。」


私が店を見渡すと入口からよく見える席に鶴野さんの姿があった。



「すみません。お待たせしました。」


「いえ、こちらこそ朝早くにすみません。


 本当でしたら昨日お渡ししなければならなかったのに、


 手続きに手惑いまして・・・」


鶴野さんは私の前に大きな茶封筒を差し出した。


「あの~~これは?」


「どうぞ中をお確かめください。」


そう言われて私は封筒の中のものを取り出した。



その中にはきれいな空の青い色をした携帯電話とその取扱説明書。


そして銀行の通帳とキャッシュカードが入っていた。


「あの~、これって?」


「はい、貴女様の携帯電話と生活費が振り込まれる通帳とカードです。」


「え~っと・・・あの~~~。」


私はとっさに何と言っていいかわからなかった。



「聖・マリアホームのシスター竹内から貴女様が携帯電話をお持ちではないと


 伺っておりました。これからの生活には不可欠と思いこちらをご用意しました。


 そしてこちらの通帳には毎月貴女様の生活に必要な生活費が振り込まれます。


 貴女様はその生活費の範囲で生活なさってください。


 部屋の家賃、学費等は横須賀様が全てお支払いになってらっしゃいますので


 こちらに振り込まれますのは公共料金や食費等、貴女様が生活を送る上で


 必要なものになります。」


「は・・はい・・・」


「全て貴女様がやりくりなさって生活をなさってください。


 横須賀様からはそのように申されてらっしゃいます。」


「やりくり・・・・ですか?」


言われてみれば私は今まで自分が自由にできるお金を持ったことが無かった。


ホームにいる時は食べるものはホームで用意され、洋服などはクリスマスの時に


新しい服を買ってもらうだけで後はボランティアの人たちからの寄付でいただいた


ものだった。


これからは自分で全てをやらなければいけないんだ。


私は少し不安になった。


はっきり言ってお金の使い方がよくわからない。


「少しずつ、慣れていかれますよ。大丈夫です。」


鶴野さんは私の不安がわかったのだろうか。そう私に言った。


「こちらの携帯には私の電話番号とメールアドレスが入っています。


 何かお困りの事があればいつでもご連絡ください。」


「はい・・・」


「それでは私は失礼します。」


鶴野さんは私に一礼すると店を出て行った。


残された私は手元にある携帯を開いてみた。


恐る恐る電源を入れた。


画面が明るくなり黄色いひまわりの花の待ち受け画面になった。


いろんなボタンを押してみた。


「電話帳」と画面に映し出された。


入力されているのは二件。


一件は鶴野さんの番号。そうしてもう一件は「聖・マリアホーム」とあった。



携帯を閉じて今度は通帳を手に取った。


通帳の名義は「聖野ルカ」と記されていた。


中を開いてみると一か月生活するには十分な金額が印字されていて


私は驚いた。慌てて通帳を閉じて自分の部屋に戻った。



ほんの一か月の間で私を取り巻く環境は一変した。



私は机に向かい便せんにペンを走らせた。


『拝啓 横須賀 太郎様


 今日、と、いうか、先ほど秘書の鶴野さんから携帯電話と通帳を


 いただきました。


 私のために本当にありがとうございます。


 私、正直に言います。


 今、すごく不安です。


 こんなにいろいろしていただいて、本当にいいのでしょうか?


 あなたの善意に応えていくにはこれからの生活をしっかりしないと


 いけないと改めて思いました。


 明日はとうとう大学の入学式です。


 どんな出会いがあるのか、どんな生活が待っているか・・・・


 とにかく、今私にできることをがんばります。


 携帯電話・・・使い方がよくわからないのですが、


 今日は一日取扱説明書と格闘してみます。


 また、お便りします。



 聖野 ルカ」




昨日、一通目の手紙を書いたばかりなのに私は手紙を書かずにいられなかった。






つづく・・・・・・・