「A LIFE」第10話最終回 感想 | 感想亭備忘録

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手術シーン、よかったです。

壮大と沖田が協力して手術するシーン。

壮大の術中の口調も独特で個性的で、沖田とは全然違って、それでいて沖田と息がぴったりで。緊張感のある迫真のシーンでした。全10話中の一番の名シーンでしょう。名シーンになったのは演者と演出の力です。素晴らしかったです。

 

ただしよかったのはそこだけでした。キャラクターの造形が、特に沖田と対立する人物の造形が無茶苦茶すぎて何もかも台無しです。その中でも壮大はどうしてあんな性格破綻者というか行き当たりばったりに癇癪を起こす頭のおかしい人物として設定したのでしょう。

 

名シーンである共同手術から逆算すれば、壮大と沖田はもっと対立しているべきだったと思います。正義の医師、沖田と対立してしまうと悪人になるのでそれを避けたかったんでしょうがいくらでも描き方はあったはずです。

病院がひどい財政的危機状態にあり、病院の存続のために患者第一なんて甘い理想を捨てざるを得ず苦悩しながら冷酷な経営者として沖田の前に立ちはだかる姿だったり、運営資金調達のために、望まぬ相手と手を組まざるを得なかったり、嫌悪する相手に土下座する屈辱を味わったり。そういう描写があれば、理想論を振りかざす沖田と対峙して「俺の気持ちがお前にわかるのか」というセリフにも説得力が合ったと思います。

そういう対立を超えて深冬の生命を守るために、二人が共同で手術をする、そうすればもっと感動できたんじゃないでしょうか。

 

不倫してたかと思えば、嫁が大事だと言い出して、自分では手術できないと言いながら、やっぱりやると言い出したかと思えば、沖田に手術を任せると言われて不貞腐れて逃げ出し、大切なはずの嫁の生命が失われるかもしれない手術当日も、僕ちゃん可哀想で自己陶酔。

こんなんで「俺の気持ちがわかるか」と聞かれても、わからないどころか正気を疑うとしか返事のしようがないです。

 

悪い人を描きたくない脚本家なんでしょうね。ホームコメディーとかならそれでもいいんでしょうが、悪人や悪意を描けない人に、善人や善意を描くことは出来ませんよ。そして一見悪人に見える人物の裏に何があるのか、どんな思いで悪とされる行動を取ったのか、そこを描かないと物語に深みも出てきません。

 

羽村も榊原弁護士も悪人を描きたくない脚本家のせいでふわふわフラフラ。意味不明の人物に成り下がっています。弁護士はありゃなんだったんでしょうか。この二人はストーリー上何をさせるために登場したのかさっぱりわかりません。

 

副院長、羽村、弁護士の3人は人としての一貫性が全くないんです。場面場面で悪そうな雰囲気や改心したふうな雰囲気を出しますが悪いわけでもなく改心したわけでもない。時間軸にそって変化していくのではなく、場面場面で何処か他のドラマで見たような悪人っぽかったり、善人っぽかったりする行動を模倣しているだけ。中身のないマネキンでした。

 

でもこの脚本家もダメなところばかりではありません。井川、柴田コンビの描き方はとても微笑ましく、楽しいものでした。(もちろん演者の力がかなり大きいことは否定しませんが。)なので、シリアスなシチュエーションでの息詰まるストーリーではなく、もっと楽しい、悪人の出てこない、対立のないシットコム的な、登場人物たちの微笑ましいやり取りを楽しむドラマならうまく書けるんじゃないでしょうか。

いや、でも「僕の生きる道」シリーズなんかを書いた脚本家さんなんですねえ。

準備不足だったんでしょうか。

今作の脚本は大失敗だったことは間違いないと思います。

 

ところで、壁の穴。

深冬に見せる意味あるんでしょうか。

あの穴。

副院長の心にも穴?

不倫してた弁護士が死にかけてる正妻にそれを言う?

 

最後は強引に丸めたというか、何もかも無かったことにしましょう的な終わり方でしたね。始まる前はキャスト的にも題材的にもかなり期待していたドラマだったんですが、とても残念です。