浅井さんのドーバー海峡横断泳挑戦(サポート)報告:その① | (帰ってきた)ロンドンを走るオヤジのブログ!

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ご縁あり4.5年ぶりにイギリスに戻ってきました。ランを中心に気が向くまま、当地での生活を綴ります。

開催式を間近に控えてオリンピック熱気が高まるここイギリスで、7月26日(木)、一人の日本人青年がドーバー海峡(Strait of Dover)横断泳に初挑戦した。 


彼の名前は浅井弘樹(あさい・ひろき)さん。 縁有って、浅井さんのドーバー挑戦を船上からサポートさせて頂く事になった 


この浅井さんのドーバー海峡横断泳挑戦の(サポート)記を三回に分けて報告をしたい。


ドーバー海峡(下の地図参照)は、イギリスとフランスを隔てるイギリス海峡の最狭部に位置しており、緯度(北緯51度)は日本付近で言うとサハリン(樺太)中央部に相当するが、大西洋を流れる暖流の影響で季候は(比較的)暖かい。


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海峡の距離は、最短部(イギリス側のドーバーからフランス側のグリ・ネ岬)で34KMだが、潮流の流れが速く、実際に泳ぐ距離は、50-60KM程度とされ、低水温(16℃)と長時間遠泳の肉体・精神的な疲労などの障害要素から、横断泳の成功率は6割程度だそうだ。 ウルトラ・スイマーにとってドーバーとは、「聖地」(浅井さん)のようなものらしい。


(卑近な例で恐縮だが、水温16℃というと、練馬の自宅付近の銭湯「大富湯」の水風呂の温度と一緒じゃないか!サウナ後にザブンと入っても、余りの冷たさに10秒と我慢できない水温の中、10時間以上泳ぐのかと思うと、それだけで私は卒倒しそうになった。)


また、記録が公認される為には、水着(ウェットスーツはNG)を着用し、己の力のみで完泳する必要がある。浅井さんのお話では、日本人でこれまでドーバー海峡をソロ(単独)で完泳した人は、これまで14人しかいないそうだ。 それぐらい大変な挑戦なんだと妙に実感する。 


Endurance系のスポーツの中でも、非常にハードルの高い挑戦であると言って間違いない。


浅井さんは、この挑戦を二年越しで準備されてきたそうだ。 その内容は、寒い水温対策として、皮下脂肪をボディーに付ける為に、食事回数を一日5回まで増やして、体重を55KGから2年掛りで70KG(+15KG)まで増やしたり、厳寒の三浦海岸で6時間、20KM以上泳いだりという。 極めつけは、海に慣れる為に、昨年、都内から鵠沼海岸(神奈川)まで居を移して週に何度か出勤前に泳いで練習を積んできたそうだ。半端じゃない量の努力と鍛錬を積んで、チャンレンジに臨む、浅井さん。 応援する方も、微力ながら全力でサポートしたい。



前置きはこれぐらいにして、では、早速報告を始めよう。


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26日AM1:50起床。昨晩Doverの宿舎にパリマラのほんださんと一緒に到着したのが23:00前だったので、3時間弱の仮眠時間ということになるが、殆ど眠れず、正直眠い。


浅井さん、サポートのやそじまさん、ほんださん、と私で黙々と朝食を取る。その内、Readingから駆けつけた最後のサポート隊員のりえこさんが合流し、チーム浅井の5名全員が勢揃いした。

朝03:00に宿舎を出発し、Dover港に車で向かう。 車から荷物を桟橋に運び、そこで本日乗船するボート「Louise Jane」号とそのクルーと合流。 荷物を全て船内に搬入して03:30頃に出港、船は港外に出て右方向に進路を取り、本日のスタート地点である「Samphire Hoe」に到着したのは、4時少し前だった。


挑戦開始を目の前にして、船上では終始寡黙に自分の集中力を高めているように見受けられた浅井さんだったが、カメラを向けると笑顔で返してくれた。


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出発地点が近づくと、泳者の浅井さんは、体へのワックス塗り、ゴーグルへの認識ライト装着など準備に余念が無い(下の写真左:左から浅井さん、やそじまさん、えりこさん)。「Samphire Hoe」沖では、クルーのAndy(自称:Big Andy)から、スタート方法の説明を受ける(同右の写真)。


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04:00少し過ぎに、「Luise Jane」号のホーンを合図に、浅井さんのドーバー横断泳が始まった。東の空は僅かに白んできたが、日の出までにはまだ1時間以上ある。 ボートからの照明を頼りに、南東方向に進路を取り泳ぎ始める。(↓の写真) 風が強く吹いているせいか、船上はとても寒い。


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チーム浅井のサポート隊の皆さん。 下の写真左の左からほんださん(司令塔&データ記録&浅井さんワッチ)、右はやそじまさん(補給食をメインに担当)、写真右は、紅一点のサポート隊員えりこさん(船長との連絡と伴泳担当)。因みに私は、水温確認とピッチ計測、それに浅井さんのワッチ(位置確認)といったサポートを主に担当した。


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出だしはピッチ(一分間のストローク)61と、まずまず好調の様子で、ガシガシ力強く泳いで行く。(写真↓左)  浅井さんの息継ぎは、3ストローク毎に一回、左右順番に行っているようだ。 やはり、息継ぎは左右対称なんだなぁと納得した。 どちらか一方だと、長丁場の遠泳だと体のバランスが悪くなるのだろう。


浅井さんの泳ぎを見たクル―が、「普段見ているイギリス人の男性スイマーは手のストロークだけで泳ぐ人が多いんだが、彼(浅井さん)は足も使っているんだなぁ」などとコメントしていたのが印象的だった。


30分後、進んできた方向に目を向けると、Doverの陸地が随分遠くに見える。 思えば、随分遠くまで来たものだ。更に東の空が白んできた。


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朝5時過ぎに日の出を迎えた。

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遠泳中、基本は20分に一度、水温、とピッチ、そしてGPSによる位置を計測し、そのデータを大きなノートに記録していく。 補給食は40分毎なので、この40分が一つのサポート作業のワン・サイクルとなる。(写真は記録を記入するほんださん)


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ボートの左舷には、ご覧の通り、日本の国旗に「Go for it Japan 2012」というメッセージをあしらったオリンピック応援用の旗を、浅井さんから見える位置にガムテープで固定した。


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クルーの説明によると、写真↓の白+青色の旗は、泳者が居る為に「本船の動きが制約されている」事を示す意味があるそうだ。

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朝07:21分、出発してから5回目の補給食+休憩の時間。 船上からまず、暖かいお湯入りのボトルを、次いで特別食の甘酒入りの袋を浅井さんに向けて海中に投げ入れる。 食事時間は、精々3-4分程度と意外に短い。

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食事を終えて、エネルギーを補給したら、また「Go!」 だ。 特別食の甘酒、実は原料のお米は、浅井さんが日本で自分の手で丹精込めて生産したものだそうだ。この米と麹を日本から持参し、こちらで醸造させたものだ。甘酒には、ビタミンB群、葉酸、食物繊維、オリゴ糖や、アミノ酸類、そして大量のブドウ糖が含まれており、栄養的には点滴とほぼ同じ内容で、「呑む点滴」と称されることもあるらしい。 知らなかったけれど、今日の様な遠泳の補給食としては、どうやら理想的な栄養価を持つ飲み物らしい。 


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泳いでいると、海面に海草の様な植物が群生した塊(下の写真)が流れており、それにぶつかると手が茎に絡まって泳ぎが極端に制約され、不自由になる。 浅井さんは、その都度、海中にもぐってやり過ごしていた。  


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しかし、その後それどころではない大トラブルが我ら「チーム浅井」待ちうけており、危うくチャレンジ中止の大ピンチに立たされるのであった。



(つづく)