67名がヒ素中毒となり内4名が死亡。
私は死刑廃止論者ではありませんから犯人が死刑となることに疑問はありません。
しかし、犯人が林真須美である証明はできているのでしょうか?
前回の痴漢冤罪事件の際判決を下したのは最高裁判所第三小法廷で今回と同法廷です。
その時に無罪を支持したうちの一人が今回の裁判長裁判官である那須弘平氏です。
痴漢冤罪事件の無罪理由は
1.「被告人は,捜査段階から一貫して犯行を否認。」
2.「証拠としては,A(被害者)の供述があるのみであって,物的証拠等の客観的証拠は存しない。」
3.「被害者の行動が不自然である。」
でした。
3.については今回無関係ですから、1.と2.について
痴漢冤罪 和歌山カレー
1.一貫して犯行を否認 信憑性が高い 反省がない
2.証言 被害者証言 不確実な目撃証言
物証 なし なし
証言については痴漢冤罪事件において
「捜査段階での供述調書等の資料に添った矛盾のない供述が得られるように被害者との入念な打ち合わせに努める。この検察官の打ち合わせ作業自体は,法令の規定に添った当然のものであって,何ら非難れるべき事柄ではないが,反面で,このような作業が念入りに行われれば行われるほど,公判での供述は外見「詳細かつ具体的」,「迫真的」で,「不自然・不合理な点がない」ものとなるのも自然の成り行きである」
と述べたのは那須弘平氏自身です。
要するに「証言は当てにならない」ということです。
氏の論に依ると、
「他にその供述を補強する証拠がない場合について有罪の判断をすることは,「合理的な疑いを超えた証明」に関する基準の理論との関係で,慎重な検討が必要である」
とあります。
その「合理的な疑いを超えた証明」に状況証拠が用いられたわけですが、
A.カレーに混入された亜ヒ酸と被告自宅にある亜ヒ酸の不純物の組成が部分一致
B.被告人の頭髪からヒ素を検出
C.被告がカレー鍋の蓋をあけた
D.被告人のみが混入可能
が有罪のの根拠として挙げられております。
A.については「カレーに混入された亜ヒ酸」と「被告宅にあった亜ヒ酸」が同一であることに「合理的な疑いがない」と判断されたものと思われます。
データを見ていないため同一性の議論についてはできませんが、それ以前にそもそも「同一の亜ヒ酸が被告宅以外に存在しない」ことの証明がされていない点が問題ではないかと考えます。
例えば、被告宅に出入りしていた人間が持ち出した可能性がないとも言えません。
(追記:
弁護人弁論に
『中井鑑定は、視覚的にスペクトル図のパターンを比較し、「ほぼ同じ」とか「数倍」など極めてあいまいな言葉で表されるパターンを見るもので、数値的に判断するものではない。』
とありますが、これは指摘の通りで科学に携わる者が学会等でこのような評価をすれば袋叩きにあう(学生実験のレポートのレベルでもダメだしされる)こと間違いなしです。)
B.自宅に亜ヒ酸があり、検出されたからといって直接証拠になるとは思えません。
C.「ヒ素混入は鍋蓋を開けなければできない」は真ですが、「鍋蓋を開けたならばヒ素混入したとみなすことができる」は偽です。
命題が偽であり犯行現場の目撃でもないことから証拠能力はありません。
D.については論外です。
議論するまでもなくこのことについては証明ができません。
すべての住人について当日の行動を再現したということになっておりますが、まず完全再現は不可能です。
登場人物がそろってる保証がない。
全員の証言に虚言がない保証がない。
果たして全員の証言が「詳細かつ具体的」,「迫真的」で,「不自然・不合理な点がない」ものだったのでしょうか?
結局何一つ証明がなされておらず、この件に関して私は「合理的な疑いを超えた証明」であるとは言えないと結論付けます。
犯人が誰であったのかわかりません。
もしかしたら被告が間違いなく犯人であったのかもしれません。
この件に関して、捜査機関の努力は認めます。
しかし、この程度の立証で有罪にできるのであれば誰もが有罪になりうるという危機感をもっています。
結局裁判所も含め捜査機関とマスコミに踊らされた事件であった気がしています。
(弁護人弁論の部分で参考にさせていただきました。)
余談ですがこの裁判の弁護人の一人は光市母子殺害事件で各方面からバッシングを受けた安田好弘氏です。
報道や被害者遺族のコメントなどから悪いイメージを持っている方も多いと思いますが、そのような偏見なしに弁護人弁論を読むと検察が作成した論告よりはるかに説得力を持っております。
私が下手な文でこのようなブログ書く必要もなく弁護人弁論を紹介したほうが良かった気がします。