事務所には俺とYのみが居て、このままだと電話の一本も掛かってくる気配も無かった。あと10分もすれば午後6時、とりたてて急ぎの仕事もないから、きっと定時にあがることになるだろう。
Yはさっきからインターネットで韓国ネタのスレッドを眺めている。
この一年の彼の行動を鑑みると、彼のささやかな趣味は韓国だ。就業時間中であろうと無かろうと、Yは嫌韓の人々の言葉を追いかけた。だが、俺には韓国の経済事情だろうが社会情勢だろうが、民度が低いだとか、異国家を成り立たせる事情に興味など無かったから、会社のパソコンを使って堂々と2ちゃんねるにアクセスするYにいらつき、少しだけ嫌味を言ってみた。
「韓国が好きなんですね」
するとYは小動物の様にビクッとして、あっという間にブラウザを閉じ、「同級生が韓国に留学していますから・・」と、軽薄な言い訳をした。
違うだろ、貴様のそれは近親憎悪だ。同級生が留学しているからと言って、なぜキミが連日、2ちゃんねるをチェックしなければならないのだ。
社会人として、いや、人として未成熟じゃないか・・・
俺は奴からキーボードを取り上げ、ヤフーの検索で「神を見てしまった」を検索した。 「・・・神さまを見たんですか?」
ああ見ましたよ、と簡潔に応えた。
検索結果には妄想の山がずらずらずらっとヒットした。
時計は午後6時を10分ほど回っていた。
「・・・神様って、どこで見たんですか?」
「この事務所の中で」
Yは自信無さげな半端な笑顔で、それが余計に彼を間抜けに見せた。



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