2012.11.27

13時過ぎになって、ようやく名前を呼ばれる。
ここの婦人科は、各先生ごとに部屋を持っているようで
多分、その日は5人程の先生がいた。

呼ばれた番号の部屋に入っても、
中待合という、さらに専用の待合室がありビックリ…。

とりあえず、その場にあった子宮がんなどの本を読んで
適当に時間を潰す。


やっと名前を呼ばれ、N先生と対面。
第一印象は、先生、若っ!だった(笑)

自己紹介で、まず、わたしは産婦人科のがんの医師です、と言われる。
生殖医療分野専門なのかと思っていたので意外だった。

そして、明るく、分かりやすく
卵子、卵巣凍結について説明をしてくれた。

技術云々については、もちろんのことだけれど
それ以前に、自分自身が
女性のカラダについて知らないことが多すぎて恥ずかしくなった。


まず、卵子、卵巣凍結とは?
元々は、ホジキン病、白血病の患者さんのために行っていた医療を
膠原病、がんなど化学療法を受ける患者さんのためにも出来るようにと
現在、研究を進めている医療であること。
病気になったことで、諦めていた妊娠や出産の機会を
少しでも多く提供できるように
また、女性としての生活向上のため
ここの大学病院では
2010年から生殖医療専門のチームを立ち上げ
取り組んでいるとのこと。

抗がん剤が全身治療であることは、ご存知だと思うが
抗がん剤が卵巣へ与えるダメージ(卵巣毒性)は
およそプラス2歳。
わたしが今後、5年のホルモン療法を終えて
仮に39歳で妊娠したいなぁ、と思っても
卵巣の機能は、41歳だったりするのだ。
これには、ビックリ。

そういった患者さんが、この医療を受けられるのは
現在、関東の2つの大学病院のみ。
これから札幌の病院も参加するとのことで、全国で3箇所になる。
この医療をどこででも受けられるようにと
国内の病院と国に働きかけをしており
2年後には全国で受けられることを視野に活動しているとのこと。



女性は元々、40万個ほどの卵子を持って生まれてくる。
今のわたしの体内に残っているのは、だいたい3~4万個くらいの卵子。
それが半年ほど時間をかけて体内で育ち、およそ500個のうち
自然淘汰され、選ばれた1つが毎月の生理(排卵)で出てくる。
その体内の卵子の数が、1000を切ると閉経する。
わたしの場合、年齢的に抗がん剤による閉経の確率は低いし
自然妊娠の可能性もなくはない。
だけど、抗がん剤では確実にダメージを受ける。
仮に自然に排卵できても、卵子のクオリティは下がりやすい。

日本は、不妊治療においては高い技術を持っているが
卵巣凍結は、ドイツや北欧、アメリカに比べたら
ハッキリ言って、まだまだ研究段階。

また、凍結方法なども、ヨーロッパと全く同じやり方ではなく
試行錯誤しながら、安全で確実な方法を見つけるため
研究しているとのこと。

卵巣凍結の場合、片方の卵巣を手術で取り
その卵巣をいくつかにスライスして凍結。
卵巣に成熟卵子が残っていた場合
培養して、さらにその卵子を凍結保存することも可能。

原発の治療が終わった段階(5年後)、その後、妊娠を希望した段階で
再度、手術により体内へ戻す。
全てを一気に戻すのではなく、スライスした片を何回かに分けて戻す。

移植場所は、卵管や残った卵巣など
確率が高いと言われている箇所へ戻すが
研究段階のため、5年後にはもっと良い方法があるかもしれない。

移植場所に定着し、排卵がちゃんと行われるかなど
半年ほど様子を見るようだが、この期間も、まだ未定。

仮に閉経してしまった場合でも
卵巣移植により、生理が戻る可能性がある(成功事例あり)

生理が戻ることで残った卵巣から自然妊娠の可能性と
移植した卵巣から排卵された卵子を取り出し
受精卵にして体内に戻す妊娠方など
選択肢も広がる。

気になったのは、卵巣を片方取っても
何も異変はないのか、ということ。

N先生いわく、
最悪、元に戻さなくても
もう片方ががんばるから大丈夫(笑)
十分普通の生活が送れるし、女性ホルモンの数値も下がらない。


そして、続けてこう言った。

『卵巣や子宮が2つあるのは
1つなくなっても大丈夫なように
大切な機能を保険として
神様が2つ残してくれたんだって
僕はそう思っています』

それを聞いた時、なぜか泣けてきた。

乳がんになったと告知した友人にこんな話をした。
親世代に比べ、結婚以外の選択肢も広がり
晩婚は当たり前になりつつある今
自分の意思で人生を選んでいるつもりだったけれど
それとは裏腹に、体は生みたがってるんだな、と思った。
本能的に。
根拠はないけれど、
それをいわゆる適齢期にしてこなかったから
ホルモンバランスが崩れたのも、乳がんと関係あるのかな?って
ちょっと思ったんだ、と。

そして、その友人は卵巣嚢腫が見つかったという話をしてくれた。
爪とか髪とか一部のパーツが作られて卵巣に残ってしまう。
結局、これ以上大きくならないようなら
経過観察で良いということらしいが
やっぱり生みたがってるんだよ、体が…という話になった。

その話を何となく思い出した。



卵子凍結についても話を聞いたが、予想していた通り
自然周期では時間がなさ過ぎる。
ホルモン誘発剤を使用することも出来るし
ホルモンの数値が上がらない薬を使うように出来るが
あまり、オススメではないよう。

メリットは、手術しなくて済むこと。
デメリットは、女性ホルモンの増加、排卵のタイミング、
仮に卵巣にがん細胞がいた場合
取り出す際に、バラまいてしまう可能性がある。


一通り、話を聞いて
わたし自身、どうしても子どもがほしいと思っていないこと
乳がんの治療を進めたいこと
これをやることで乳がんの治療をストップしたくないこと
でも、妊娠出来ないと言われると
期待していなかったくせに、可能性にしがみつきたくなる自分がいること…
そのまま伝えた。
この時点で、やるか迷い出していた。


N先生は、婦人科がんの専門医であるため
原発の治療を遅らせてまで、凍結を優先するのには反対。
例えお願いされても、原発の主治医が反対すればやらないらしい。
だから、無理強いもしない。


だが、わたしには迷っている時間がない。
もしやるのであれば
抗がん剤がスタートするまでに終わらせなくてはならない。
12月6日に腫瘍内科の先生と初めて会うことになっている。
その日にスタート日が決まる。
おそらく一週間後の13日。

また、手術日は毎週火曜日。
空いてる枠がなければ、やりたくてもアウト。

チャンスは4日か、11日。
しかし、4日はまだ仕事の予定が入っている。
11日、奇跡的に1枠空いていた。
とりあえず、この状況で一旦悩みつつ
一応、卵巣のエコーだけしてみることに。

N先生は
時間がない中、結論をすぐに出さなきゃならなくて
大変だと思う、申し訳ない、と言っていた。
海外なら、乳がん告知と同時に婦人科とすぐ連携するらしいが
日本の場合、婦人科に来るのはもっと後。
だから、海外なら4~6週間くらい時間があるため
迷うのにも少し時間がかけられるが
日本の場合、2週間くらいしか、いつも時間がないんだ、と。
そこで、一度部屋を出ることになった。


ちなみにオペは、2泊3日程度の腹腔鏡手術。
(オペは2時間以内、体の傷は1cm程度のが3、4カ所)
金額は、自費診療で55万円。
アメリカでは50万円くらい、ドイツでは20万円くらいらしい。
関東のもうひとつの大学病院もここと同程度の金額。
後は、1年ごとに凍結の更新費(ランニングコスト)が3万~5万円程かかる。

体内に移植する際には、また同様の手術で55万円かかる。
(5年後には、価格が上下している可能性あり)




さて…どうしたものか。