フェデリコ・テシオのライバル。
Nobiliti（貴族）に列せられる彼もフェデリコと同じ無爵位のボルゲーゼの一人だと思います。
サッカーのACミランとインテルの本拠地、イタリアミラノのジュゼッペ・メアッツアスタジアムの目の前に、美しい廃墟があります。ツタがからまり、門扉は錆つき、壁は崩れ、その象徴的な時計台の針は１２時２９分で止まっています。
２０世紀の初めに作られたその建物はかつて多くの優駿を繋ぐ厩舎でした。厩舎の名前は、スクーデリア・デ・モンテル。厩舎のかつての主の名はジュゼッペ・デ・モンテル。競馬に情熱を注いだユダヤ人の銀行家。王者フェデリコ・テシオに挑んだ高潔な勇者。
彼は王者フェデリコへの挑戦者であったと私は思います。フェデリコよりも（おそらく）年下で、競馬に興味を持ち、ミラノ、サンシーロ競馬場に隣接するように自厩舎を造ったのは１９１８年のことでした。この頃、イタリア競馬界はフェデリコ・テシオの支配が徐々に確立されだした頃で、勝利数でジュゼッペが勝ったとしても、少数精鋭のフェデリコが権威あるレースを制するような状況のようでした。
生産、所有、調教、騎手とすべて自ら関わる事に拘るフェデリコに対してジュゼッペは、英国や仏国から競走馬を購入。調教師も英国人を雇い、騎手は後にフェデリコ の主戦騎手になる、若きエンリコ・カミーチや、パオロ・カプリオーニらを擁してフェデリコに挑みました。
彼の騎手は黒地に白いステッチの入った服を着ており、白地に赤いたすき十字のフェデリコ・テシオと多くの名勝負を数えました。
DelleanaとErbaのオークス、フェデリコ の最高傑作と言われたCavaliere d'ArpinoやGerardと戦い凱旋門賞馬となったOrtello。そしてフェデリコが生涯最大の屈辱を浴たOrsenigo(活躍する頃、ジュゼッペは追放されていたので、馬主はRazza Ticino、Bianca Verga名義。この名前は後に、リボーの傑作Molvedoの馬主として再び耳にする事になる)
彼らの対戦にイタリア国民は熱狂。サンシーロ競馬場で二人の対決があるときは、テシオファンのテジアーニ、デ・モンテルファンのモンテリアーニに別れ声援を送り合ったと言います。
それは、丁度、サンシーロ競馬場の目の前にやがて建設されるサン・シーロスタジアムでACミランとインテルの対戦に声援を送るミラニスタとインテリスタと同じようなものだったのでしょう。
トリノ生まれの頑固者。背が低く男前とは言い難が、レースでは圧倒的な勝利で人々を熱狂させるカリスマ（晩年のサングラス姿といい、エンツォ・フェラーリに似てなくもない）、フェデリコはトリノ、ミラノを中心に人気があり、ローマに銀行を持ち、高貴、厳格、背が高く、ハンサムなジュゼッペは南イタリアを中心にイタリア全土にファンを持っていたと言います。
そんなファンの反目を尻目に実は二人は大の仲良し。おそらくジュゼッペの方が少し年若かったようですが、お互いを偉大なる人物だと尊敬しあっていました。たとえば、ジュゼッペはフェデリコ から、Scopasの兄弟になるScopelloという馬を購入したりしてますし、フェデリコ はジュゼッペのHavresacやOrtelloを何度も種牡馬として使っています。
しかし１９３８年。ムッソリーニはヒトラーの圧力に負け、イタリア国内の人種隔離政策に手をだしてしまいます。ユダヤ人で銀行家のジュゼッペは真っ先に目をつけられる存在でした。
ジュゼッペは全財産を放棄。そしてサンシーロの美しい厩舎も遺棄されることになります。それに反してフェデリコはファシスト党の上院議員に任命されました。
「あとはよろしくたのむよ」
デ・モンテルはイタリア競馬界から姿を消し１９４４年、ひっそりと亡くなったそうです。
ジュゼッペ最後の地はトレンティーノともペルジーノとも言われますが、偉大なる功績を築いた人物でありながら、あまりにも語られることが少ない人物となってしまいました。
今、かつて彼が建設したサンシーロのスクーデリアは、リノベーションしてホースパークとして再活用しようと計画されていますが、あまり進んでいないのが現状のようです。
最近見つけた資料に、１８９３年当時、フェデリコ・テシオが住んでいたトリノの住所がのっていました。イタリアの古い都市は建物はそのままで中身だけリノベーションされていることが多いので、その住所には今も家があります。
昔短期留学していたときの下宿のめっちゃ近く！見に行きたい！デ・モンテルの厩舎跡地も真横を通ったのにまったく気づいてなかった！
悔しい！写真にわずかでも写ってないかな（＾＾；
サン・シーロの場外。この方向にスクーデリアデモンテルがあるはず…。
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